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5章
50話:舌打ち
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「はっ……俺は一体なにを……?」
クロノスが目を覚ました。教団員一同はヘミュエル四世に導かれ、空の裂け目に飛んで行ってしまったが、小麦畑で身動きが取れなくなったクロノスだけは、掘っ立て小屋のなかで治療を受けていた。
「おう起きたか」
「ナ、ナナジマ先生が快方してくれたのですか! 申し訳ございません……はっ、俺は人間の姿ではなくなっていたはずじゃ……?」
「俺の固有スキルは回復だからな。元の姿に戻しておいたぞ。もっとも、どっちが元の姿なのかよくわかんねぇけどな……」
ナナジマのもふもふとした腕のなかでヒナタが眠っていた。リルに切り付けられ致命傷を受けていたが、ナナジマの固有スキルによる治療が続けられている。外見はケガを負う以前まで復元されていたが、まだ目を覚ましていないようであった。
「ヒナタ先生は……正直目を覚ますまでわかんねぇな。ちゃんとこれまで通り生活できればいいが……」
「許せない……ぶっ殺してやる……」
ぎりり、と、普段はなんでも面倒臭がるヒカゲが、珍しく熱気を帯びていた。
立ち上がり、不慣れな拳銃を握り締めわなわなと震えている。猫耳の毛がこれ以上ないほど逆立つ。
姉のヒナタが切り付けられた以上無理もないが、ナナジマは一度冷静になるよう促した。
「待て待て、そんな殺気立ったって俺らだけじゃなんもできねーよ。いいから落ち着けって。こっちもなにもしない訳じゃねぇんだからよ」
チッ、と、柄にもなくヒナタは舌打ちをし、あぐらをかいてその場に座った。
「一度状況を整理するぞ。えっと……お前クロノスつったっけ? お前はなんでリルちゃんに飛び掛かったんだよ? アンタ子供を殺すかもしれなかったんだぞ? まさかなんも覚えてねーとかいわねえよな?」
「それが……どうしてみなを傷付けようとしたのかわからないんです。そうしようとしたことは覚えているんですが、正直それ以上は……」
「フン……どーせまた思考汚染だろ。クソ、性質悪ぃな。ジラジラ娘がいねーからなにが起きてるか全然わかりゃしねぇ」
ナナジマのいうように訳のわからない状況であった。狭い掘っ立て小屋でみなが項垂れている。ナナジマのすぐ近くでヤクルが反省していた。
「ルルカ……」
ヤクルはあのとき、ヘミュエル四世から「動くとクリスタルを破壊する」と脅しをかけられ、身動きが取れなかった。
よく考えれば、そもそもクリスタルを破壊するつもりであればその場で壊せばいいのだからそのようなことをするはずがないのだが、圧倒され、また一瞬のことであり、そこまで発想が及ばなかった。
自分がなんとかしなければならなかったのに……クリスタルがないいま、いつも助言をしてくれるあの妖精が傍にいない。自分の生きる道を見出してくれた先生もひきこもってしまっている。ヤクルの原動力はそこで大きく損なわれてしまっていた。
「まぁ、盗まれちまったもんはしょうがねぇ。取り戻すしかねぇよ。ただどうするよ? あのジラジラ娘がいねぇのに、ヤクルひとりでなんとかできるもんなのか?」
「あたしがなんとかする。あたしの念話で」
瞬間、ヒナタの猫耳が強く光った。
クロノスが目を覚ました。教団員一同はヘミュエル四世に導かれ、空の裂け目に飛んで行ってしまったが、小麦畑で身動きが取れなくなったクロノスだけは、掘っ立て小屋のなかで治療を受けていた。
「おう起きたか」
「ナ、ナナジマ先生が快方してくれたのですか! 申し訳ございません……はっ、俺は人間の姿ではなくなっていたはずじゃ……?」
「俺の固有スキルは回復だからな。元の姿に戻しておいたぞ。もっとも、どっちが元の姿なのかよくわかんねぇけどな……」
ナナジマのもふもふとした腕のなかでヒナタが眠っていた。リルに切り付けられ致命傷を受けていたが、ナナジマの固有スキルによる治療が続けられている。外見はケガを負う以前まで復元されていたが、まだ目を覚ましていないようであった。
「ヒナタ先生は……正直目を覚ますまでわかんねぇな。ちゃんとこれまで通り生活できればいいが……」
「許せない……ぶっ殺してやる……」
ぎりり、と、普段はなんでも面倒臭がるヒカゲが、珍しく熱気を帯びていた。
立ち上がり、不慣れな拳銃を握り締めわなわなと震えている。猫耳の毛がこれ以上ないほど逆立つ。
姉のヒナタが切り付けられた以上無理もないが、ナナジマは一度冷静になるよう促した。
「待て待て、そんな殺気立ったって俺らだけじゃなんもできねーよ。いいから落ち着けって。こっちもなにもしない訳じゃねぇんだからよ」
チッ、と、柄にもなくヒナタは舌打ちをし、あぐらをかいてその場に座った。
「一度状況を整理するぞ。えっと……お前クロノスつったっけ? お前はなんでリルちゃんに飛び掛かったんだよ? アンタ子供を殺すかもしれなかったんだぞ? まさかなんも覚えてねーとかいわねえよな?」
「それが……どうしてみなを傷付けようとしたのかわからないんです。そうしようとしたことは覚えているんですが、正直それ以上は……」
「フン……どーせまた思考汚染だろ。クソ、性質悪ぃな。ジラジラ娘がいねーからなにが起きてるか全然わかりゃしねぇ」
ナナジマのいうように訳のわからない状況であった。狭い掘っ立て小屋でみなが項垂れている。ナナジマのすぐ近くでヤクルが反省していた。
「ルルカ……」
ヤクルはあのとき、ヘミュエル四世から「動くとクリスタルを破壊する」と脅しをかけられ、身動きが取れなかった。
よく考えれば、そもそもクリスタルを破壊するつもりであればその場で壊せばいいのだからそのようなことをするはずがないのだが、圧倒され、また一瞬のことであり、そこまで発想が及ばなかった。
自分がなんとかしなければならなかったのに……クリスタルがないいま、いつも助言をしてくれるあの妖精が傍にいない。自分の生きる道を見出してくれた先生もひきこもってしまっている。ヤクルの原動力はそこで大きく損なわれてしまっていた。
「まぁ、盗まれちまったもんはしょうがねぇ。取り戻すしかねぇよ。ただどうするよ? あのジラジラ娘がいねぇのに、ヤクルひとりでなんとかできるもんなのか?」
「あたしがなんとかする。あたしの念話で」
瞬間、ヒナタの猫耳が強く光った。
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