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5章
47話:かっこよさを詰問してダサさを上塗りする独特な現象
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男だったものが飛んだ。その飛翔は飛び立つにしてはあまりに不気味な姿勢から行われ、進む方向を見失っていた。眼前に立っている男に殴りかかるつもりだったのだろうか、あらぬ方向へと跳ねていた。
飛翔物はいまや比喩の域を超えた全身凶器である。アーチ状の軌跡を描き、群衆を飛び越えてリルにぶつかろうとしていた。
『……リルちゃん! 危ない!!!』
ルルカがいうが、遅い。
誰もがその高速で飛翔する巨体と、リルの衝突するさまを予感した。
「ーー」
予感した……が、最悪の結果は免れた。
「領主さま……!」
「ちょっと……そっちは女の子がいるんで危ないですよ、っと」
ヤクルは、クロノスだったものの鋭利な部位を指の腹に掴んで受け止めると、人のいない場所に向けて投げ捨てた。
そしてそれは稲畑のなかに落ちると、起き上がることもできずに暴れた。まるでひっくり返された亀のようであった。
「すごい領主さま、ちからもち……! かっこいいです……! ありがとうございます……!」
「え? 俺? 俺かっこいい? 普通にかっこいい? 割とかっこいい? 意外とかっこいい? 素直にかっこいい? まぁまぁかっこいい? だいぶかっこいい? とてもかっこいい?」
その発言にリルは表情を失ってしまった。リルの後ろを飛ぶクリスタルから映し出されたルルカが、寒い目をしていい放った。
『かっこよさを詰問してダサさを上塗りするな』
「ダ、ダサくない!!! かっこいいっていってるの!!! リルちゃんがそういってるの!!! 俺が自分でいってるんじゃないの!!! 俺はダサくないの!!! リルちゃんの客観的意見なの!!! 俺が自分でいってるんじゃなくて、リルちゃんが俺をカッコイイと評価してくれてるの!!! わかるかな!!! この道理がわかるかな!!!」
そのような場合ではないが、ヤクルはルルカの言葉に必死に抵抗した。一方のルルカは、ヤクルの精一杯の主張から目をそらし、この不気味な状況について考える。
クロノスは……人体改造を施されていた。そうとしか考えられない異常なフォルムと言動。ルルカは自身が人体改造を得意とするため、容易にその推察に辿り着く。
しかし人体にパッチが埋め込まれていることを即座に判別できるルルカが、クロノスの人体改造については見抜くことができなかった。
ルルカは、なにか嫌な予感がしていた。
――ぱちぱちぱちぱちぱち。
そのとき、拍手が聞こえてきた。脈絡を無視して一同の耳にそれは届いた。
女性が歩いてきたのだ。拍手をしながら。
「だ……誰ですか……?」
それはヤクルにとって見覚えのない人物であった。
底の厚いブーツで畑を踏みつけ、不敵な笑みを浮かべ、拍手をしながら近づいて来る。
黒いレザーパンツをクロスさせ、長い髪をなびかせながら軽快に歩く名も知らない女性。
しかし、その衣服にヤクルは見覚えがあった。
「俺と……同じ服……?」
それもそのはず。女性は教祖にしか着ることが許されない、へミュエル教団の神官服を纏っているのだから。
それを見たリルが、驚きながらも述べる。
「きょ、教祖さま……!」
飛翔物はいまや比喩の域を超えた全身凶器である。アーチ状の軌跡を描き、群衆を飛び越えてリルにぶつかろうとしていた。
『……リルちゃん! 危ない!!!』
ルルカがいうが、遅い。
誰もがその高速で飛翔する巨体と、リルの衝突するさまを予感した。
「ーー」
予感した……が、最悪の結果は免れた。
「領主さま……!」
「ちょっと……そっちは女の子がいるんで危ないですよ、っと」
ヤクルは、クロノスだったものの鋭利な部位を指の腹に掴んで受け止めると、人のいない場所に向けて投げ捨てた。
そしてそれは稲畑のなかに落ちると、起き上がることもできずに暴れた。まるでひっくり返された亀のようであった。
「すごい領主さま、ちからもち……! かっこいいです……! ありがとうございます……!」
「え? 俺? 俺かっこいい? 普通にかっこいい? 割とかっこいい? 意外とかっこいい? 素直にかっこいい? まぁまぁかっこいい? だいぶかっこいい? とてもかっこいい?」
その発言にリルは表情を失ってしまった。リルの後ろを飛ぶクリスタルから映し出されたルルカが、寒い目をしていい放った。
『かっこよさを詰問してダサさを上塗りするな』
「ダ、ダサくない!!! かっこいいっていってるの!!! リルちゃんがそういってるの!!! 俺が自分でいってるんじゃないの!!! 俺はダサくないの!!! リルちゃんの客観的意見なの!!! 俺が自分でいってるんじゃなくて、リルちゃんが俺をカッコイイと評価してくれてるの!!! わかるかな!!! この道理がわかるかな!!!」
そのような場合ではないが、ヤクルはルルカの言葉に必死に抵抗した。一方のルルカは、ヤクルの精一杯の主張から目をそらし、この不気味な状況について考える。
クロノスは……人体改造を施されていた。そうとしか考えられない異常なフォルムと言動。ルルカは自身が人体改造を得意とするため、容易にその推察に辿り着く。
しかし人体にパッチが埋め込まれていることを即座に判別できるルルカが、クロノスの人体改造については見抜くことができなかった。
ルルカは、なにか嫌な予感がしていた。
――ぱちぱちぱちぱちぱち。
そのとき、拍手が聞こえてきた。脈絡を無視して一同の耳にそれは届いた。
女性が歩いてきたのだ。拍手をしながら。
「だ……誰ですか……?」
それはヤクルにとって見覚えのない人物であった。
底の厚いブーツで畑を踏みつけ、不敵な笑みを浮かべ、拍手をしながら近づいて来る。
黒いレザーパンツをクロスさせ、長い髪をなびかせながら軽快に歩く名も知らない女性。
しかし、その衣服にヤクルは見覚えがあった。
「俺と……同じ服……?」
それもそのはず。女性は教祖にしか着ることが許されない、へミュエル教団の神官服を纏っているのだから。
それを見たリルが、驚きながらも述べる。
「きょ、教祖さま……!」
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