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3章
20話:ナナジマバズーカ先生爆誕
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一年後。
「なんとかかんとかなんとかんとか~なんとかかんとか作れたよ~、っと。ふぅー四キロ平方の田植え終わったー。ん?」
ガサガサ。なにか生物の物音が聞こえたような気がしてヤクルは振り向く。しかし音の主はすぐに逃げていった。
ヤクルが問題にならない動物だろうと放置したところで、反対側からのゐるの声が聞こえてきた。
「ヤクルさーん! ごはんですよー!」
「はーい! のゐる先生いま行きまーす!」
ヤクルは走ってきたのゐるを背中に乗せ、両足をジェット機に変形させると、空を飛んで住処へと帰った。広大な畑に黄金色の芽吹きがどこまでも続く。彼らはこの新世界を農業の力で切り開いていた。
「ヤクルさん、すっかり畑一面が実りましたね! いま思うと、この農地をほとんどひとりで開拓されたって、すごいですね……!」
「えへへ、畑作業はオカン直伝なんです。一日に二キロ平方やればあっという間ですよ。それに、本当にすごいのはこの小麦をここまで品種改良して遺してくれた人ですよ。毎日世話しているとはいえディストピアでもちゃんと芽吹くんですから」
「ま、毎日二キロ平方ですか……すごすぎるくらいすごいですね……」
このときヤクルはわからなかったが、のゐるは二キロ平方メートルがグジパン城敷地の総面積よりすこし広い程度と知っており、思わずそのすさまじさを噛み締めた。
「……ところで、ヤクルさんのさっきの歌って、なんの曲でしたっけ?」
「飛行船に乗ってたときにゴーレムが鼻歌で歌ってた曲です。歌詞は忘れました!」
ヤクルは飛行船でその音色を聞いてからというもの、このキャッチーな音色が頭から離れなかった。農業に勤しむ際にはいつもこれを恥じらいもなく大声で歌っている。しかし歌詞が一部しか思い出せなかった。
畑には種類豊富な野菜が植わっている。小麦、稲、大根、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、カボチャ、ネギ、ゴマ、とうもろこし、ほうれん草など……すぐ近くに水を汲む小川を敷いたほか、小規模な塩の工場が建てられ、塩を用いた料理が毎食振舞われるようになった。そのほかの調味料も現在準備中である。
「いやーまさかヤクルのゴミ拾いで集めた野菜と種がここまで育つとはなぁ……ここに大筒を持ってやって来た日が懐かしいぜ。あんな怪光線間近で見たら戦う気も失せるってもんだが、それにしてもヤクルは農作業がんばってるよなぁージョリジョリ、と」
『大筒! アンタはヒモなんだからヒゲを剃らずに飯を食え! なに偉そうに食卓でヒゲなんか剃ってんの! っていうかアンタそのモフモフ、どっからどこまでがヒゲなんだよ!』
「こんのジラジラ娘! 俺はバズーカじゃねぇ! ナナジマだ! ナナジマ先生と呼べ! 純文学の巨匠だぞ! 二度とバズーカなんて呼ぶなよ! あとヒゲにはこだわってるんだよ! 悪くいうな!」
ヒモ呼ばわりに関しては咎めない獣人の男と双子の少女は、ヤクルの整地光線にすっかり戦う意思を失い、彼が建てた掘っ立て小屋に暮らしていた。
強盗として現れた三人だがいまではすっかり懐柔され、五人と一妖精が同じ屋根のしたで暮らしている。ナナジマはヤクルが拾った新品のI字カミソリで毎朝呑気にヒゲを剃ることを日課にしていた。
「まぁいいじゃないですかナナジマ大筒先生。ゴマやとうもろこしの収穫をしたらサラダ油を作ってみんなで天ぷらやりましょうよ! 絶対美味しいですから! それにしても……カァーッ! やっぱり重油は最高ですね!」
「誰がナナジマ大筒先生だ! ペンネームはナナジマだ! ナ・ナ・ジ・マ! それに、俺は二十五歳だ! 年上だぞ! 尊厳を保て! つかヤクル……お前だけ最強でいくらでも働けるのはいいとして、食べるものが特殊すぎるわ!」
ヤクルは各々が食事にありつくなか、ひとり携行缶から重油をぐびぐびと飲んでいた。ヤクルは人間と同じ食事を摂ることもできるが、燃料を補給しなければ働くことができない。太陽光給電さえ怠らなければ特に行動に支障はないが、彼は好んで重油を飲んだ。
