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4章
30話:黒い骸骨
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『ヤ、ヤクルさん……?』
「うぅぅぅう……やっぱり俺、のゐる先生に読んで貰ってよかったです……! 本当にありがとうございます……! 俺やっぱり一生のゐる先生に着いていきます!」
ヤクルは嬉しかった。のゐるの作品をこれまで読んできて、本当によかったと実感できた。憧れの花咲のゐるが自分のことを褒めてくれた。その事実が作品や自分の意見に自信を持てない彼の心に響き渡った。
『あ……ありがとうございます……! でも、どうしてそんなに喜んでくれるんですか……? 私なんかに認められても、そんなに嬉しいものなのでしょうか……?』
対してのゐるはそのように返す。ヤクルを褒めているという感覚こそあったが、ここまで喜んでもらえるものとは、彼女自身思っていなかった。
「だって……俺が推している人がここまで俺を褒めてくれるなんて嬉しくてたまらないからですよ! 俺はのゐる先生を応援したい気持ちでここまでがんばってきたんですから! 俺を小説で楽しませてくれて、俺の小説を認めてくれて……果てはのゐる先生に小説を書く勇気を与えることができたなんて! 俺、嬉しいです! 本当にいま嬉しくて仕方ないです!」
『そんなそんな。過大評価したかもしれないですけど、そういった意味で作品に可能性を感じたので、なにも嘘はついていないですよ。私はヤクルさんには、爆発に巻き込まれて死んでほしくないと思ったんです』
『なるほどね。たしかに自分の赤子を褒めてくれた人を見殺しにするのは後味悪いもんね。それでやっとのゐるちゃんがどうしてヤクルを助けたか理解できたよ』
ルルカは自分に置き換えてその気持ちを汲むことができた。ルルカは小説を書いたことはないが、出雲楓という開発者によって娘のように接して貰い生きてきた。確かに母親の恩人ということならばと、まるで人間が抱くような感情でその恩義への共感を抱いた。
『いまは私がヤクルさんにお世話になってばかりですけどね。それでも、こんなに活躍してくれて……私は、ヤクルさんを助けてよかったって心から想っています。私はスランプに陥って以来自分の小説に自信が持てませんでしたが、またいつか近いうちに小説を書きたいと思っています。そう思えたのはヤクルさんのおかげです……!』
「うぅぅぅうううぅう……あっ、あっ、あっ、うわあああああああああああ!」
『あっ、落ち着いてヤクルさん限界化しないで! ああああ地面に突撃しないでください!!! あああああああ画面があああ!!!』
高速移動の末ヤクルたちが見下すのは骨組みだけの鉄塔である。黒々としたその建造物の周囲数百メートルには初めて見る姿のゴーレムたちが蔓延っていた。ゴーレムたちは骨格だけで構成されている骨の体躯。塔を全方位から守るように集う。
ヤクルがその建造物の数キロ手前の上空までたどり着くと、その異様さが見てとれた。ひたすらに長く続く山道にぽっかりと空いた地面の一角、そこには鉄塔と骨の一団だ。いくらヤクルがルルカから世界最強となるまで改造されたとはいえ、あまりに仰々しく近寄りがたかった。
「うわぁ……ルルカ、アレと戦うの?」
『あぁ、スチールスケルトン・ゴーレムだね。大丈夫だよスケルトンくらい。それよりスサノオだよね、もう近くまで来てる。スサノオがどうやってこの塔を知ったのかも気になるし話を聞いてみたいところだけど』
「いつだってスサノオ先生が殺されるのを待ちたくないよ! 大体スサノオ先生はいまどのあたりにいるんだよ!」
『一応センサーによるとアタシたちとは反対側から向かって来てたから、塔を挟んで向こうにいるよ。ほら、近づいてきた……!』
ルルカがそういった途端、黒いスケルトンたちの一角が、視線の矛先を定めた。塔の奥に集まる骸骨たちが、ヤクルとは反対方向に向けて駆け出したのだ。
『ヤツら音に敏感だからね。スサノオの乗ってる魔導バイクの馬鹿でかい排気音で気付いたっぽい』
「そんな! 助けないと!」
ルルカの言葉に応じ、ヤクルのジェット噴射が塔の真横を飛んだ。風圧を諸ともしない速度の爆走で空を駆けると、ヤクルの相貌にあの作家の姿が見えてきた。
「スサノオ先生! いたーっ!」
眼帯姿の青年は、昨年ヤクルが目にした姿よりも随分痩せており、手製の鞘を背中に納め、ボロボロの布切れをマントのように纏っていた。クリスタルから見ているのゐるには、その姿が中二病らしさに磨きがかかっているように見えていた。
まだヤクルからは距離があるが、整備されていないひび割れたアスファルト沿いに、スサノオのバイクが走っている。
「スサノオせんせえええええええええええええええええええっ!!!」
ヤクルはさらにジェット噴射の出力を上げ、一目散にその姿に向かって突撃し、掴みかかるようにスサノオにしがみ付いて、そのまま地面に転がった。
「うわあああああああああああああああああああああああっ!!?」
