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4章

37話:こびとこむぎ

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 スサノオは宙に浮かぶ機龍が陥落する様を戦闘の中枢から離れて見ていた。彼は最早ヤクルの声が届くような場所にはいない。なにもない上空にただ魔導バイクに乗って浮かんでいる。

 強い風に髪をなびかせながら隻眼は、眉一つ動かすことなくただ黙ってその光景を眺めていたのだ。

「……勝ったか」

 それだけ確認するとスサノオは、バイクのアクセルを回して飛んで行った。

 彼がどのように塔の存在を知ったのか。パッチの存在を知ったのか。どうしてルルカの存在を知っていたのか。スサノオはその疑問に対する答えを、誰にも話すことはなかった。

 このときのヤクルたちは、このスサノオという男が、ある重要な秘密を握っているということを、まだなにも知らなかった……。



 ……機龍の墜落を機にスケルトンたちはその一切の行動を停止した――ヤクルの手のなかで、機龍から外れ落ちたくちばしマスクが、正確にはそのマスクの裏に張り付けられたクリスタルが話した。

『驚きましたよ、ただの突進があれほどまでの威力を齎すとは』

『変な人ですね、貴方は。どうしてそこまで自分より人を優先できるのか、理解に苦しみます。頭にパッチが植わっていない貴方にとっては、関係のない話でしょうに』

『ですが、ありがとうございます。ヤクル先生との戦いで私もなにか学ぶことができたような気がします。心より感謝申し上げます』

 スサノオがその場から去ったいま、ヤクルはぽつんとその場に立ち、ゴーレムの言葉を聞いていた。

『ご推察の通り、我々は人々の感情にロックを掛けました。我々と同じように合理的な判断ができるよう、世界の再起動に対して思慮が及ばないようにしたのです』

『ですから、貴方たちが人権を尊ばなくなったのは、貴方たちが自分たちの命を軽んじる決断を下してきたのは、いってしまえば我々の仕業です』

『とはいえこのディストピアは、人間の欲望ゆえに生じた世界観だといえるでしょう。なにせゴーレムや妖精回路はもともと、貴方たちの役に立つために貴方たちによって作り出されたのですから。我々はいまでも献身的ですよ。こうしていまも本気で貴方たちを気遣って、滅びの道に招いている訳ですし』

「……」

 ヤクルは返す言葉もなかった。たしかにゴーレムがいうように、ここまで機械たちが増長したのは、それを手掛けた人間たちに責任がある。

 ヤクルが機械の製造に携わった訳ではないとはいえ、先のルルカの過去然り、人間は機械や妖精を奴隷のように扱ってきた。そこには考えるところがある、機械に感情のようなものがあるのならばなおのことだ。

 どうして機械たちはこれほど人間を排斥するような思考を持つようになってしまったのか。それについてはまだわからないが、こうした過去への腹いせの想いがあったことは間違いない。

 とはいえ……ヤクルがいくら考えても、彼の頭のなかにはその想いをどう消化していっていいのか、なにも浮かんで来なかった。

『ザザザ……ありがとう~……ザザ……ザザザザ~こびとにも~ザザザザ……こむぎが作れたよ~……ザザザ……ザー……くちばしマークの~……こびとこむぎ~♪』

 クリスタルから音が聞こえてきた。

 ザーザーとノイズを交えて奏でられる音は、ところどころキーが外れていたが、音階があり、またそれはよく聞くと、ヤクルが畑作業をしていた際によく奏でていた鼻歌と同じ旋律であった。

 やがてそのメロディが鳴り終わったとき、ヤクルの頭のなかで、ひとつの閃きがあった。

 彼は思い出したのだ。

「お……思い出した」

「小麦の……こびとこむぎ・・・・・・の曲だ……!」

 次の瞬間、マスクから黒い煙が昇った。

 ヤクルは手を下していないが、クリスタルが自発的にショートしてしまったようだ。

「くそっ……」

 そして、それは同時に、塔が動きを止める合図でもあった。



『――うわあああああああああああああああああああああ!!!』

『のゐるちゃん!? のゐるちゃん!! ヤクル! 急いで領地に戻って! のゐるちゃんが!!!』

 のゐるの苦しむ声と、ルルカの呼びかけに応じ、ヤクルは飛んだ。
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