8 / 104
稽古再開 3
しおりを挟む
颯玄は慌てて起き上がり、言った。
「ごめんなさい。サボっていたわけじゃないんだ。背刀打ちがどうしても続けられなくて、基本の技の繰り返しをやっているうちに身体が動かなくなって、少し休憩していた。もう落ち着いたので、また始めます」
颯玄がそう言うと、祖父が口を開いた。
「稽古をしていたことは声で分かっている。サボったとは考えていない。空手にはいろいろな技がある。戦いの中で例えば右手を怪我しても左手や足が使える。背刀が使えなくても他の技があるし、大切なのは一つのことができなくなっても他で代用するという意識と実践が大切なんだ。さっきわしが何も言わなかったのは、使えなくなったところがあるならば、どうするかということを見ていたんだ。お前は背刀打ちができなくなったということで、これまで教わった技の確認と数をこなすことをやっていた。そういったいざという時、どうするかを見ていた。この課程は合格としよう。今日はかなり数をこなしたので稽古は終わりなさい。明日からは形を教える。久米の家に伝わる形だが、代々王家を守護していたことは知っているな。だから他では伝授されていない形がある。一見基本技だけに見えるが、そこにはいろいろな意味が込められている。今日はそれを見せるので、よく目に焼き付けておきなさい」
祖父はそう言って、形を始めた。
両足を左右に開き、両手を大きく外側から回し、額の少し上あたりで交差させた。それまでは両手とも開いていたが、両手が重なった時、右手は正拳になり、左手はわずかにそれを包むような感じになり、身体の前を重ねたまま下した。両手を回している時は息を吸い、下ろしている時は吐いている。両手は臍のわずか下まで下された。いわゆる丹田の位置だ。基本としていろいろな技を教わった時にたくさん聞かされたことなので、直感的にこの部位の大切さを改めて感じていた。
まだ形そのものをやっているわけではないが、祖父のこの動作だけで周りの空気が一変した。張り詰めたその様子は颯玄にも感じられ、鳥肌が立っていた。
先ほど祖父が言っていたように、変わった身体の使い方はないが、一つ一つの動きが生きている、といった感じだ。突きや蹴りの時には相手の身体に的確に当たり、攻撃に対してはしっかり防禦されている様子が見える。不思議な感覚を感じる自分の目を疑ったが、それが沖縄で隠れ武士として一目置かれる祖父の実力だ。
初めて見た空手家としての祖父の姿。颯玄にとってこれは何にも代えがたい貴重な体験だった。
「颯玄、明日からこの形を教える。もちろんこれまでのような鍛錬も引き続き行なうが、全てのことが少しずつ難しくなるからそのつもりで」
祖父は言葉こそ少ないが、きちんと自分のことを理解してくれていると颯玄は実感した。だから明るい表情で「はい」と返事した。
「今日はここで食事していくか?」
この時の祖父は師ではなく、優しいおじいさんという雰囲気だった。帰って両親に食事は済ませたということは心苦しかったが、祖父の思いやりは嬉しかった。
「颯玄、帰りはわしも一緒に行ってお父さん、お母さんには説明する。心配するな。今日はいつもよりも早めに稽古も終わったので、そんなに遅くなることは無いだろう」
思いやりのある祖父の言葉と、明日からの稽古への期待で、颯玄の疲れは一瞬で吹き飛んだ。
「ごめんなさい。サボっていたわけじゃないんだ。背刀打ちがどうしても続けられなくて、基本の技の繰り返しをやっているうちに身体が動かなくなって、少し休憩していた。もう落ち着いたので、また始めます」
颯玄がそう言うと、祖父が口を開いた。
「稽古をしていたことは声で分かっている。サボったとは考えていない。空手にはいろいろな技がある。戦いの中で例えば右手を怪我しても左手や足が使える。背刀が使えなくても他の技があるし、大切なのは一つのことができなくなっても他で代用するという意識と実践が大切なんだ。さっきわしが何も言わなかったのは、使えなくなったところがあるならば、どうするかということを見ていたんだ。お前は背刀打ちができなくなったということで、これまで教わった技の確認と数をこなすことをやっていた。そういったいざという時、どうするかを見ていた。この課程は合格としよう。今日はかなり数をこなしたので稽古は終わりなさい。明日からは形を教える。久米の家に伝わる形だが、代々王家を守護していたことは知っているな。だから他では伝授されていない形がある。一見基本技だけに見えるが、そこにはいろいろな意味が込められている。今日はそれを見せるので、よく目に焼き付けておきなさい」
祖父はそう言って、形を始めた。
両足を左右に開き、両手を大きく外側から回し、額の少し上あたりで交差させた。それまでは両手とも開いていたが、両手が重なった時、右手は正拳になり、左手はわずかにそれを包むような感じになり、身体の前を重ねたまま下した。両手を回している時は息を吸い、下ろしている時は吐いている。両手は臍のわずか下まで下された。いわゆる丹田の位置だ。基本としていろいろな技を教わった時にたくさん聞かされたことなので、直感的にこの部位の大切さを改めて感じていた。
まだ形そのものをやっているわけではないが、祖父のこの動作だけで周りの空気が一変した。張り詰めたその様子は颯玄にも感じられ、鳥肌が立っていた。
先ほど祖父が言っていたように、変わった身体の使い方はないが、一つ一つの動きが生きている、といった感じだ。突きや蹴りの時には相手の身体に的確に当たり、攻撃に対してはしっかり防禦されている様子が見える。不思議な感覚を感じる自分の目を疑ったが、それが沖縄で隠れ武士として一目置かれる祖父の実力だ。
初めて見た空手家としての祖父の姿。颯玄にとってこれは何にも代えがたい貴重な体験だった。
「颯玄、明日からこの形を教える。もちろんこれまでのような鍛錬も引き続き行なうが、全てのことが少しずつ難しくなるからそのつもりで」
祖父は言葉こそ少ないが、きちんと自分のことを理解してくれていると颯玄は実感した。だから明るい表情で「はい」と返事した。
「今日はここで食事していくか?」
この時の祖父は師ではなく、優しいおじいさんという雰囲気だった。帰って両親に食事は済ませたということは心苦しかったが、祖父の思いやりは嬉しかった。
「颯玄、帰りはわしも一緒に行ってお父さん、お母さんには説明する。心配するな。今日はいつもよりも早めに稽古も終わったので、そんなに遅くなることは無いだろう」
思いやりのある祖父の言葉と、明日からの稽古への期待で、颯玄の疲れは一瞬で吹き飛んだ。
11
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる