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プロローグ
魔王と呼ばれた男
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「それでは判決を言い渡します」
その言葉と共に、法廷は静まり返る。それはまるで、夜の帳が下り、誰もが深い眠りについた街のようであった。
「主文。被告人は、無罪。判決理由は──」
無罪を言い渡された男は、感極まった様子で涙を流し始めた。しきりに傍聴席へと視線を送ると、妻であろう女性と頷き合う。それからその男は、右手の方に座っている弁護士に涙ながらにこう繰り返す。「ありがとうございます。本当にありがとうございます」と。
その弁護士は、男からの礼に聞く耳を持たず、荷物をまとめ始める。判決理由が言い終わる頃にはすっかり身支度を整え、そそくさと退廷した。
その弁護士の名は、神崎斗魔。世間は彼を、魔王と呼ぶ。
寝癖の目立つ短い黒髪、手入れのされていない無精髭、ヨレヨレのスーツと、とても有能とは思えない男、まるで五十代のそれであるが、その実彼は二十七歳なのである。
だがこの男、卓越した論述能力、警察を凌駕する捜査力、そして真実を導き出す推理力を持つ、若くして三拍子揃った怪物であった。魔王と呼ばれる所以はここに在る。どんな犯罪者であろうと、たちまち無罪放免にしてしまうその男を、ある新聞社が報道した。犯罪者を世に放つ魔王、と。
それが真実であるかどうかは、被告人、そして神崎にしか分からない。だからこそ世間は神崎を恐れた。犯罪者を無罪にし、社会へばら撒いているのではないかと。
だが、果たして本当に無罪、冤罪だったのかということなど、神崎にはどうでも良かった。ただ一つ、彼は勝利を追い求めているだけだった。
その言葉と共に、法廷は静まり返る。それはまるで、夜の帳が下り、誰もが深い眠りについた街のようであった。
「主文。被告人は、無罪。判決理由は──」
無罪を言い渡された男は、感極まった様子で涙を流し始めた。しきりに傍聴席へと視線を送ると、妻であろう女性と頷き合う。それからその男は、右手の方に座っている弁護士に涙ながらにこう繰り返す。「ありがとうございます。本当にありがとうございます」と。
その弁護士は、男からの礼に聞く耳を持たず、荷物をまとめ始める。判決理由が言い終わる頃にはすっかり身支度を整え、そそくさと退廷した。
その弁護士の名は、神崎斗魔。世間は彼を、魔王と呼ぶ。
寝癖の目立つ短い黒髪、手入れのされていない無精髭、ヨレヨレのスーツと、とても有能とは思えない男、まるで五十代のそれであるが、その実彼は二十七歳なのである。
だがこの男、卓越した論述能力、警察を凌駕する捜査力、そして真実を導き出す推理力を持つ、若くして三拍子揃った怪物であった。魔王と呼ばれる所以はここに在る。どんな犯罪者であろうと、たちまち無罪放免にしてしまうその男を、ある新聞社が報道した。犯罪者を世に放つ魔王、と。
それが真実であるかどうかは、被告人、そして神崎にしか分からない。だからこそ世間は神崎を恐れた。犯罪者を無罪にし、社会へばら撒いているのではないかと。
だが、果たして本当に無罪、冤罪だったのかということなど、神崎にはどうでも良かった。ただ一つ、彼は勝利を追い求めているだけだった。
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