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颯玄、熱情 3
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颯玄は真栄田のそのような考えを知ってか知らずか、なかなか仕掛けられない。
自分から自由組手を申し出たにもかかわらず、何もできない自分を少し恥じていた。同時に実力の差を肌で感じたわけだが、このままでは埒が明かないので、得意技の前蹴りを中段に向かって放った。
だが、気迫で押されている颯玄の蹴りは真栄田に届かない。
しっかり颯玄の様子を観察していた真栄田は、技が中途半端か否かは関係なく、自分の間合いに攻撃技が入ってきたら受けを打ちのつもりで用いる予定だった。
果たして、結果は真栄田の意図通りになり、手刀が内くるぶしの上方にある三陰交に当たった。この部位は上手く当たれば急所として作用し、激痛と共に下肢が痺れる。真栄田の思惑通り、颯玄はこの一撃で足を抱えてうずくまった。
「颯玄、終わりにしよう。空手の理想形のような一撃で戦いを不能にしたが、実戦で俺がお前にさらに攻撃をしたら、大怪我をするだろうし下手すれば死ぬかもしれない。でも、この一撃で戦闘不能になった時点で戦いを止めればそれ以上のことは無い。この急所は痛みや痺れはあっても死ぬことは無い。これで戦いが終了するなら、いつも先生がおっしゃっている護身の実践になる」
真栄田は優しい口調で言った。
今回の経験は颯玄にとって大変貴重なものになった。戦いの終わり方の現実の一例を体験させてくれたことに、負けて悔しい思いよりもむしろ気持ち良かった。
だが、次の瞬間、颯玄は今回のことを深く後悔することになることになった。
庭の様子がおかしいことに気付いた祖父が、物陰からこの様子をずっと見ていたのだ。
みんなが颯玄や真栄田のところに集まっているところに、祖父がやってきた。
「先生!」
全員に緊張が走った。
特に颯玄と真栄田の顔は引きっているかのように見えた。そして2人の顔を見ながら言った。
「颯玄、自由組手をやって良いと誰が言った。真栄田、お前は大人なんだから、止めなければならない立場だ。それを雰囲気に負けてやってしまうとは何事だ」
真栄田は祖父の言葉に一言も返せない。ただ、申し訳なさそうに下を向いているだけだった。
その様子に、周囲は自分たちが囃し立てるように言ったことを説明し、2人を許すように祖父に懇願にした。
結果的に一瞬で終わり、大怪我をしたわけではないので、このまま許してもらえるかもという淡い期待を全員持っていたが、祖父は許さなかった。
禁を破ったことに絡み、2人に対して稽古停止1ヵ月を告げたのだ。2人とも空手に情熱を傾けていた分、この処分は心に堪えた。
2人はそれぞれ自分が悪かったので、相手の処分は取り下げて欲しい、ということを懇願した。
だが、理由はともかく、禁じていたことをやってしまったという事実は消えないとして、処分は取り下げなかった。それなら自分たちも同罪ということで、他の稽古生たちも稽古停止にしてほしいと言ったが、それは認めなかった。
自分から自由組手を申し出たにもかかわらず、何もできない自分を少し恥じていた。同時に実力の差を肌で感じたわけだが、このままでは埒が明かないので、得意技の前蹴りを中段に向かって放った。
だが、気迫で押されている颯玄の蹴りは真栄田に届かない。
しっかり颯玄の様子を観察していた真栄田は、技が中途半端か否かは関係なく、自分の間合いに攻撃技が入ってきたら受けを打ちのつもりで用いる予定だった。
果たして、結果は真栄田の意図通りになり、手刀が内くるぶしの上方にある三陰交に当たった。この部位は上手く当たれば急所として作用し、激痛と共に下肢が痺れる。真栄田の思惑通り、颯玄はこの一撃で足を抱えてうずくまった。
「颯玄、終わりにしよう。空手の理想形のような一撃で戦いを不能にしたが、実戦で俺がお前にさらに攻撃をしたら、大怪我をするだろうし下手すれば死ぬかもしれない。でも、この一撃で戦闘不能になった時点で戦いを止めればそれ以上のことは無い。この急所は痛みや痺れはあっても死ぬことは無い。これで戦いが終了するなら、いつも先生がおっしゃっている護身の実践になる」
真栄田は優しい口調で言った。
今回の経験は颯玄にとって大変貴重なものになった。戦いの終わり方の現実の一例を体験させてくれたことに、負けて悔しい思いよりもむしろ気持ち良かった。
だが、次の瞬間、颯玄は今回のことを深く後悔することになることになった。
庭の様子がおかしいことに気付いた祖父が、物陰からこの様子をずっと見ていたのだ。
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「先生!」
全員に緊張が走った。
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「颯玄、自由組手をやって良いと誰が言った。真栄田、お前は大人なんだから、止めなければならない立場だ。それを雰囲気に負けてやってしまうとは何事だ」
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その様子に、周囲は自分たちが囃し立てるように言ったことを説明し、2人を許すように祖父に懇願にした。
結果的に一瞬で終わり、大怪我をしたわけではないので、このまま許してもらえるかもという淡い期待を全員持っていたが、祖父は許さなかった。
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2人はそれぞれ自分が悪かったので、相手の処分は取り下げて欲しい、ということを懇願した。
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