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ギックリ腰 15
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腰の調子は劇的に好転したが、私の奥田のアドバイスに従い、店の方は数日矢島に任せることにしていた。もちろん、私の腰の様子については矢島に電話ですぐに連絡したが、矢島のほうからも無理をしないようにということを言われ、今回はその言葉に甘えさせてもらった。店の様子についてはランチタイムの後と閉店後の2回、報告してもらうことにしたが、これまでのことから任せてもきちんと切り盛りしていることは分かっているので、その点は安心していた。
そういうことで私は美津子が出勤した後、一人で自宅にいるわけでが、いつもはできないことがテレビを見ることだった。いつもは朝のワイドショーと深夜のニュースが見れれば、といった感じだったが、自宅にいるため、いろいろな番組を見ることができる。内容はそれぞれで、同じニュースでも切り口が異なるので、考え方が広がるような感じがしていた。
テレビでは相変わらず新型ウイルスのことが中心になっており、感染者数もどんどん増えている。先日のことは幸いにして新型感染症ではなかったが、もし感染していたらこういった数字に算入されるのだろうということを改めて考えていた。
同時に、健康の有難さも真剣に考えていた。
それは2回続けて体調を壊したからだ。原因や内容は異なるものの、改めて1人でいると自分の経験と重ねて考えてしまう。
自分がその時どう思ったか、そしてその問題が周囲にどう影響したかだ。
私はテレビを見ている時、自分で入れたコーヒーを飲んでいた。夜であれば美津子とビールというところだが、さすがに昼間から飲むことは無い。だからアルコールのせいで思考力に問題があるわけではなく、冷静でいられた。それでも新型ウイルスの話題になればついテレビを凝視し、ホットのつもりが常温のコーヒーになっていた。その状態でも気にせず飲んでいたが、昨日の夜、美津子と話していたことが頭に蘇った。今やっている居酒屋という私の生業のことだ。
私はこれまで自分なりのポリシーを持ってやってきた。だから今のように厳しい状況でも頑張ってこれたが、自分の体調を崩した時は仕事の心配をすることはあっても、居酒屋という業種が身体にプラスになったわけではない。
もちろん、きちんとした生業があるからこそ、そして美津子をはじめスタッフにも恵まれたからこそ自分が休んでいても安心していられることは事実だ。
だが、これまで思っていたようなやりがいということを改めて考えてみると、確かに日々のストレスを発散してもらえる場として、そしてそれを提供できることに自信を持って生涯の仕事として自分の中でトップに位置付けることができるか、という思いが少しずつ心の中で大きくなっていたのだ。
最初の体調不良では病院の先生に、ギックリ腰では奥田先生にお世話になり、回復した時の自分の心の中では直接的に感謝という思いで一杯になった。そして、居酒屋という仕事でお客様にそれだけの気持ちを持ってもらえていたのか、ということを考えるようになった。居酒屋自体、他にもたくさんの店がある。もちろん、体調改善でお世話になった病院や整体院も同様だが、その感謝のベクトルは直接個人に向けられる。
居酒屋にそこまでの意識を持ってもらえるかと言えば、常連は別としてたまたま入店したというケースも多いだろう。それで店を気に入ってくれて相沢のように店を愛してくれる人も出てくるだろう。
ただ、今回私が経験したことは、それとは別の感情を生み出すことになっていた。
そういうことで私は美津子が出勤した後、一人で自宅にいるわけでが、いつもはできないことがテレビを見ることだった。いつもは朝のワイドショーと深夜のニュースが見れれば、といった感じだったが、自宅にいるため、いろいろな番組を見ることができる。内容はそれぞれで、同じニュースでも切り口が異なるので、考え方が広がるような感じがしていた。
テレビでは相変わらず新型ウイルスのことが中心になっており、感染者数もどんどん増えている。先日のことは幸いにして新型感染症ではなかったが、もし感染していたらこういった数字に算入されるのだろうということを改めて考えていた。
同時に、健康の有難さも真剣に考えていた。
それは2回続けて体調を壊したからだ。原因や内容は異なるものの、改めて1人でいると自分の経験と重ねて考えてしまう。
自分がその時どう思ったか、そしてその問題が周囲にどう影響したかだ。
私はテレビを見ている時、自分で入れたコーヒーを飲んでいた。夜であれば美津子とビールというところだが、さすがに昼間から飲むことは無い。だからアルコールのせいで思考力に問題があるわけではなく、冷静でいられた。それでも新型ウイルスの話題になればついテレビを凝視し、ホットのつもりが常温のコーヒーになっていた。その状態でも気にせず飲んでいたが、昨日の夜、美津子と話していたことが頭に蘇った。今やっている居酒屋という私の生業のことだ。
私はこれまで自分なりのポリシーを持ってやってきた。だから今のように厳しい状況でも頑張ってこれたが、自分の体調を崩した時は仕事の心配をすることはあっても、居酒屋という業種が身体にプラスになったわけではない。
もちろん、きちんとした生業があるからこそ、そして美津子をはじめスタッフにも恵まれたからこそ自分が休んでいても安心していられることは事実だ。
だが、これまで思っていたようなやりがいということを改めて考えてみると、確かに日々のストレスを発散してもらえる場として、そしてそれを提供できることに自信を持って生涯の仕事として自分の中でトップに位置付けることができるか、という思いが少しずつ心の中で大きくなっていたのだ。
最初の体調不良では病院の先生に、ギックリ腰では奥田先生にお世話になり、回復した時の自分の心の中では直接的に感謝という思いで一杯になった。そして、居酒屋という仕事でお客様にそれだけの気持ちを持ってもらえていたのか、ということを考えるようになった。居酒屋自体、他にもたくさんの店がある。もちろん、体調改善でお世話になった病院や整体院も同様だが、その感謝のベクトルは直接個人に向けられる。
居酒屋にそこまでの意識を持ってもらえるかと言えば、常連は別としてたまたま入店したというケースも多いだろう。それで店を気に入ってくれて相沢のように店を愛してくれる人も出てくるだろう。
ただ、今回私が経験したことは、それとは別の感情を生み出すことになっていた。
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