23 / 104
稽古停止、しかし・・・ 3
しおりを挟む
颯玄にとっては2度目の組手だが、上原はそれなりに数をこなしている。そのためか、先手を取ったのは上原だった。
組手は両者とも左を前にした基本的な構えから始まった。上原はそこから前手による上段刻み突きで仕掛けてきた。颯玄は約束組手では何度も経験しているが、そこでは号令に合わせて攻撃される。しかし、自由組手ではそういうことは無い。だから今回のような感じでの突きは初めての経験だ。本能的に後方に下がったので当たることは無かったが、道場外で戦うことがこんなに緊張するものだとは思わなかった。
上原にとって先ほどの突きは様子見で、颯玄がどう反応するかを見る目的で放った技だ。もちろん、それで勝負が決まれはそれはそれで良い、と考えて突いたのだか、そう簡単に当たらないのが現実だ。
突きの場合は試したので、次は前蹴りを出した。構えの関係から奥足である右で蹴ったが、颯玄はその技をきちんと見極めて後ろに下がって躱し、結果的には当たらなかった。
この技は以前、颯玄が真栄田に放ち、手刀による下段払いで痛い目に遭った経験がある。上原が蹴ってきた時、その時の様子が脳裏に浮かんだ。そして、こういう時は自分がやられた時のように受けと攻撃が同時に行なえるような技で対応すれば良いのか、といったことを考えていた。
いずれの攻撃も空を切った上原だか、今度は本気で当てるつもりで仕掛けてきた。初撃は先ほど同様、左の上段刻み突きだ。ただ、今度は先ほどと違い、颯玄の斜め右から正拳が飛んでくる突きだった。この技も颯玄は稽古で経験していたが、上原にとってこれは牽制で、極めを意識していたのはその状態からの中段回し蹴りだった。
颯玄も連続技で仕掛けられた場合の稽古はしていたが、今度約束組手として行なったわけではない。技と技の間が短いのだ。
こういう拍子が実際の戦いなのだろうとその直後に感じた。それは蹴りがしっかり当たったからだ。
だが、これまでの基本稽古の賜物か、当たる瞬間に腹部を締め、その衝撃に備えることができた。客観的に見たら極まったように見えるだろうが、倒れることは無かった。
上原にしたらこの一撃で颯玄に負けを求めさせたかったが、勝負の判定はそれぞれが負けを認めた時と約束していたので、効いているように見えない技の場合、勝負はつかない。
その様子に上原は逆に心に焦りを感じていた。そして颯玄のほうは、あんなにきれいに当たったのに、痛手が無いことに驚いている自分を感じていた。
そういう自分の身体の様子を感じることで、颯玄の心には自信のようなものが芽生えてきた。
組手は両者とも左を前にした基本的な構えから始まった。上原はそこから前手による上段刻み突きで仕掛けてきた。颯玄は約束組手では何度も経験しているが、そこでは号令に合わせて攻撃される。しかし、自由組手ではそういうことは無い。だから今回のような感じでの突きは初めての経験だ。本能的に後方に下がったので当たることは無かったが、道場外で戦うことがこんなに緊張するものだとは思わなかった。
上原にとって先ほどの突きは様子見で、颯玄がどう反応するかを見る目的で放った技だ。もちろん、それで勝負が決まれはそれはそれで良い、と考えて突いたのだか、そう簡単に当たらないのが現実だ。
突きの場合は試したので、次は前蹴りを出した。構えの関係から奥足である右で蹴ったが、颯玄はその技をきちんと見極めて後ろに下がって躱し、結果的には当たらなかった。
この技は以前、颯玄が真栄田に放ち、手刀による下段払いで痛い目に遭った経験がある。上原が蹴ってきた時、その時の様子が脳裏に浮かんだ。そして、こういう時は自分がやられた時のように受けと攻撃が同時に行なえるような技で対応すれば良いのか、といったことを考えていた。
いずれの攻撃も空を切った上原だか、今度は本気で当てるつもりで仕掛けてきた。初撃は先ほど同様、左の上段刻み突きだ。ただ、今度は先ほどと違い、颯玄の斜め右から正拳が飛んでくる突きだった。この技も颯玄は稽古で経験していたが、上原にとってこれは牽制で、極めを意識していたのはその状態からの中段回し蹴りだった。
