ライターズワールドオンライン~非戦闘ジョブ「アマ小説家」で最弱スキル「ゴミ拾い」の俺が崩壊世界でなりあがる~

いる

文字の大きさ
上 下
26 / 82
3章

26話:合理主義という非合理

しおりを挟む
「おう、そうだな。ハイカラ野郎の話はここまでにして、そろそろジラジラの話を聞こうぜ」

『うっさい大筒バズーカ! えぇとじゃあ……先日の思考汚染の話の続きだけれども、教団唯一の高校生以下のリルちゃんは、どうしてお米を盗もうと思ったのかな?』

「はい、ルルカ様……あの、リル、みんながお腹が空いているって、いつもいっているのを聞いていて……みんななにか食べないと死んじゃうと思ったんです……でも教団の畑に生えてるものだけだと、どうしても足りなくて……だからいけないとわかっていたんですけど……」

 涙を浮かべてリルは訴えた。それを受けた食卓に座る者たちの表情は変わらなかったが、ルルカとヤクルはその涙を汲んであげられた。

『そっか。ちゃんと言えたね、偉い偉い。大丈夫、怒ってないよ。聞いての通り、リルちゃんはお腹が空いた教団のみんなのために盗みを働いたそう……はい! これを聞いてナナジマはどう思いましたか!』

 ルルカが指差す先にいるナナジマが驚いた。

「え? 俺? いや、そりゃ……教団のルールだから、本来こいつヤクルが許さなかったら教団のルールに従うのも仕方ねぇ・・・・んじゃねぇのか? ルールには従うのが道理・・だろ。正直まだ俺は、お前ルルカがその娘を助けたことに驚いてるくらいなんだから」

 ナナジマは自身の発言を疑うことなく、素直な気持ちでそう告げていた。

『うん。みんなは? 同じ? 神官も教団のふたりも異論なし?』

 各々がナナジマの発言に沈黙して同意を現した。ルルカが話す言葉の真意を汲み取ることができず、なにを言えばいいのかわからないと思われていたところだ。

『まぁそんなところだろうね。そりゃそうか。だってこれがパッチの影響だなんて考えもしないもんね――普通はルールより人命を優先する・・・・し、もっと人命を尊ぶ・・だなんてさ』

「またパッチの話かよ……んなこといったって、盗みは悪いことに決まってんだろ。なんだ? 今度はアレか? 俺たちは思考汚染の影響でそうやって思うように仕向けられてるってか?」

『そうだなぁ……パッチが植わっていない・・・ヤクルはどう思う? やっぱり救いたい?』

 ヤクルの胴体から声が聞こえた。

「俺は絶対死罪になんてさせないよ! 当たり前じゃん! 死んだらルールもなにもないし、こんな可愛い幼女がそんなことで死んでしまったほうが絶対気分悪いよ! 生きる為だったらどうぞ小麦だって野菜だって幾らでも盗んでもらって構わないよ! 事後報告だっていいし、なんならお礼も言わなくたって構わないよ!」

 ヤクルの胴体は頭部の部品がないまま親指を突き立てた。

 そして彼は、まるで眼鏡でも探すかのように、飛び散った頭部の部品を集めた。

『たしかにルール違反は犯したのはリルちゃんさ。盗みはよくないこと。当然それはそうだよ。でも本来、罰を下すにしても人命を重視した罰則になって然るべきなんだ』

 ルルカの話すことはもっともだった。あくまで常識として盗むべからずを促しつつも、どうしてそうなのかを掘り下げる。

『世界が崩壊した以上、いまは殺しや盗みを縛る法律は存在しない。ましてやヘミュエル教団もいまは教祖なしに集まっているただのコミュニティに過ぎないんだから、無理に戒律ルールに従う必要はないはずなんだよ。アタシたちがルールを作っていいんだ。わざわざあった不便な戒律に、寄せて捉える必要はない』

 ルルカの説明にヤクルが同意した。ヤクルはルルカの誰かを救いたいという発想に共鳴していた。

「俺もそう思う。確かにリルちゃんは悪いことをしたかもしれないけど、でも俺たちが小麦を分け与えなかったら、今度は俺たちがリルちゃんや教団のみんなを見殺しにしたことになる。なにかしらの罰を下すにしても俺はそれだけは嫌だ。そういう風には考えたくない」

『そうだね。頼まれた訳ではないにしろ、教団のために盗みを働いた子どもに、持て余すだけの小麦を分けられないのはアタシも非人道的だと思う。アタシたちの領地が教団の養分を奪っていたかもしれないしね……つまり元々は、リルちゃんが盗む以前にきちんと教団からお願いされていればこじれてなかった訳だ。でもみんなはこの状況で子ども相手に、情状酌量すら無視したうえで、形骸化ないものとされているヘミュエル教団の戒律を持ち出し、それは厳格であると捉えた。盗みイコール死罪やむなしってね。これは異常なことだよ』

 ルルカは「この異常さを自分とヤクル以外が捉えることができないことこそ異常だ」と話したかったが、言葉を選び、そうはいわなかった。それよりもわかりやすさを意識して続けた。

『そもそもグジパンの法律では盗みはせいぜい数年刑務所に入るか罰金程度の量刑だったんだし、子供ならもっと軽い。なのにグジパンが崩壊して、法がなくなったところに旧教団の戒律が入ってきたところで、教団の戒律を優先する発想になるのは明らかにいき過ぎ・・・・だよ。向こうから裁いてほしいといってきているにも関わらず、以前存在していたヤバい戒律をわざわざ持ち出す必要なんてないでしょ。グジパンの法律がないからってカルト教団の戒律を重んじるなんてどんな合理主義さ。許すかどうかはともかく、流石に事務的過ぎて人の心がないんじゃないかな。ってアタシは思うけど』



「そうそうルルカのいう通り……ってあれ?」

 ヤクルはルルカが話す内容に一時は賛同したが、各自の反応を見る限り、彼はこの違和感に不安を覚えてしまった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...