173 / 182
店の未来を託し、転職を決意 6
しおりを挟む
美津子の説明で矢島と中村は顔を見合わせたまま固まった。その様子を見て私が話し始めた。
「いきなりこんな話をして申し訳なかった。でも立ち話で話すようなことでもないので、改まった形できちんと説明したかったんだ。今日のミーティング、居酒屋としての新しい企画といった話と思っていたかもしれないけれど、そうじゃなく、俺と美津子、そして君たちで盛り上げてきたこの店の次のステージと、俺の我儘のところも大きいけれど、そういうことを合わせた話になる。だからその話をきちんと聞いてもらい、その上で判断してほしい。俺が言うのも何だが、もし君たちがこの仕事に愛着を持っているなら決して損するようなことではないと思っている。俺たちだけにプラスになるようなことならこんな場は設けない」
私は2人に視線を合わせ、静かに話した。先ほどと違って矢島と中村も穏やかに聞いているように見える。
「それで店長、具体的にはどうしたいということですか? 俺には何を言っているのかよく分からないんですが・・・」
矢島が言った。中村も頷いている。気持ちを落ち着かせるためか、私の第一声の後、2人ともテーブルに置いてあるウーロン茶で喉を潤している。この日は話の性格上、最初はノンアルコールの飲み物を用意するということで予め伝えてあったが、私が最初に話した後は一口飲んだまま2人ともコップを握った状態になっていた。気持ちと共に身体も固まっていたのだろう。美津子はそういった雰囲気を少しでも和らげようと、また口を開いた。
「さっき社長が最近の自分のことを話したわね。そのことを踏まえ、休みをもらった時、いろいろ一人で考えみたいなの。私も先日、これから話すことを聞いた時、何言っているの、と思ったわ。これまで居酒屋が天職のようなことを言っていた人が、全然違う仕事の話をした時、おかしいと思った。でも、話を聞いていると少しずつ言っていることは理解できるようになった。それでも現状を考えると、こういう時によく分からない世界に飛び込むなんて信じられない、という気持ちだった。ただ、それが自分の経験から出た結果であり、万人が意識する健康に関係する仕事なら、ということで少しずつ考えるようになった。・・・具体的には整体の仕事ね。私たちが奥田先生のところに通っているのは知っているわね。あなたたちも行ったわけだけど、施術を受けた後はリフレッシュしたと思う。簡単に言うとそれを仕事にしたい、ということなのよ」
美津子は私が整体師としての仕事をしたいということを考えた経緯を簡単に話してくれた。それでも2人の表情を見ていると納得したとは思えない。
「まだ分かったような分からないようなところですが、さっき見えなかった居酒屋の次にやりたい仕事が整体というわけですね。確かに自分も施術を受け、心身もすっきりした経験がありますので、それはそれでやりがいもあるでしょうが、今の仕事を辞めてまでやろうとする気持ちは分かりません。今、俺たちはここで一生懸命頑張っていて、新型感染症という中を切り抜け、収束後にはまた以前のような活況を期待していたんです。その時のリーダーがいなくなる、というのはとても心配です」
矢島は自分の杞憂について話した。
「いきなりこんな話をして申し訳なかった。でも立ち話で話すようなことでもないので、改まった形できちんと説明したかったんだ。今日のミーティング、居酒屋としての新しい企画といった話と思っていたかもしれないけれど、そうじゃなく、俺と美津子、そして君たちで盛り上げてきたこの店の次のステージと、俺の我儘のところも大きいけれど、そういうことを合わせた話になる。だからその話をきちんと聞いてもらい、その上で判断してほしい。俺が言うのも何だが、もし君たちがこの仕事に愛着を持っているなら決して損するようなことではないと思っている。俺たちだけにプラスになるようなことならこんな場は設けない」
私は2人に視線を合わせ、静かに話した。先ほどと違って矢島と中村も穏やかに聞いているように見える。
「それで店長、具体的にはどうしたいということですか? 俺には何を言っているのかよく分からないんですが・・・」
矢島が言った。中村も頷いている。気持ちを落ち着かせるためか、私の第一声の後、2人ともテーブルに置いてあるウーロン茶で喉を潤している。この日は話の性格上、最初はノンアルコールの飲み物を用意するということで予め伝えてあったが、私が最初に話した後は一口飲んだまま2人ともコップを握った状態になっていた。気持ちと共に身体も固まっていたのだろう。美津子はそういった雰囲気を少しでも和らげようと、また口を開いた。
「さっき社長が最近の自分のことを話したわね。そのことを踏まえ、休みをもらった時、いろいろ一人で考えみたいなの。私も先日、これから話すことを聞いた時、何言っているの、と思ったわ。これまで居酒屋が天職のようなことを言っていた人が、全然違う仕事の話をした時、おかしいと思った。でも、話を聞いていると少しずつ言っていることは理解できるようになった。それでも現状を考えると、こういう時によく分からない世界に飛び込むなんて信じられない、という気持ちだった。ただ、それが自分の経験から出た結果であり、万人が意識する健康に関係する仕事なら、ということで少しずつ考えるようになった。・・・具体的には整体の仕事ね。私たちが奥田先生のところに通っているのは知っているわね。あなたたちも行ったわけだけど、施術を受けた後はリフレッシュしたと思う。簡単に言うとそれを仕事にしたい、ということなのよ」
美津子は私が整体師としての仕事をしたいということを考えた経緯を簡単に話してくれた。それでも2人の表情を見ていると納得したとは思えない。
「まだ分かったような分からないようなところですが、さっき見えなかった居酒屋の次にやりたい仕事が整体というわけですね。確かに自分も施術を受け、心身もすっきりした経験がありますので、それはそれでやりがいもあるでしょうが、今の仕事を辞めてまでやろうとする気持ちは分かりません。今、俺たちはここで一生懸命頑張っていて、新型感染症という中を切り抜け、収束後にはまた以前のような活況を期待していたんです。その時のリーダーがいなくなる、というのはとても心配です」
矢島は自分の杞憂について話した。
10
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる