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緊急事態宣言発出 7

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「そこで今回の新型ウイルスのことだけど、みんなはどう考えている?」
 私は全員の顔を見ながら率直な考えを聞いた。だが、予定していなかった質問だったためか、互いに顔を見合わせ、口ごもっている。もちろん、毎日のようにこの話題がテレビなどで報道されているため、何かしら考えているのは分かるが、いざ改めてみんなの前で話すとなると事情が違うのだろう。
 私はそういうことも理解しているつもりなので、みんなが口を開くまで少し待つことにした。矢島は少し違った様子だが、アルバイトの2人は下を向いたりしている。でも、何か言おうとしている気持ちは何となく分かった。
 そういう様子を見て、矢島が口火を切った。チーフという立場と、自分の将来の夢にも関係することだからという意識なのだろう。
「今日、俺は厨房の中だったからお客さんの話などは聞こえなかったけれど、カウンターに座っている人の話は聞こえた。さっき、店長がおっしゃったように、こんな状況が続けば居酒屋といった商売には打撃だ。もちろん、それは俺たちだけのことではなく、社会的にもみんながおかしくなる。お前たちの周りはどうだ? 大学の友達と話すことは無いか?」
 矢島は他の2人に向かって聞いた。私が話すよりも自分たちに近い矢島からの問いかけに1人が口を開いた。
「今、大学は休みなんで、学校で話すといったことは無いけど、電話の中では影響が出ていることを感じています。俺の場合、この店でいつものようにバイトができ、収入にも変わっていないけど、中には時間が減って、生活が苦しくなりそう、といった話も聞いています。そういう話を聞くと、正直言ってここは大丈夫かな、って思うこともあります。店長には失礼ですけど・・・」
 仕事の時と違って小さな声だったが、本音が聞けた感じだった。だからこそ、私はすかさずこの話についての考えを話した。
「今、聞いたこと、俺も心に刺さった。悪い意味ではなく、そういう本音を聞きたかったんだ。聞いたからといって1人の力で何とか出来るというわけではないけど、少なくともいろいろ工夫しようという気持ちが高まっていくし、だからこそアイデアも湧き、そして実践できると思う。これからどうなるか分からないし、報道を見ていると外国の感染状況は日本よりも大きな数字になっている。日本もいつ感染拡大し、外国のようにならないとも限らない。そんな中でできることは少ないだろうが、みんなの仕事や生活を護るということにもつながるし、ここは協力してほしい」
 私はせっかく何かの縁で集まった、ということを大切にしたかった。アルバイトのスタッフは大学を卒業すれば東京から去っていくこともあるだろうが、それでもここで頑張った仲間であることは変わりない。いずれ同窓会的な感じで会うこともあるかもしれない。その時、いろいろな思い出話に花が咲くことになるだろうが、今回のようなことについても語り合えるようにしておきたい。そのためには今、何としても仕事を継続し、この場を護らなくてはならない。
 だが、その希望はあっても、どうしようにもできないこともあるかもしれない。だからこそこの点は曖昧にできず、襟を正し、みんなに話したのだ。
「俺はこの店をずっとやっていきたい。だが、今回のことのように、何があるか分からないというのも事実だ。そういうことを念頭にいろいろ考えなくてはならないだろうが、今はみんなで力を合わせ、何とか乗り切っていこうと思っている。今日の話はそのための心を決めるきっかけになればと思っている」
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