上 下
102 / 182

体調不安 8

しおりを挟む
 翌朝、7時頃に目が覚めた。昨晩おかゆを食べ、薬を飲んだところまでは覚えているが、その後は記憶が無い。おそらく、ぐっすり眠ったのだろう。ベッドは汗で湿ってるような感じだった。
 ベッドの横にある小さなテーブルの上を見ると、体温計が置いてあった。私は持ってきた記憶が無いので、おそらく美津子が夜、持ってきてくれたのだろう。
 この時、感覚的には昨日よりは体調の悪さを感じていなかった。身体の倦怠感が無くなっていたが、新型ウイルスによる体調不良というのは一晩寝たくらいで好転するものなのか、といったことを考えながらまずは体温を測ってみようと思った。
 脇の下の体温計を挟み、音が出るまでじっとしていた。ピピッと音が鳴った時に取り出して確認すると7度ちょうどで、数字的には微熱ということだろうが、身体的には熱が出ている感じはなかった。そしてその数字を見た時、気持ちの上でも安心感を感じだか、ウイルスに感染していないということではない。この点は検査結果を聞くまでは油断できない。熱が下がり、身体的には楽になったことで精神的には余裕が出たが、もしものことを考えると不安は残る。
 普段見るテレビはリビングに置いてあるが、寝室にも小さなテレビがある。私は昨日見ることができなかったニュースが気になり、スイッチを入れてみた。相変わらず、感染症の話題で一杯だった。
その様子を見て、もしかすると私も今日の感染者の数字に入るのかな、などと思っていると部屋のドアがノックされた。
「あなた、起きているの?」
 美津子の声だ。私がテレビをつけていることで起きているのに気付いたらしい。ドア越しに起きていることを告げるとマスク姿の美津子が部屋に入ってきた。
「どう? 具合は」
「ありがとう。今、体温を測ると7度だった。昨日の様子からすると熱があるという感じじゃない。身体も軽いし、昨日みたいな気持ちの落ち込みもない。解熱剤が効いたのかな」
「多分そうよ。顔色も昨日より良いし、目の様子も違う。いつものあなたに戻ったみたい」
「いやいやそこまでは無いと思うけれど、確かに昨日よりは体調は良い。だから、もしかすると新型感染症じゃなかったかな、なんて考えている。まだ検査結果が出ていないから安心できないけれど、ちょっと希望が出てきた。でも油断できないから、引き続き感染対策は続けてくれ」
「分かったわ。じゃあ、今朝もおかゆを用意したけど薬も飲まなくてはならないでしょうし、食べるでしょう? 昨日とは少し味を変えてあるから、同じおかゆでも違うと思う。味は分かるということだったから、少しでも食事を楽しんでね」
 美津子はそう言うと部屋から出て行った。味付けを違えるといった意識は商売柄のことかもしれないが、そういった心遣いが今はとてもありがたい。午後には検査結果の連絡もあるだろうが、それまでは気を抜けない。少しでも体力を落とさないよう、きちんと食事は摂ろうと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

微熱の午後 l’aprés-midi(ラプレミディ)

犬束
現代文学
 夢見心地にさせるきらびやかな世界、優しくリードしてくれる年上の男性。最初から別れの定められた、遊びの恋のはずだった…。  夏の終わり。大学生になってはじめての長期休暇の後半をもてあます葉《よう》のもとに知らせが届く。  “大祖父の残した洋館に、映画の撮影クルーがやって来た”  好奇心に駆られて訪れたそこで、葉は十歳年上の脚本家、田坂佳思《けいし》から、ここに軟禁されているあいだ、恋人になって幸福な気分で過ごさないか、と提案される。  《第11回BL小説大賞にエントリーしています。》☜ 10月15日にキャンセルしました。  読んでいただけるだけでも、エールを送って下さるなら尚のこと、お腹をさらして喜びます🐕🐾

眠れない夜の雲をくぐって

ほしのことば
恋愛
♡完結まで毎日投稿♡ 女子高生のアカネと29歳社会人のウミは、とある喫茶店のバイトと常連客。 一目惚れをしてウミに思いを寄せるアカネはある日、ウミと高校生活を共にするという不思議な夢をみる。 最初はただの幸せな夢だと思っていたアカネだが、段々とそれが現実とリンクしているのではないだろうかと疑うようになる。 アカネが高校を卒業するタイミングで2人は、やっと夢で繋がっていたことを確かめ合う。夢で繋がっていた時間は、現実では初めて話す2人の距離をすぐに縮めてくれた。 現実で繋がってから2人が紡いで行く時間と思い。お互いの幸せを願い合う2人が選ぶ、切ない『ハッピーエンド』とは。

Last Recrudescence

睡眠者
現代文学
1998年、核兵器への対処法が発明された以来、その故に起こった第三次世界大戦は既に5年も渡った。庶民から大富豪まで、素人か玄人であっても誰もが皆苦しめている中、各国が戦争進行に。平和を自分の手で掴めて届けようとする理想家である村山誠志郎は、辿り着くためのチャンスを得たり失ったりその後、ある事件の仮面をつけた「奇跡」に訪れられた。同時に災厄も生まれ、その以来化け物達と怪獣達が人類を強襲し始めた。それに対して、誠志郎を含めて、「英雄」達が生れて人々を守っている。犠牲が急増しているその惨劇の戦いは人間に「災慝(さいとく)」と呼ばれている。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

処理中です...