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内弟子物語 第Ⅶ話 解決22

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「ビビッてんじゃねぇぞ。怖くて動けないのか」
 黒田と北島が高山にヤジを飛ばした。もちろん、高山は動じないが、黒田たちは両者に動きがないことにイライラしているのだ。この時の高山の頭には、武術らしい勝負の付け方がイメージされていた。最初に戦った堀田に触発され、間合いが詰まった瞬間に勝負がついている、というシーンだ。だから自分から不用意に間合いを詰め、そこを狙われるようなリスクを冒さず、逆に相手の動きに合わせた反撃をしようと決めていた。
 だからこのヤジは、高山よりも大木のほうに響いた。榊は高山の様子が変わらないことから、まず左足で踏み込み、左のジャブで顔面をとらえようとした。この時はしっかり顔面を捉えようと意識していたため、踏込が深かった。
 高山が待っていたのはそのタイミングだ。大木は中段の突きが来るものと考えていたが、実は高山の狙いは中段の前蹴りだった。構えを下げたり、右拳を腰に据えたりしたのは、大木に中段突きを意識させるためのポーズだったのだ。突きと思っていたのが蹴りだったので、射程距離に差が出る。大木のパンチが届く前に、高山の上足底がきれいに水月(すいげつ)を捉えた。
 その時の高山の上体は微動だにせず、右足だけがきれいに伸びた。居合いの抜刀の瞬間を見ているような鮮やかさだ。
 高山の蹴りはしっかり相手の身体を蹴り抜いたが、大木もプロとして活躍したことがある。それなりにトレーニングもやっているだろうということも想定済みだったので、二段目の攻撃として前傾した瞬間、高山の足刀が大木の左膝の内側をとらえた。高山は前蹴りの蹴込みの後、すかさず下段の足刀関節蹴りを行なったのだ。大木の身体は左側に崩れた。駄目押しの一撃として、高山の右手刀が大木の首を打った。
 ただ、この時は高山にも余裕があったので、大きなダメージにならないよう手加減をした。それは手刀打ちだけでなく、足刀関節蹴りも同様だった。あえて関節に大きな負担がかからないよう、蹴る場所を変え、身体を崩す程度にとどめた。最初の前蹴りでそれなりの手応えがあったからだ。最後の手刀打ちは、前蹴り、関節蹴りでまともに立てなくなっているはずなので、完全に負けを理解させるための攻撃だった。
 大木は首を押さえながら倒れた。立ち上がるまで1分以上かかり、誰の目にも負けは見えていた。黒田たちが大木のほうに駆け寄り、心配している。北島に支えられ、左足を引きずるようにして歩き、仲間のいるほうに退いた。この勝負も黒田たちの完敗だった。
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