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5章
46話:なにがしたいのかわからない方々
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畑から声が聞こえてくる。
「だからぁ……いまはミル歴一六〇三年だって! 何度いえばわかるんだよ!」
「違ぇって! 一六五〇年だ! お前こそ何度いえばわかるんだよ!」
大声で話すヘミュエル教団ふたりのもとにヤクルとナナジマとクリスタルが駆け付けた。みながクロノスとアカンを取り囲んでいる。
「あのー! どうしたんですかー!? なんか騒ぎですかー!?」
ヤクルの声は怒鳴り合いにかき消され、当事者たちや取り巻きたちの耳には聞こえなかった。代わりに彼の声に応じたのはその取り巻きを心配そうな目で見つめる、リルであった。
「領主さま……」
「おぉリルちゃん! どうしたの? なにかあった?」
「それが……」
再び目線は言い争うふたりに戻る。それは不思議な問答だった。この時代に検討違いの認識をしており、お互い譲ろうとしない。まるでタイムマシンにでも乗ってきたかのようだ。
クロノスは、いまがミル歴一六〇三年と主張しており、アカンはいまがミル歴一六五〇年だと主張している。
「どうにかしてほしいんです……領主さま……」
「どういう喧嘩だありゃ……いまはミル歴一七〇一年だぞ……」
ナナジマが訳がわからなさそうにしていると、ヤクルたちの存在に気が付いた和久井姉妹が、猫耳をピクピクと反応させ、群衆のなかから顔を出した。
「あーヤクルンやっと来た。僕が呼びに行かないと来ないかと思ったよー。ねーヒカゲー」
「えーヒナタそれだるいし、あたしが言わないといけなかったみたいじゃん。てか来てくれたならいいじゃん」
姉のヒナタの自己主張と、妹のヒカゲの面倒臭がりがぶつかり合って、ヤクルのもとにはなにも伝わってこなかったようだ。ふたりは小説を書く能力と本の売上は一同のなかでは飛び抜けているが、協調性と問題解決能力が極端に低かった。
「和久井姉妹よ……いいからとっとと伝えに来てくれればいいものを……俺らがそんなに信用ならねぇか」
「えー、ナナジマ先生にいってもどうにもならないって、僕は思うんだけど」
姉のヒカゲがいうように、この事態を収束できるのはヤクル以外存在しないだろう。なにせ口論しているのは領地のなかでは大柄なふたりである。両名とも鍬を携えており危険だ。この場合腕っぷしが頼れる人物といえばやはりヤクルである。ナナジマは門外漢だった。
「ば、馬鹿野郎……! 俺だってやるときはやるぞ! 大筒持って来い大筒!」
「でたーナナジマ先生の大筒頼り! 爆破爆破!」
ヒカゲとナナジマが暴論を交えるが、ルルカが釘を刺した。
『あーもーやめやめ! みんな静かに! とりあえずいいから、ヤクルに任せて下がっててよ!』
「お、俺の出番か……! ルルカ俺……どうすりゃいいの?」
『うん、アンタなら殴られようが鍬で叩かれようが大丈夫でしょ。とりあえず暴力に頼らないように仲裁してきて。アンタがやったら殺しちゃうから』
「お、おう! わかったよ……!」
ヤクルはそういうと緊張した面持ちで、いい争うふたりのもとに向かった。
「……」
『……』
しかしたどり着く前、数歩進んだところで当事者たちに声を掛けることなく、不安な顔になりルルカたちへと振り返った。
「……ちゅ、仲裁ってどうやればいいんだー!!!」
『あぁもう……』
ヤクルはそれほど人見知りする訳ではなく、分け隔てなく人に話しかけることができるが、対人経験が希薄であり、彼もまた問題解決能力に乏しかった。まだ領主としての発言力や威厳は持ち合わせていないようだ。
『あー、じゃあ……とりあえず物理でふたりを引き離してー! それならできるよねー!? 優しくねー!』
「わかったー! ケガさせないように気を付けるー! ありがとー!」
ルルカとやり取りすると、ヤクルは再び騒ぎの中心に向けて歩いて行った。
――しかし、次の瞬間、不気味な違和感をヤクルは感じ取った。
「え……?」
いまがミル歴一六〇三年だと主張しているクロノスの様子が突如おかしくなった。
ゴキゴキと骨折するような音を鳴らして、すこしずつ変化し、まるで畳んだ折り紙を広げるかのように面積を大きくしていく。
やがてクロノスはその不気味な骨格を大きく広げると、獣のような咆哮を放ち、飛んだ。
