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600s

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 0~60s

「さよなら……」

 おれは長年つきあった恋人とさっき別れた。

 120s

 とつぜん電話のベルが鳴った。

「はい……」
「わたしだ――君は明日から出社に及ばず」

 おれは長年勤めた会社をクビになった。

 180s

 おれはカラカラに喉が渇いた。
 冷蔵庫を乱暴に開けた。
 中身は空っぽだった。「くそっ」
 冷蔵庫を乱暴に閉めた。

 240s

 おれはうつ病の薬を口のなかに放り込んだ。
 蛇口をひねる。

 あれ、水が出ないぞ――!

 電気・水道・ガスが止められていたに気づく。

 300~480s

「ああ、明日からどうすりゃいいんだ……」

 おれは不貞腐れた顔でベットに横たわった。

 540s

 殺人鬼のようにむっくりと起きあがると、
 髪の毛をグシャグシャにかきむしった。
 頭皮に激痛が走る。

 いまが、人生のどん底だな。
 ホント最悪、最悪だ……
 だが、これで自由の身になったわけだ。

 もはや笑うしかなかった。

 おれの趣味と特技っていったいなんだろう――?

 ふと、そう思った。

 部屋の本棚には、江戸川乱歩、レイ・ブラットベリ、リチャード・マシスン、スティーヴン・キングの小説がずらりと並んでいる。

 自分自身を見つめ直すには、ちょうどいい機会かも知れないな……長年温めていた構想もある。

 おれはため息をもらした。

 600s

 残り一本のポール・モールに火をつける。

 いっちょ本気を出すか――!

 おれは古いタイプライターの前に腰かけた。



 
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