[完結]飲食店のオーナーはかく戦えり! そして下した決断は?

KASSATSU

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緊急事態宣言発出 34

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「感染者が増えてきた時から緊急事態宣言の話は出ていたし、こういうことは私たちで何とかできる問題じゃないわ。外国ではすでにロックダウンということで大規模な都市封鎖をしているじゃない。それに比べると今分かっている規制はそこまでではないし、日本でロックダウンを行なうには法的に無理がある、とテレビで言ってたでしょう。私たちだけが影響を受けるのならば必死に抵抗したでしょうけど、期限があるようだし、いろいろ支援もあるわ。ウチの場合は居酒屋だからテレビで言っているような接待を伴う飲食店ではないし、営業時間の短縮はあるけれど、ランチも始めたし、何とか乗り切りましょうよ」
 美津子の口から出た言葉は、意外と力強いものだった。こういう時は女性のほうがハラが括れるのかもしれないが、少なくとも私はこの言葉に救われた気がした。本当は私がこういうことを言わなければならないのだろうが、今回はそれができなかった。
 そこには小さいながらも会社の代表取締役という肩書も関係しているのかもしれない。もし店が、会社がつぶれたら、という気持ちが先に立ってしまったのだ。
 だが、美津子の一言でそれではいけないという気持ちに変わった。もし、美津子の頑張ろうという気持ちを耳にしていなければ、多分今日、店でずっと暗い顔をしていたかもしれない。テレビの話をそのまま心の中にしまい込み、その不安がどんどん心の中で増殖し、どうにもならない状況に陥ったかもしれないのだ。
 美津子との話は時間をかけたものではなかったが、その時の力強さが私の暗い気持ちを転じさせてくれた。長く話したからといって気持ちが変わるわけではなく、短い会話でも魂が入っていれば変わるということを経験したような気がした。
 となると、ますます知恵を絞り、できることを積極的に行ない、何とか売り上げの減少の幅を小さくしなければならない。そこで再び美津子に話しかけた。
「ありがとう。ちょっと落ち込んでいたけど、また気持ちが復活した。ということで、具体的にはどうしようか」
 またここで「どうしよう」という言葉が出たが、今度は先ほどとは異なる。未来が見えないという意味を込めてのものではなく、積極的に仕掛けていく意味での言葉だ。
 だが、今言われてもすぐに回答できるようなテーマではない。さすがに今度は美津子も即答できないし、本来は人に尋ねるだけでなく、自身でも考えなくてはならないことだ。だからすぐに言葉を修正し、お互いの店のスタッフとも相談し、そこで何ができるかを考えようということになった。
「でも、大変なことになったね。新型ウイルスのことで私たちでできることは感染予防策の実践だけだけど、世の中の動きはいろいろな人がいる分、自分たちだけが頑張ってもどうしようもできないことがあるしね。でも、そういった一人一人が気を付けなければもっと大変なことになるので、少なくとも自分たちの周りからは感染者が出ないように気を付けるしかないよね。俺、今回ちょっと気弱になってしまったが、美津子は今回、気持ちが強かったね。今までなら俺が力づけることが多かったように思うけど、もしかしてこの前、奥田先生のところに行ったことが関係する? あの後、すごく身体も気持ちも軽くなったって言ってたけど、何か関係あるのかな?」
 私は美津子に結構真顔で尋ねた。私自身も身体を整えてもらうことで気持ちも解放され、心のモヤモヤが吹き飛ぶようなことを経験したことがある。他の整体院ではそういうことは無かったが、奥田のところでは経験があったからこその質問だった。美津子は笑って言った。
「私、そういうことは詳しくないから分からないけど、何かあるかもね。奥田先生もおっしゃっていたけど、心と身体は密接につながっているということだから、まだその効果が残っているかもね。あなたも気になるなら、どこかで時間を取って行ってみたら?」
 美津子のその言葉に、明日にでも行ってみようと思った。そうすると予約しなければならないが、現状を考えると、また先日の美津子の時のような感じになるかもしれない。でも、ここは相談ということで電話をかけることにした。
 結果、先日と同じように対応してもらい、予約を取ることができた。
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