ライターズワールドオンライン~非戦闘ジョブ「アマ小説家」で最弱スキル「ゴミ拾い」の俺が崩壊世界でなりあがる~

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1章

6話:可能性イズフォーエバー

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「すごい、ほんとにもう出版されてる……のゐる先生ありがとうございます! 俺なんてひきこもってないと世のなかに迷惑かけるばかりだと思ってました……あのとき広場でのゐる先生に会えて本当によかったです!」

 巨大なオレンジ色の魔法陣に導かれるように空を泳ぐ飛行船のなかで、メッセージボックスを覗き込むヤクル。彼は自身の小説が書籍化されたことを喜んでいた。

 飛行船の内部は鳥のくちばし・・・・・・のようなシンボルマークが至るところに装飾されており、床には真っ赤なカーペットが敷かれている。豪勢なシャンデリアに、革張りのソファ、床はもちろん大理石……荘厳で煌びやかな雰囲気であったが、やはりそれには馴染まない無邪気な振る舞いを見せた。

 ヤクルはそのくちばしマークをどこかで見たような……と疑問に思ったものの、のゐると自身の小説について話すほうが余程大事で、特段気にもしなかった。

「ひきこもっていたほうがいい人なんている訳ないじゃないですか。それに、お礼を言いたいのは私のほうですよ。おかげでこれからも原稿が書けそうです。これからの新世界で小説に需要があるかどうかわかりませんが、それでもヤクルさんは一生懸命に小説に取り組んでましたから」

「ありがとうございます! そんなに面白かったですか!?」

「か、可能性を感じました。可能性を……」

 先ほどからヤクルは自身の小説について何度か質問しているものの、のゐるからいい返事が戻って来ないので、時間をおいてまた聞いてみようと思った。

 ヤクルは高揚していた。ポジティブであった。自分の作品が書籍化されたからか、ただ人生で初めて空飛ぶ魔導バイクではたどり着くことのできないほどの、雲を見下す高さに身を置いたからかもしれない。思わず隣に乗っていた青年に声をかけてしまうほどだ。

 反面、のゐるは心の底から喜んでいいものなのかわからなかった。ヤクルに見出してもらったいまならば、また当時のように小説を書くことができるかもしれない。この感覚を思い出させてくれたのは紛れもなく彼だ。のゐるはそのことについて真摯にヤクルへ感謝している。

 しかし、なにかのきっかけでまた小説を書くことができなくなってしまったら……またあのときのような抜け殻の自分に戻ってしまったら……のゐるはそう考えると気が気ではなかった。どうにか彼と会話をして、自分を保つのに必死なのであった。

「ねぇねぇこれ俺の小説なんですよ? ほら今日出版されたんですよ? すごくないですか? 職業レベルジョブランクがアマチュア作家からコネ作家にレベルアップしたんですよ? ほら? ねぇ? え? 読む前から面白そう? うわーやだなーそんな本当のこと言っちゃって」

「ヤクルさん恥ずかしいのでやめてください」

 ヤクルが調子に乗るのに対し、青年は全くの無表情だった。ちなみにここにいるすべての乗客が小説家である。青年もまた話に乗るどころか全く興味なさそうに俯いたままだ。しかしヤクルが構わず話し続けるので鬱陶しくなったのか、青年は冷たい目線を返して言った。

「……ヤクル? なんだお前は? コネ作家?」

 青年は鋭い目線でヤクルのことを煽ってきた。

はい・・! コネ作家です! 今日しっかりのゐる先生の寵愛を受けて・・・・・・デビューしました!」

「ヤクルさんってプライドがないんですね……」

 のゐるからツッコミが入るが、ヤクルの瞳の輝きはひとつも衰えないし、青年は眉ひとつ動かさない。この場にいるということは、この髪を結んだ青年もまた作家であるということだ。ヤクルはそれほど頭はよくないが、有名作家にだけは詳しい。

「あ、あなたはもしかしてスサノオ先生……!?」

「えっ、ヤクルさん、スサノオ先生ってあの!?」

「そうですよのゐる先生! 伝説の中二病作家・・・・・・・・スサノオ先生ですよね! うわぁ~お会いできて嬉しいです! 感激です! いつも楽しく拝読しています!」

「ヤ、ヤクルさんそれは蔑称では……?」

 ヤクルは見た目は陰気臭いが、よくも悪くも無邪気だった。対して左目に眼帯をした青年スサノオはあまりにも冷ややかで、その表情は毒々しく、排他的な口調であった。

「誰かと思ったら花咲のゐる先生のお友達か。別にコネ作家に中二病扱いされたって気にしないが……それにしてもお前、この状況でよくはしゃげるな? あと数分で世界中に魔力のこもった爆弾が撃ち込まれるというのに」

 飛行船の巨大メッセージボックスには爆発の瞬間がカウントダウンされている。

 みなそれぞれ違った反応だが、この二人は際立った陰と陽だ。

「あ、はい! いまが楽しいので!」

「はぁ……なにも気にならないんだな。もうすこし世のなか・・・・のことを考えたらどうだ? 例えば、どうして新世界を生きる権利を、僕たち作家だけが与えられたのか、とか」

 スサノオのその言葉は、ヤクルからの尊敬を得るほどの発想力を示すニュアンスしか持たなかった。

「さすがスサノオ先生! すごい着眼点ですね! 考えたことなかったです! スサノオ先生最初の作品、階層カーストに生きている俺が本当に階層に分かれた異世界に行った件。のシーンを思い出しました! 校内カーストに悩んだ主人公が現実逃避のあまりにこの世界はひとつではないと気付き、上位世界と下位世界を行き来するようになる描写です! 俺なら絶対に思いつかないことをスサノオ先生はその鋭い着眼点であっさりと思いつくんですね……! やっぱりスサノオ先生は俺とは別の世界に生きている感じがします! すごいなぁ……!」

「全然考えてないな……」

 のゐるを号泣させたヤクルのベタ褒めだが、スサノオには影響しなかった。



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