内弟子物語 ー捨てきれない夢、武術の究極「活殺自在」を求める５名の青春群像ー

内弟子物語 第Ⅲ話 選挙という戦い９

　藤堂のポジジョンは最初のままだ。御岳の左側に立っている。
　まず、身体の動かし方について実際にやってみた。
　このポジションから、左右いずれに避ける場合でも、右腕で相手を支えるような形になり、自分と同体になったイメージで動かさなければならない。
　藤堂は御岳の背中中央付近から斜めに、素早く右腕を回した。その瞬間、藤堂の左足が後方に移動した。左足の移動と共に御岳の身体を巻き込むような感じで引き寄せ、同時に伏せる姿勢に持っていった。その際、マイクを持っていた左手は御岳の胸部を支え、地面に強く当たるのを防いでいた。
　非常に滑らかで、しかも大きく動いたことに一同驚いた。
　その形は社交ダンスのようにも感じる。今回の場合ダンスではないが、２人が呼吸を合わせてスムーズに動くには、傍目で見るとダンスを踊っているかのような滑らかさが必要になる。それが無理なく、素早く動かすコツであり、そこには同体の意識が必要になる。
「今のポイントは分かるか？」
　藤堂が尋ねた。しかし、返事がない。藤堂は続けて説明した。
「運足、転身は空手でも行なっていることなので分かると思うが、今回のポイントは右手の使い方にある。相手と一体になる、という意識で腕を回す場合、例えばそれが肩であれば上半身だけが動かされ、下半身が居着いてしまう。これでは動きが遅くなる。やはり腰を中心にした動きを意識しなければならないが、腰だけに負担がかかるような腕の置き方にすれば、咄嗟のことだけに対象者が腰を痛める危険性がある。そこで腕を斜めに自然に回し、上半身全体を意識した形で腰を確保し、自他一体になって動く。その時の腕の状態、つまり置き方だけでなく力まないとか、どう動かすかといったこともポイントになる。この意識で稽古を始める」
　藤堂の模範と説明の後、各々身体を動かすことになった。
　最初は単独で藤堂が示した動きをやってみる。初めから組んで行なうと身体の使い方に力みが出やすいからだ。それは、咄嗟の行動の際、遅れをとる原因になる。だからまず一人できちんとした身体の使い方を習得し、そこから実際に若林役を置き、ペアを組んで行なう。最終段階で実際に箱を投げ、それをかわす稽古に入る、というプログラムだ。
　藤堂は各人の癖をチェックし、それに応じてアドバイスをしている。
　最初はぎこちなかったが、さすがに内弟子として稽古しているだけあって、ある程度回数をこなしたら、それなりの動きになってきた。そこでペアを組んだ稽古から最終段階の稽古へと進んでいった。
「止め。これから御岳君を若林先生役にして、実際の場面を想定して稽古する。さっきは高山君が暴漢役だったので、今度は守る側に立って行なってみよう」
　指名され、高山が御岳の左側にポジションをとった。堀田が暴漢として箱を投げる役目だ。
　模擬実戦ということで、高山はもちろん、堀田も緊張の中で暴漢役としてのポジションに付いた。