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相談 9

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 2日後の夜9時、私と美津子は奥田の整体院にいた。美津子は2号店を中村に任せ、早めに帰ったのだ。私たちは先日、奥田にお願いした施術の予約と合わせ、整体の世界の話を聞くために訪れていた。ただ、そのことは奥田に話していない。奥田が不愉快に思わないか心配だったが、この点をクリアしないと先には進めない。私たちはそういった気持ちで来店していた。着く早々、2人揃って奥田に丁寧にお礼を言った。予定外の話をさせてもらうからだが、奥田は相談内容は分からないものの気にしていなかった。
 ただ、本来なら奥田も最終の枠であり、その後に相談することになっていたので、施術自体は30分に切り上げてもらうようにお願いした。もちろん、施術代は1時間分を支払う予定であり、別途相談料を用意してある。
美津子の場合、この時点で具体的にどこかに問題を感じているわけではない。だから手に感じたところがあれば、そこを意識して施術してもらう、といった感じで良かったのだ。
 もちろん、奥田は性格的に手を抜くようなことは無い。だから、施術時間の中できちんと何らかの変化があるように、問診しながら手を動かしていた。その質問と施術の手がぴったりくるのか、美津子は気持ち良いという言葉を時々口にしていた。
 施術はほぼ予定通り、30分で終了した。私たちは奥田に促され、待合スペースに通され、スタッフがお茶を運んできた。その時、奥田は後は自分がやるからということでスタッフを帰した。私たちは事前に奥田に相談する内容は告げていなかったため、3人だけになるよう配慮してくれたのだ。私としては他に誰かいても構わなかったが、奥田の気配りに感謝しつつ、話をした。
「先生、今日はすみません。施術以外のことでお時間を取っていただいて・・・。でも、今日は是非先生に伺いたいことがあったので・・・」
 私は神妙な顔で奥田に言った。美津子は言葉そのものは発しないものの、同じような表情だった。
 奥田はその様子に何事だろう、といった顔をした。
「それで、何をお聞きになりたいのですか?」
「はい、実は先生がおやりになっている整体という仕事のことなんです」
「えっ?」
 当然のように、奥田は驚いた表情になった。それでその経緯を私の方から話したが、新型感染症と勘違いした体調不良から先日のギックリ腰までのことと、その時に考えた健康の大切さだった。そこから仕事のやりがいという話になり、さらには転業までのプランがある、ということでの相談であることを告げた。
 奥田はその話を聞き、少し黙ってしまった。表情が固まり、時々目線を動かしている。どう説明すれば良いのか考えていることが私たちにも伝わってきた。その上できちんと私たちの目を見て言った。
「雨宮さん、その話、本気でお考えですか? もし、軽い気持ちであればこのままお帰りください。ご承知のように、私は整体について雨宮さんのお仕事同様、やりがいを感じているし天職とも思っています。ですから、簡単にできるといったような意識でこの世界に飛び込んでいただきたくはないのです。はっきり言ってこの業界は玉石混交です。そして『石』が多い業界です。私は誇りをもってこの業界で頑張っているつもりですので、中途半端な感じではこの仕事を考えてほしくないのです」
 奥田の言葉と言い方はこれまでの印象とは全く異なっていた。こんな奥田は今まで見たことが無かった、というのが私たちの印象だった。それだけ奥田にとって整体の仕事は大切、ということが改めて理解できた。
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