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内弟子物語 第Ⅲ話 選挙という戦い15
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間もなく出発の時間になった。
この日の午前中は高山が若林のそばに立つことになった。堀田は別の車で予定の場所に向かった。1日数回の演説を予定している若林だが、今日は比較的近場で行なうため、午前中に3ヶ所、午後に4ヶ所で行なうことになっている。
最初の予定地に着くと、選挙戦も後半になったせいか、予想通りいずれの場所も最初の頃よりも聴衆が多くなり、倍以上になっている。
「こんな人数で何かあったら大変だな」
高山は若林の傍にいて思った。
しかし、午前中は幸い、何も起こらず、通常通りの演説会になった。話の中身はますます濃くなり、若林の必死の訴えが聴衆に響いているのが高山にも分かった。
午前中、いずれの場所でも同様の手応えで予定が終了し、一同、事務所に戻った。そこで簡単に昼食をとり、午後の予定の確認を行なった。午後は堀田が若林のそばに付き、高山が自由に動くといった手筈だ。
一時間の休憩の後、若林たちは事務所を出た。
午後2時。この日の後半、2回目の演説となる。
若林は演台に立ち、これまでのように、そして時にはこれまで以上の熱弁をふるっている。あと少し、という思いがあるのだろう、市政に対する改革の訴えと、それを実現するための投票の依頼が、聞く者の耳を捕えていた。集まっている聴衆は若林の必死の訴えにうなずいているものが多い。ここにいるのは、若林支持の人たちばかりという感じだ。
そういう中、堀田が一人の不審な人物を発見した。すぐに若林のもとにマイクを持って立った。ほぼ同時に高山もその不審者に気づき、聴衆の中をかき分けて近づいた。
不審者は無表情だが、目つきが険しすぎる。動きもおかしい。他の聴衆を強引に掻き分け、前のほうに出ようとしている。話を前で聞きたいというより、攻撃的な感じが前面に出ている。明らかに他の人と違っているのだ。手には何か入っていると思われる袋を持っている。前に進む際、袋の中に手を入れ、中身を探っている。
堀田と高山の緊張はピークに達した。
「この男、何かやるかもしれない」
2人は不審者を注視した。高山はすでに不審者の隣にポジションを取っていた。
若林の演説がピークを迎えようとした時、その男は袋から何か取り出し、罵声をあびせながら若林に投げつけようとした。高山はそれが手から離れようとした瞬間、手刀打ちで小手を払った。不審者にとっては予期しないことだったので、手刀打ちは大変効果的で、投げようとしたものが地面に落ちた。それは腐ったリンゴだった。
一方の堀田は、事前に稽古した動きそのままに若林をガードした。2人の連携は見事で、堀田と高山の俊敏な動きは、若林にかかる危害を未然に防いだ。若林は堀田に守られ、選挙カーに乗り込んだ。
高山は不審者がその場から逃げようとしたので追いかけた。無理なことはするな、と藤堂から言われていたが、このまま逃がしてはいけないと思ったのだ。
20メートルほど追いかけると、不審者は転倒した。追いついた高山はその不審者を捕まえようとしたが、起き上がりざま、懐からナイフを取り出した。へっぴり腰ではあったが、ナイフの切っ先は高山のほうを向いている。こういう展開を藤堂は心配していたのだが、こうなっては後に引けない。
この日の午前中は高山が若林のそばに立つことになった。堀田は別の車で予定の場所に向かった。1日数回の演説を予定している若林だが、今日は比較的近場で行なうため、午前中に3ヶ所、午後に4ヶ所で行なうことになっている。
最初の予定地に着くと、選挙戦も後半になったせいか、予想通りいずれの場所も最初の頃よりも聴衆が多くなり、倍以上になっている。
「こんな人数で何かあったら大変だな」
高山は若林の傍にいて思った。
しかし、午前中は幸い、何も起こらず、通常通りの演説会になった。話の中身はますます濃くなり、若林の必死の訴えが聴衆に響いているのが高山にも分かった。
午前中、いずれの場所でも同様の手応えで予定が終了し、一同、事務所に戻った。そこで簡単に昼食をとり、午後の予定の確認を行なった。午後は堀田が若林のそばに付き、高山が自由に動くといった手筈だ。
一時間の休憩の後、若林たちは事務所を出た。
午後2時。この日の後半、2回目の演説となる。
若林は演台に立ち、これまでのように、そして時にはこれまで以上の熱弁をふるっている。あと少し、という思いがあるのだろう、市政に対する改革の訴えと、それを実現するための投票の依頼が、聞く者の耳を捕えていた。集まっている聴衆は若林の必死の訴えにうなずいているものが多い。ここにいるのは、若林支持の人たちばかりという感じだ。
そういう中、堀田が一人の不審な人物を発見した。すぐに若林のもとにマイクを持って立った。ほぼ同時に高山もその不審者に気づき、聴衆の中をかき分けて近づいた。
不審者は無表情だが、目つきが険しすぎる。動きもおかしい。他の聴衆を強引に掻き分け、前のほうに出ようとしている。話を前で聞きたいというより、攻撃的な感じが前面に出ている。明らかに他の人と違っているのだ。手には何か入っていると思われる袋を持っている。前に進む際、袋の中に手を入れ、中身を探っている。
堀田と高山の緊張はピークに達した。
「この男、何かやるかもしれない」
2人は不審者を注視した。高山はすでに不審者の隣にポジションを取っていた。
若林の演説がピークを迎えようとした時、その男は袋から何か取り出し、罵声をあびせながら若林に投げつけようとした。高山はそれが手から離れようとした瞬間、手刀打ちで小手を払った。不審者にとっては予期しないことだったので、手刀打ちは大変効果的で、投げようとしたものが地面に落ちた。それは腐ったリンゴだった。
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