「違うううううううううう!!! 俺がいっていることガ正シい!!! マちガッテいるハズがないンだ!!! チがうンだぁぁぁあアアアアアアアアアあああああああああああ!!!」
「だからぁ……いまはミル歴一六〇三年だって! 何度いえばわかるんだよ!」
「違ぇって! 一六五〇年だ! お前こそ何度いえばわかるんだよ!」
大声で話すヘミュエル教団ふたりのもとにヤクルとナナジマとクリスタルが駆け付けた。みながクロノスとアカンを取り囲んでいる。
「あのー! どうしたんですかー!? なんか騒ぎですかー!?」
ヤクルの声は怒鳴り合いにかき消され、当事者たちや取り巻きたちの耳には聞こえなかった。代わりに彼の声に応じたのはその取り巻きを心配そうな目で見つめる、リルであった。
「領主さま……」
「おぉリルちゃん! どうしたの? なにかあった?」
「それが……」
再び目線は言い争うふたりに戻る。それは不思議な問答だった。この時代に検討違いの認識をしており、お互い譲ろうとしない。まるでタイムマシンにでも乗ってきたかのようだ。
クロノスは、いまがミル歴一六〇三年と主張しており、アカンはいまがミル歴一六五〇年だと主張している。
「どうにかしてほしいんです……領主さま……」
「どういう喧嘩だありゃ……いまはミル歴一七〇一年だぞ……」
ナナジマが訳がわからなさそうにしていると、ヤクルたちの存在に気が付いた和久井姉妹が、猫耳をピクピクと反応させ、群衆のなかから顔を出した。
「あーヤクルンやっと来た。僕が呼びに行かないと来ないかと思ったよー。ねーヒカゲー」
「えーヒナタそれだるいし、あたしが言わないといけなかったみたいじゃん。てか来てくれたならいいじゃん」
姉のヒナタの自己主張と、妹のヒカゲの面倒臭がりがぶつかり合って、ヤクルのもとにはなにも伝わってこなかったようだ。ふたりは小説を書く能力と本の売上は一同のなかでは飛び抜けているが、協調性と問題解決能力が極端に低かった。
「和久井姉妹よ……いいからとっとと伝えに来てくれればいいものを……俺らがそんなに信用ならねぇか」
「えー、ナナジマ先生にいってもどうにもならないって、僕は思うんだけど」
姉のヒカゲがいうように、この事態を収束できるのはヤクル以外存在しないだろう。なにせ口論しているのは領地のなかでは大柄なふたりである。両名とも鍬を携えており危険だ。この場合腕っぷしが頼れる人物といえばやはりヤクルである。ナナジマは門外漢だった。
「ば、馬鹿野郎……! 俺だってやるときはやるぞ! 大筒持って来い大筒!」
「でたーナナジマ先生の大筒頼り! 爆破爆破!」
ヒカゲとナナジマが暴論を交えるが、ルルカが釘を刺した。
『あーもーやめやめ! みんな静かに! とりあえずいいから、ヤクルに任せて下がっててよ!』
「お、俺の出番か……! ルルカ俺……どうすりゃいいの?」
『うん、アンタなら殴られようが鍬で叩かれようが大丈夫でしょ。とりあえず暴力に頼らないように仲裁してきて。アンタがやったら殺しちゃうから』
「お、おう! わかったよ……!」
ヤクルはそういうと緊張した面持ちで、いい争うふたりのもとに向かった。
「……」
『……』
しかしたどり着く前、数歩進んだところで当事者たちに声を掛けることなく、不安な顔になりルルカたちへと振り返った。
「……ちゅ、仲裁ってどうやればいいんだー!!!」
『あぁもう……』
ヤクルはそれほど人見知りする訳ではなく、分け隔てなく人に話しかけることができるが、対人経験が希薄であり、彼もまた問題解決能力に乏しかった。まだ領主としての発言力や威厳は持ち合わせていないようだ。
『あー、じゃあ……とりあえず物理でふたりを引き離してー! それならできるよねー!? 優しくねー!』
「わかったー! ケガさせないように気を付けるー! ありがとー!」
ルルカとやり取りすると、ヤクルは再び騒ぎの中心に向けて歩いて行った。
――しかし、次の瞬間、不気味な違和感をヤクルは感じ取った。
「え……?」
いまがミル歴一六〇三年だと主張しているクロノスの様子が突如おかしくなった。
ゴキゴキと骨折するような音を鳴らして、すこしずつ変化し、まるで畳んだ折り紙を広げるかのように面積を大きくしていく。
やがてクロノスはその不気味な骨格を大きく広げると、獣のような咆哮を放ち、飛んだ。
「違うううううううううう!!! 俺がいっていることガ正シい!!! マちガッテいるハズがないンだ!!! チがうンだぁぁぁあアアアアアアアアアあああああああああああ!!!」
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