98 / 182
体調不安 4
しおりを挟む
病院の玄関に着いた。そこには張り紙があり、発熱がある人の場合、別の入り口から入るように書いてある。私は矢印に従い、指示された入り口に向かった。表の玄関とは明らかに異なった感じだったが、なるべく手を触れずにするようにということだろうか、ここも自動ドアだった。
確かに今、感染予防ということで手洗いが励行されているので、病院の入り口が手動であれば多くの人の手が触れることになり、感染拡大の一因になる可能性がある。まだ自分が感染者かどうかは分からない段階だが、こういった様子を見るといろいろと考えさせられる。
この中に入ったら外に出られないのではないかとか、隔離病棟に入れられるのでは、といった負のイメージが頭の中を駆け巡った。
その一方で、まだ感染が確定しているわけではないのでそんなことがあるはずがない、と自分に言い聞かせている。
冷静な状態であれば診断がされていない段階ではそんなことは有り得ないことが分かるが、感染していたらと考えると、どうしてもネガティブな思いが出てしまう。これまではあまり意識していなかったが、いざ自分が当事者になるかもしれないという時には、いかに弱さが出てくるのか、ということを身に染みて感じている自分がそこにいたのだ。
そうなると、受付までの道のりも足取りが重くなり、鉛が入ったバッグを背負ったような気になる。もちろん、この時は手ぶらで来ているので実際には具体的な負荷がかかっているわけではないのだが、心理的なことで人の身体の感覚はこんなに違ってくるのか、ということを体験した。そして、ずっとこんなことが続くと、本当に心身が病んでしまうのではという不安も出てきた。本当に感染していれば、もっといろいろな体調不良が出てくるだろうし、場合によっては命を失うこともあるかもしれない。その後のことを考えると、診察を受けることすらも怖くなる。検査結果次第では、それが死刑宣告のような感じになるのではという気持ちが心の中を支配していたのだ。
病院の中の壁に貼ってある待合室までの通路を歩いている時に考えたことだが、もし感染したらみんなに何を残せるのか、ということを再び考えるようになった。病院という建物の中なので、そんなに遠い距離ということはなく、時間的にも客観的に見れば短いはずだ。
私も言葉として相対的・絶対的ということは知っている。今感じている時間の感覚は絶対的な視点から見れば短時間になるが、私のここで感じている時間はとてつもなく長い。時間についてそういった感覚で捉えたことはこれまでなかったが、感染症問題にあって初めて体験した。
待合室に着いた。指定された時間があったので病院に着いた時と玄関に立った時に時間を確認したが、この時点でも時計を確認した。自分の感覚では結構な時間が経過したように思ったものだが、時計は3分しか進んでいなかった。ここに着くまで感じていた時間と実際の時間との差を改めて実感したことになるが、見渡すと思った以上の人がいた。
「この人たちも俺と同じ気持ちなんだろうな」
心の中でつぶやいた。自分が座れる場所を探すために待合室を見渡したが、同時にみんなの表情も見える。当然だが、誰一人として明るい表情の人はおらず、全員うなだれている様子が見られた。私も他の人から見れば同じ表情をしてるのだろうと思いながら受付を済ませ、空いている椅子に腰かけた。
受付のエリアには飛沫防止用のビニールのようなものがあり、下の隙間から問診表のようなものを渡され、私は保険証を提示した。これまでほとんど医者にお世話になったことは無いが、マスク姿が多いのは病院なので違和感はない。だが、受付の様子はあまり病院にお世話になったことが無い私にも不思議な光景に見えた。
確かに今、感染予防ということで手洗いが励行されているので、病院の入り口が手動であれば多くの人の手が触れることになり、感染拡大の一因になる可能性がある。まだ自分が感染者かどうかは分からない段階だが、こういった様子を見るといろいろと考えさせられる。
この中に入ったら外に出られないのではないかとか、隔離病棟に入れられるのでは、といった負のイメージが頭の中を駆け巡った。
その一方で、まだ感染が確定しているわけではないのでそんなことがあるはずがない、と自分に言い聞かせている。
冷静な状態であれば診断がされていない段階ではそんなことは有り得ないことが分かるが、感染していたらと考えると、どうしてもネガティブな思いが出てしまう。これまではあまり意識していなかったが、いざ自分が当事者になるかもしれないという時には、いかに弱さが出てくるのか、ということを身に染みて感じている自分がそこにいたのだ。
そうなると、受付までの道のりも足取りが重くなり、鉛が入ったバッグを背負ったような気になる。もちろん、この時は手ぶらで来ているので実際には具体的な負荷がかかっているわけではないのだが、心理的なことで人の身体の感覚はこんなに違ってくるのか、ということを体験した。そして、ずっとこんなことが続くと、本当に心身が病んでしまうのではという不安も出てきた。本当に感染していれば、もっといろいろな体調不良が出てくるだろうし、場合によっては命を失うこともあるかもしれない。その後のことを考えると、診察を受けることすらも怖くなる。検査結果次第では、それが死刑宣告のような感じになるのではという気持ちが心の中を支配していたのだ。
病院の中の壁に貼ってある待合室までの通路を歩いている時に考えたことだが、もし感染したらみんなに何を残せるのか、ということを再び考えるようになった。病院という建物の中なので、そんなに遠い距離ということはなく、時間的にも客観的に見れば短いはずだ。
私も言葉として相対的・絶対的ということは知っている。今感じている時間の感覚は絶対的な視点から見れば短時間になるが、私のここで感じている時間はとてつもなく長い。時間についてそういった感覚で捉えたことはこれまでなかったが、感染症問題にあって初めて体験した。
待合室に着いた。指定された時間があったので病院に着いた時と玄関に立った時に時間を確認したが、この時点でも時計を確認した。自分の感覚では結構な時間が経過したように思ったものだが、時計は3分しか進んでいなかった。ここに着くまで感じていた時間と実際の時間との差を改めて実感したことになるが、見渡すと思った以上の人がいた。
「この人たちも俺と同じ気持ちなんだろうな」
心の中でつぶやいた。自分が座れる場所を探すために待合室を見渡したが、同時にみんなの表情も見える。当然だが、誰一人として明るい表情の人はおらず、全員うなだれている様子が見られた。私も他の人から見れば同じ表情をしてるのだろうと思いながら受付を済ませ、空いている椅子に腰かけた。
受付のエリアには飛沫防止用のビニールのようなものがあり、下の隙間から問診表のようなものを渡され、私は保険証を提示した。これまでほとんど医者にお世話になったことは無いが、マスク姿が多いのは病院なので違和感はない。だが、受付の様子はあまり病院にお世話になったことが無い私にも不思議な光景に見えた。
20
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【新作】読切超短編集 1分で読める!!!
Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。
1分で読める!読切超短編小説
新作短編小説は全てこちらに投稿。
⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
微熱の午後 l’aprés-midi(ラプレミディ)
犬束
現代文学
夢見心地にさせるきらびやかな世界、優しくリードしてくれる年上の男性。最初から別れの定められた、遊びの恋のはずだった…。
夏の終わり。大学生になってはじめての長期休暇の後半をもてあます葉《よう》のもとに知らせが届く。
“大祖父の残した洋館に、映画の撮影クルーがやって来た”
好奇心に駆られて訪れたそこで、葉は十歳年上の脚本家、田坂佳思《けいし》から、ここに軟禁されているあいだ、恋人になって幸福な気分で過ごさないか、と提案される。
《第11回BL小説大賞にエントリーしています。》☜ 10月15日にキャンセルしました。
読んでいただけるだけでも、エールを送って下さるなら尚のこと、お腹をさらして喜びます🐕🐾
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる