上 下
62 / 174

内弟子物語 第Ⅳ話 怪我4

しおりを挟む
 特別稽古初日。いつもの早朝稽古はこれまで通り行なわれた。
 ただ、今日は終日、特別稽古になる。しかも、身体を動かすだけではない。学校のような座学もあるのだ。その部分については、龍田以外は結構興味を持っている。だが、座学の話には龍田の意識が上がらないのだ。
 もちろん、整体術・活法を学ぶ時にも座学はあったが、そういうことであれば龍田も問題なく受講していた。
 しかし、今日の座学は活殺自在に関係するとはあまり思えないと考えている気持ちが龍田の中にあり、それがノリの悪い部分を作っているのだ。
 だが、予定は予定だ。時間は過ぎていく。今日は朝食後、特別稽古の最初の座学が始まる。
 朝食はみんな一緒に簡単にとることになった。こういうことは心を一つにする意味がある。そこで少しでも龍田の意識が変わればという期待が、藤堂をはじめ、他のみんなの心の中にもあった。なるべく食事中に良い雰囲気を作り、そこからうまく座学に持っていければという思いで朝食を囲むことになったのだ。
 なるべく時間の無駄を省くため、朝食は事務所と教室を活用することになっている。実は事務所の奥には簡単な台所があり、そこで調理し、教室で食べることができる。朝食のメニューはトーストとジュース、スクランブルエッグとベーコン、フルーツといった内容だ。これくらいのものであれば事務所の台所でも十分作れる。
 教室と事務所は隣同士なので、作ったら運んでくることになるが、そこは全員で手分けして行なう。
 調理する役は御岳だ。自衛隊時代、野営の訓練で手早く料理を作っていた経験がある。事務所にある台所くらいの設備があれば、お手の物なのだ。手際よくテーブルに料理が運ばれる。普段は教室として使用しているため、ここに料理が並んでいると違和感を覚えるが、何だか意識が一つになったような感じがして嬉しい。それは龍田も含め、全員が同じ気持ちだった。
 全員分揃ったところで食事が始まった。
「いただきます」
 並んでいる料理は、トースト以外は1人分ずつそれぞれに用意してある。そのため、一斉にトーストに手が伸びた。
 食べ盛りの若者たちであり、しかも早朝稽古で身体を動かした後だ。お腹が空いているのは誰が考えても分る。
「そんなに慌てなくてもトーストは逃げないよ。お代わりはいくらでもあるから、お腹一杯食べなさい」
 その様子を見て藤堂が言ったが、言葉を聞いてか聞かずか、みんなの食欲は変わらない。藤堂は嬉しそうにその様子を見ていた。元気の源である食事をきちんと摂れるかどうかは、とても大切なことだ。みんなの食欲は、その証明のようなもので、藤堂には改めてそれが頼もしく思えたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍皇伝説  壱の章 龍の目覚め

KASSATSU
現代文学
多くの空手家から尊敬を込めて「龍皇」と呼ばれる久米颯玄。幼いころから祖父の下で空手修行に入り、成人するまでの修行の様子を描く。 その中で過日の沖縄で行なわれていた「掛け試し」と呼ばれる実戦試合にも参加。若くしてそこで頭角を表し、生涯の相手、サキと出会う。強豪との戦い、出稽古で技の幅を広げ、やがて本土に武者修行を決意する。本章はそこで終わる。第2章では本土での修行の様子、第3章は進駐軍への空手指導をきっかけに世界普及する様子を独特の筆致で紹介する。(※第2章以降の公開は読者の方の興味の動向によって決めたいと思います) この話は実在するある拳聖がモデルで、日本本土への空手普及に貢献した稀有なエピソードを参考にしており、戦いのシーンの描写も丁寧に描いている。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

亡き少女のためのベルガマスク

二階堂シア
青春
春若 杏梨(はるわか あんり)は聖ヴェリーヌ高等学校音楽科ピアノ専攻の1年生。 彼女はある日を境に、人前でピアノが弾けなくなってしまった。 風紀の厳しい高校で、髪を金色に染めて校則を破る杏梨は、クラスでも浮いている存在だ。 何度注意しても全く聞き入れる様子のない杏梨に業を煮やした教師は、彼女に『一ヶ月礼拝堂で祈りを捧げる』よう反省を促す。 仕方なく訪れた礼拝堂の告解室には、謎の男がいて……? 互いに顔は見ずに会話を交わすだけの、一ヶ月限定の不思議な関係が始まる。 これは、彼女の『再生』と彼の『贖罪』の物語。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...