猛スピードでぶつかった二人は、数十回転がり側溝に落ちた。
「うぅぅぅう……やっぱり俺、のゐる先生に読んで貰ってよかったです……! 本当にありがとうございます……! 俺やっぱり一生のゐる先生に着いていきます!」
ヤクルは嬉しかった。のゐるの作品をこれまで読んできて、本当によかったと実感できた。憧れの花咲のゐるが自分のことを褒めてくれた。その事実が作品や自分の意見に自信を持てない彼の心に響き渡った。
『あ……ありがとうございます……! でも、どうしてそんなに喜んでくれるんですか……? 私なんかに認められても、そんなに嬉しいものなのでしょうか……?』
対してのゐるはそのように返す。ヤクルを褒めているという感覚こそあったが、ここまで喜んでもらえるものとは、彼女自身思っていなかった。
「だって……俺が推している人がここまで俺を褒めてくれるなんて嬉しくてたまらないからですよ! 俺はのゐる先生を応援したい気持ちでここまでがんばってきたんですから! 俺を小説で楽しませてくれて、俺の小説を認めてくれて……果てはのゐる先生に小説を書く勇気を与えることができたなんて! 俺、嬉しいです! 本当にいま嬉しくて仕方ないです!」
『そんなそんな。過大評価したかもしれないですけど、そういった意味で作品に可能性を感じたので、なにも嘘はついていないですよ。私はヤクルさんには、爆発に巻き込まれて死んでほしくないと思ったんです』
『なるほどね。たしかに自分の赤子を褒めてくれた人を見殺しにするのは後味悪いもんね。それでやっとのゐるちゃんがどうしてヤクルを助けたか理解できたよ』
ルルカは自分に置き換えてその気持ちを汲むことができた。ルルカは小説を書いたことはないが、出雲楓という開発者によって娘のように接して貰い生きてきた。確かに母親の恩人ということならばと、まるで人間が抱くような感情でその恩義への共感を抱いた。
『いまは私がヤクルさんにお世話になってばかりですけどね。それでも、こんなに活躍してくれて……私は、ヤクルさんを助けてよかったって心から想っています。私はスランプに陥って以来自分の小説に自信が持てませんでしたが、またいつか近いうちに小説を書きたいと思っています。そう思えたのはヤクルさんのおかげです……!』
「うぅぅぅうううぅう……あっ、あっ、あっ、うわあああああああああああ!」
『あっ、落ち着いてヤクルさん限界化しないで! ああああ地面に突撃しないでください!!! あああああああ画面があああ!!!』
高速移動の末ヤクルたちが見下すのは骨組みだけの鉄塔である。黒々としたその建造物の周囲数百メートルには初めて見る姿のゴーレムたちが蔓延っていた。ゴーレムたちは骨格だけで構成されている骨の体躯。塔を全方位から守るように集う。
ヤクルがその建造物の数キロ手前の上空までたどり着くと、その異様さが見てとれた。ひたすらに長く続く山道にぽっかりと空いた地面の一角、そこには鉄塔と骨の一団だ。いくらヤクルがルルカから世界最強となるまで改造されたとはいえ、あまりに仰々しく近寄りがたかった。
「うわぁ……ルルカ、アレと戦うの?」
『あぁ、スチールスケルトン・ゴーレムだね。大丈夫だよスケルトンくらい。それよりスサノオだよね、もう近くまで来てる。スサノオがどうやってこの塔を知ったのかも気になるし話を聞いてみたいところだけど』
「いつだってスサノオ先生が殺されるのを待ちたくないよ! 大体スサノオ先生はいまどのあたりにいるんだよ!」
『一応センサーによるとアタシたちとは反対側から向かって来てたから、塔を挟んで向こうにいるよ。ほら、近づいてきた……!』
ルルカがそういった途端、黒いスケルトンたちの一角が、視線の矛先を定めた。塔の奥に集まる骸骨たちが、ヤクルとは反対方向に向けて駆け出したのだ。
『ヤツら音に敏感だからね。スサノオの乗ってる魔導バイクの馬鹿でかい排気音で気付いたっぽい』
「そんな! 助けないと!」
ルルカの言葉に応じ、ヤクルのジェット噴射が塔の真横を飛んだ。風圧を諸ともしない速度の爆走で空を駆けると、ヤクルの相貌にあの作家の姿が見えてきた。
「スサノオ先生! いたーっ!」
眼帯姿の青年は、昨年ヤクルが目にした姿よりも随分痩せており、手製の鞘を背中に納め、ボロボロの布切れをマントのように纏っていた。クリスタルから見ているのゐるには、その姿が中二病らしさに磨きがかかっているように見えていた。
まだヤクルからは距離があるが、整備されていないひび割れたアスファルト沿いに、スサノオのバイクが走っている。
「スサノオせんせえええええええええええええええええええっ!!!」
ヤクルはさらにジェット噴射の出力を上げ、一目散にその姿に向かって突撃し、掴みかかるようにスサノオにしがみ付いて、そのまま地面に転がった。
「うわあああああああああああああああああああああああっ!!?」
猛スピードでぶつかった二人は、数十回転がり側溝に落ちた。
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