颯玄も連続技で仕掛けられた場合の稽古はしていたが、今度約束組手として行なったわけではない。技と技の間が短いのだ。
こういう拍子が実際の戦いなのだろうとその直後に感じた。それは蹴りがしっかり当たったからだ。
だが、これまでの基本稽古の賜物か、当たる瞬間に腹部を締め、その衝撃に備えることができた。客観的に見たら極まったように見えるだろうが、倒れることは無かった。
上原にしたらこの一撃で颯玄に負けを求めさせたかったが、勝負の判定はそれぞれが負けを認めた時と約束していたので、効いているように見えない技の場合、勝負はつかない。
その様子に上原は逆に心に焦りを感じていた。そして颯玄のほうは、あんなにきれいに当たったのに、痛手が無いことに驚いている自分を感じていた。
そういう自分の身体の様子を感じることで、颯玄の心には自信のようなものが芽生えてきた。
10
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜
若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
現代文学
「さて、ここで解け落ちた氷の話をしよう。氷から解け落ちた雫の話をしようじゃないか」
解け落ちた氷は、社会からあぶれ外れてしまう姿によく似ている。もともと同一の存在であったはずなのに、一度解けてしまえばつららのように垂れさがっている氷にはなることはできない。
「解け落ちた氷」と言える彼らは、何かを探し求めながら高校生活を謳歌する。吃音症を患った女の子、どこか雰囲気が異なってしまった幼馴染、そして密かに禁忌の愛を紡ぐ主人公とその妹。
そんな人たちとの関わりの中で、主人公が「本当」を探していくお話です。
※この物語は近親愛を題材にした恋愛・現代ドラマの作品です。
5月からしばらく毎日4話以上の更新が入ります。よろしくお願いします。
関連作品:『彩る季節を選べたら』:https://www.alphapolis.co.jp/novel/114384109/903870270
「解け落ちた氷のその行方」の別世界線のお話。完結済み。見ておくと、よりこの作品を楽しめるかもしれません。
その男、人の人生を狂わせるので注意が必要
いちごみるく
現代文学
「あいつに関わると、人生が狂わされる」
「密室で二人きりになるのが禁止になった」
「関わった人みんな好きになる…」
こんな伝説を残した男が、ある中学にいた。
見知らぬ小グレ集団、警察官、幼馴染の年上、担任教師、部活の後輩に顧問まで……
関わる人すべてを夢中にさせ、頭の中を自分のことで支配させてしまう。
無意識に人を惹き込むその少年を、人は魔性の男と呼ぶ。
そんな彼に関わった人たちがどのように人生を壊していくのか……
地位や年齢、性別は関係ない。
抱える悩みや劣等感を少し刺激されるだけで、人の人生は呆気なく崩れていく。
色んな人物が、ある一人の男によって人生をジワジワと壊していく様子をリアルに描いた物語。
嫉妬、自己顕示欲、愛情不足、孤立、虚言……
現代に溢れる人間の醜い部分を自覚する者と自覚せずに目を背ける者…。
彼らの運命は、主人公・醍醐隼に翻弄される中で確実に分かれていく。
※なお、筆者の拙作『あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が』に出てくる人物たちがこの作品でもメインになります。ご興味があれば、そちらも是非!
※長い作品ですが、1話が300〜1500字程度です。少しずつ読んで頂くことも可能です!
おてんば市仲町商店街 なかまちなかまプロレス
ちひろ
青春
みちのく三大名湯のひとつ、おてんば温泉で有名なおてんば市の中心部に位置する仲町商店街で、新たな闘いの炎が燃えあがった。その名も「なかまちなかまプロレス」。シャッター通りの片隅で、売れないブックカフェを営む女店主・千賀麻耶らが演じる女子プロレスごっこワールドを描いてみた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる