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相談 10

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 奥田は続けて言った。
「ちょっと言葉が強くなり、済みません。いつもは心地良いことを意識している身ですが、今は逆の雰囲気になりました。でも、先ほどお話しした通り、私にとっての整体は天職であり、やりがいを感じる仕事です。時々この業界にはマニュアル的な技術でクライアントの方を施術し、気持ち良ければ良いくらいの意識でやっているケースがあります。私にはそういう意識は理解できず、手技療法で好転可能なケースであれば一生懸命施術させていただこうという思いなので、そういうことに関係しそうな話についてはつい興奮してしまいます。雨宮さんがいつもと違うことをおっしゃり、もしかするとこんな時代だからということで安易な転職をお考えなのではつい思ってしまい、変な話し方になりました」
 先ほどと違い、奥田は興奮してしゃべった自分を詫びるようなことを言った。
「先生、その思いは私には分かるつもりです。今やっている居酒屋にも私なりの考えがありますし、そこにはやりがいも感じています。また、私の先生のところにお世話になる前、いろいろ通っていましたので、整体の業界についてもおっしゃることは分かります。先生の普段の施術の様子から、プライドを持ってやってらっしゃることも理解しているつもりですし、だからこそ今日ご相談に伺ったわけですが、そういう前提でお話しさせていただければと思います」
 私は改めて話の前提になった最近の体調問題について話したが、気持ちが落ち着いたのか、奥田もきちんと聞いてくれたように見えた。その上で再度整体業界のことやそこでの仕事について質問した。奥田は私の話の趣旨を理解した上で再度話し始めた。
「分かりました。では、まずお尋ねします。例えば今回、雨宮さんはギックリ腰でお越しになりました。それまでも体調維持といったことや疲れたからと言ってお越しになっていましたね。来院され、施術を受けるというところは同じですが、実はこれらのことには質的な違いがあります。ギックリ腰の場合は劇症で急性ですね? そういう時の心境というのは雨宮さんが一番お分かりいただけるはずです」
 奥田の言葉に私は頷いていた。その眼は真剣に奥田の目を見ており、隣にいる美津子も同様の感じだった。その上で奥田は続けて言った。
「そういう時、私はどういう意識で施術していると思いますか?」
「もちろん、結果を出そうとして一生懸命にやっていらっしゃると思います。そのことは受ける側として理解しているつもりです」
「ありがとうございます。その通りです。でも、残念ながら気持ちだけでは何ともならないんですよ。体調維持的なことや疲労回復的なことであれば決まった手順の施術でも良いかもしれませんが、技の流れにしてもクライアントの方の体格などの条件がありますので加減やその個所への施術時間などには違いが出ます。そういった見えないところも技術ですので、私たちは1回たりとも同じ施術をやっているつもりはありません。それは同じクライアントの方が同じご相談でお越しになってもそういう意識でやっています。私がこの道に入った時に教わった学校がありますが、そこの先生からそういったことを教わりました。現場では決して同じ施術は無い、ということです」
 奥田は自分が教わった時の頃を思い出すような感じで話した。
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