「なんとかかんとかなんとかんとか~なんとかかんとか作れたよ~、っと。ふぅー四キロ平方の田植え終わったー。ん?」
ガサガサ。なにか生物の物音が聞こえたような気がしてヤクルは振り向く。しかし音の主はすぐに逃げていった。
ヤクルが問題にならない動物だろうと放置したところで、反対側からのゐるの声が聞こえてきた。
「ヤクルさーん! ごはんですよー!」
「はーい! のゐる先生いま行きまーす!」
ヤクルは走ってきたのゐるを背中に乗せ、両足をジェット機に変形させると、空を飛んで住処へと帰った。広大な畑に黄金色の芽吹きがどこまでも続く。彼らはこの新世界を農業の力で切り開いていた。
「ヤクルさん、すっかり畑一面が実りましたね! いま思うと、この農地をほとんどひとりで開拓されたって、すごいですね……!」
「えへへ、畑作業はオカン直伝なんです。一日に二キロ平方やればあっという間ですよ。それに、本当にすごいのはこの小麦をここまで品種改良して遺してくれた人ですよ。毎日世話しているとはいえディストピアでもちゃんと芽吹くんですから」
「ま、毎日二キロ平方ですか……すごすぎるくらいすごいですね……」
このときヤクルはわからなかったが、のゐるは二キロ平方メートルがグジパン城敷地の総面積よりすこし広い程度と知っており、思わずそのすさまじさを噛み締めた。
「……ところで、ヤクルさんのさっきの歌って、なんの曲でしたっけ?」
「飛行船に乗ってたときにゴーレムが鼻歌で歌ってた曲です。歌詞は忘れました!」
ヤクルは飛行船でその音色を聞いてからというもの、このキャッチーな音色が頭から離れなかった。農業に勤しむ際にはいつもこれを恥じらいもなく大声で歌っている。しかし歌詞が一部しか思い出せなかった。
畑には種類豊富な野菜が植わっている。小麦、稲、大根、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、カボチャ、ネギ、ゴマ、とうもろこし、ほうれん草など……すぐ近くに水を汲む小川を敷いたほか、小規模な塩の工場が建てられ、塩を用いた料理が毎食振舞われるようになった。そのほかの調味料も現在準備中である。
「いやーまさかヤクルのゴミ拾いで集めた野菜と種がここまで育つとはなぁ……ここに大筒を持ってやって来た日が懐かしいぜ。あんな怪光線間近で見たら戦う気も失せるってもんだが、それにしてもヤクルは農作業がんばってるよなぁージョリジョリ、と」
『大筒! アンタはヒモなんだからヒゲを剃らずに飯を食え! なに偉そうに食卓でヒゲなんか剃ってんの! っていうかアンタそのモフモフ、どっからどこまでがヒゲなんだよ!』
「こんのジラジラ娘! 俺はバズーカじゃねぇ! ナナジマだ! ナナジマ先生と呼べ! 純文学の巨匠だぞ! 二度とバズーカなんて呼ぶなよ! あとヒゲにはこだわってるんだよ! 悪くいうな!」
ヒモ呼ばわりに関しては咎めない獣人の男と双子の少女は、ヤクルの整地光線にすっかり戦う意思を失い、彼が建てた掘っ立て小屋に暮らしていた。
強盗として現れた三人だがいまではすっかり懐柔され、五人と一妖精が同じ屋根のしたで暮らしている。ナナジマはヤクルが拾った新品のI字カミソリで毎朝呑気にヒゲを剃ることを日課にしていた。
「まぁいいじゃないですかナナジマ大筒先生。ゴマやとうもろこしの収穫をしたらサラダ油を作ってみんなで天ぷらやりましょうよ! 絶対美味しいですから! それにしても……カァーッ! やっぱり重油は最高ですね!」
「誰がナナジマ大筒先生だ! ペンネームはナナジマだ! ナ・ナ・ジ・マ! それに、俺は二十五歳だ! 年上だぞ! 尊厳を保て! つかヤクル……お前だけ最強でいくらでも働けるのはいいとして、食べるものが特殊すぎるわ!」
ヤクルは各々が食事にありつくなか、ひとり携行缶から重油をぐびぐびと飲んでいた。ヤクルは人間と同じ食事を摂ることもできるが、燃料を補給しなければ働くことができない。太陽光給電さえ怠らなければ特に行動に支障はないが、彼は好んで重油を飲んだ。
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