上 下
120 / 174

内弟子物語 第Ⅵ話 誘い6

しおりを挟む
 次の日、龍田のもとに電話が入った。ちょうど龍田が事務所にいる時だった。そこには全員揃っている。前日、藤堂も含め全員で、きちんと対応するという話が通っているので、龍田にとってみればちょうど良いタイミングだった。
 携帯電話への着信だったので、電話番号から相手が誰か分かった。龍田は藤堂や他の内弟子たちに目配せし、電話に出た。
「龍田。返事聞かせてもらおうか」
 意外にも、電話の相手はチームのリーダー、黒田からだった。電話番号はこれまでと同じだったが、かけてきた者が違った。一瞬、龍田は戸惑ったが、気持ちは決まっているので、何の問題もなかった。今回、黒田が電話かけたのは、龍田が思惑通りの返事をしないので、リーダーとして脅しの意味も含めて電話をかけてきたのだ。
 普通の人なら不安になるような口調で話してきたが、龍田も以前はそういう世界にいた。だから、そういう話し方だけなら何とも思わない。周りの人へ迷惑をかけることだけが心配だった龍田にとっては、その点が解消されたことで、何のプレッシャーにもならない。
 全て相談済みで、しかもはっきりみんなが自分の味方になってもらえるという話ができているので、きっぱり断った。
「入るつもりはないよ。それより黒田。いつまで昔みたいなバカなことやっているんだ。俺たちの時代は終わっただろう。いい加減、そんなことから卒業しろよ」
 龍田は断るついでに説教した。それは黒田の感情を逆なでするものだった。以前は同じ土俵に立っていた者が、今は違う土俵に立っているということにも、黒田としては面白くない部分がある。自分の言うことを聞かないということだけでなく、一歩先に進んでいることを言われたことにも腹を立てている。
「よく言ったな、龍田。お前の考え、よく分かったよ。だがな、俺の性格、知ってるだろう。これだけ恥かかせておいて、ただで済むと思うな。お前の居場所、ちゃんと分かっているからな。しっかり落し前、つけてもらうからぞ」
 そう言って、黒田のほうから電話を切った。
 話の内容は、まるでヤクザの台詞だ。言い方も、先ほどよりは凄みをきかせている。龍田は電話を切った後、話の内容や雰囲気を全員に伝えた。大体の想像はしていたが、ほぼ予想通りの内容だった。
 だが、そういう言い方をしても、たいていはそこで終わり、その後何もないことが多い。いわゆる、捨て台詞だ。だから気にすることはない、という気持ちはあるが、黒田の性格を知っている龍田にとっては、本当に何かするのではないかという一抹の不安は持っている。
 しかし藤堂は、龍田が自分の意思を明確にしたことで、第一段階は成功したと考えた。しばらく様子を見なければならないが、今後の対応について説明した。
「龍田君の話だとしつこいらしいから、また何か言ってくるかもしれないし、このまま終わってしまうかもしれない。たしか実家はN県だったな。東京までは距離もあるし、わざわざここまで来るとも考えにくい。用心に越したことはないが、それは武道を学ぶ者としては日常的な意識だ。だから取り立てて気にしすぎる必要はない。いつも通りにやっていくぞ」
 龍田の明確な返事を聞いたところで、改めて全員に内弟子本来の意識に戻ることを促した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍皇伝説  壱の章 龍の目覚め

KASSATSU
現代文学
多くの空手家から尊敬を込めて「龍皇」と呼ばれる久米颯玄。幼いころから祖父の下で空手修行に入り、成人するまでの修行の様子を描く。 その中で過日の沖縄で行なわれていた「掛け試し」と呼ばれる実戦試合にも参加。若くしてそこで頭角を表し、生涯の相手、サキと出会う。強豪との戦い、出稽古で技の幅を広げ、やがて本土に武者修行を決意する。本章はそこで終わる。第2章では本土での修行の様子、第3章は進駐軍への空手指導をきっかけに世界普及する様子を独特の筆致で紹介する。(※第2章以降の公開は読者の方の興味の動向によって決めたいと思います) この話は実在するある拳聖がモデルで、日本本土への空手普及に貢献した稀有なエピソードを参考にしており、戦いのシーンの描写も丁寧に描いている。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

亡き少女のためのベルガマスク

二階堂シア
青春
春若 杏梨(はるわか あんり)は聖ヴェリーヌ高等学校音楽科ピアノ専攻の1年生。 彼女はある日を境に、人前でピアノが弾けなくなってしまった。 風紀の厳しい高校で、髪を金色に染めて校則を破る杏梨は、クラスでも浮いている存在だ。 何度注意しても全く聞き入れる様子のない杏梨に業を煮やした教師は、彼女に『一ヶ月礼拝堂で祈りを捧げる』よう反省を促す。 仕方なく訪れた礼拝堂の告解室には、謎の男がいて……? 互いに顔は見ずに会話を交わすだけの、一ヶ月限定の不思議な関係が始まる。 これは、彼女の『再生』と彼の『贖罪』の物語。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...