ライターズワールドオンライン~非戦闘ジョブ「アマ小説家」で最弱スキル「ゴミ拾い」の俺が崩壊世界でなりあがる~

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5章

49話:城

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 ヒナタがリルに斬られた。呆気に取られるヤクルに反して冷静なのはへミュエル四世と当事者のリルであった。

 一瞬でクロノスの凶行へと時間が巻き戻った。更に悪夢は、ときを重ねるごとにその邪悪さを増していく。

「リルから教祖さまへ。和久井ヒナタを始末しました。絶命する確率九九パーセント。教祖さま次の命令をお願いします」

「領主を殺せ」

 へミュエル四世の命令を機にリルがヤクルを襲う。彼女の刃はあまりに大きく、そして人を殺すに最適な形をしていた。

 ナイフのような形状のそれは彼女の身長よりも長く、ギロチンほどに刃が大きい。

 その刃をヤクルは腕で受け止めた。

「リルちゃ……!!?」

「領主さま、教祖さまのご命令です。大人しく死んでください」

 ヤクルを狙って振り回すリルの刃は、強靭なヤクルの腕でも重かった。とても子供が放つようなそれではない。

 その斬撃すべてをヤクルは受け止めるしかない。

 彼は抵抗できないのだ。これまで一緒に暮らしてきたリルを相手に……。

「フフ……フフフ……フフフフフフ……! 甘い、甘いよ領主七尾ヤクル! すこし優しく振る舞ったらすぐに騙される! リルは の秘蔵っ子だよ? アンタなんかに懐く訳ないじゃないか」

 へミュエル四世がいま浮かべている笑顔は、彼女がこれまで見せていたものとは明らかに違っていた。

 にっこりと笑う朗らかな笑顔から一転、奥歯が見えるほど口角を上げ、眉間に力が入り過ぎて鼻筋にまで皺が寄っている。

「そもそもリルがアンタの野菜を盗んだのは、教団員がアンタたちの領地に名乗り出る動機を作るためさ。 妖精回路はほかの教団員のそれよりも世代が新しいからね。自発的に発想し味方すら出し抜く……!」

「よ、妖精回路……!? そ、それじゃあリルちゃんは……!?」

「アンタと同じ人造人間さ。しかもクリスタルを搭載しゴーレムとしての一面も持つ。どうだい信じていた相手に裏切られる気分は? えぇ?」

「う、裏切るなんて……そんな!」

「さぁ選びなよ。リルに大人しく殺されるまで攻撃を受け続けるか、それともリルを殺して和久井ヒナタを助けるか」

「え、選べないよ!」

「そうだろうねぇそんな風に甘いからこの世界をこんなにぶっ壊されてなお、平和なんて唱えてやがるんだからさァ!!!」

「――」

 へミュエル四世が語気を荒げた瞬間、空が割れた。



 まるでガラスをハンマーで叩いたかのように、ヤクルの頭上が破裂していた。巨大な穴が開き、その内側に白く巨大な建造物が現れた。その建造物にヤクルは見覚えがあった。

「俺たちが飛行船に乗るときに集まった王城……!? 爆発に巻き込まれたんじゃなかったのか……!」

「私の固有スキルは 。いまアンタが見ている城はずっとあそこに浮かんでいたものさ。もっともメイプルが全世界にパッチを施してから王政は崩壊していたから、手にしたのはそのときだけどね」

「そ、そんな……! やはりメイプルがパッチを……!? それにそれってまさか、世界が滅びる前から城を……!?」

「そう! 私がグジパン国王政を支配するために……殺した! 合理的な判断を促されていた連中を殺すのは簡単だったよ! 死ぬ理由を作ってやって、死ねっていったらいとも簡単に死ぬんだもんさ! ははははははははは! 滑稽だったよ! あとは私とメイプルが共謀して、この世界が滅びるシナリオを作った! これでわかっただろ!? デカい野望ワガママを唱え続けたヤツが結局は最後まで生き残るんだよ! アンタみたいななし崩しで領主になったヤツが! でかい顔をするなッ!!!」

 瞬間、ヘミュエル四世がリルと交戦中のヤクルの背後から現れ、彼を思い切り蹴り飛ばした。

 その一撃は、先の機龍のバリアを破壊したヤクルの突進を彷彿とさせる貫通力を秘めており、ヤクルは思い切りと吹き飛ばされ、土煙を上げて小麦畑へ落ちた。

「ぐゎッ!!」

「いいか七尾ヤクル、よく聞きな? 私たちはあの城でヘミュエル教団を再建し、この世界の新しい支配者になる。私を転生させなかったメイプルもまとめて全部滅ぼして、今度こそ新しい世界をスタートするんだ」

 ヘミュエル四世は肩にリルを乗せて宙に浮かんだ。

 二人の身体は明らかに人体改造されたそれであり、ヤクル同等かそれ以上の力を秘めていると見て取れた。

 ヤクルは、ヘミュエル四世に見下されながら、大人しく彼女の言葉を聞いた。

「あとコイツは貰っていくよ」

 ヘミュエル四世の手のなかには、ルルカを秘めたクリスタルがあった。

「ルルカ!」

『ヤクル! アタシはいいから! まずはみんなを!』

「ゴミ拾いが好きなら、精々ゴミみたいな連中と仲良くしてなァ! あはははははははは!!!」



 ――次の瞬間、すべての教団員の背中から、大きな翼が芽生えた。
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