7 / 174
内弟子物語 第Ⅰ話 入門6
しおりを挟む
最近、稽古に何か物足りなさを感じていた高山は、一人でいろいろ考えていた。自分が求めている空手とはこういうものだろうか、自分より強い相手というのはいるのか、など自問自答することが続いた。
そんな時、高山はある本屋に立ち寄った。読みたい本があるのではない。しかし、何か誘われるような感じで入っていった。
特別探しているものがあるわけではないので、何気なく運動関係のコーナーを覗いてみた。空手関係の本でも見ようか、といった軽い感じである。これまでいろいろな本を見たが、どれも興味が湧かず、ほんの時間潰し程度の感覚だった。
だが、今回は違った。
偶然ではあったが、藤堂の著書が高山の目に飛び込んだのだ。よくある技術解説書、あるいは武勇伝的な本には興味を示さなかったが、たまたま目にした活殺自在をテーマにした藤堂の本は、高山の心を捕えて離さなかった。
すぐに本を手にし、食い入るように読んだ。内容はたしかに難しい。しかし、高山の心を引き付けるのに十分な情報が、これでもかというレベルで書かれていた。
「俺が求める空手はこれだ!」
思わず高山は口にした。
すぐさまレジに行き、本を購入した。そして、その足で叔父のところに向かった。
高山の叔父は整体をやっており、以前から身体を診てもらっていたので、多少の興味は持っていた。しかし興味がある程度で、それ以上のものではなかった。ところが、藤堂の本によって空手と整体が一気に結びついてしまったのだ。そしてそれは、自分の中でモヤモヤしていた部分を払拭するのに十分な内容を持っていた。
「叔父さん。ちょっとこの本、見てもらいたいんだけど」
「何だい、藪から棒に」
突然の訪問と、いきなり本を出された叔父は驚いた。高山の様子がいつもと違い、大変興奮しているのだ。
「この本を読んで、意見を聞かせて」
叔父に藤堂の本を見せ、感想を聞こうとした。
しかし、残念ながら藤堂の整体は武道をベースにしたもので、表面的に見える技術には似たようにものもあるが、本に記されている内容から叔父がやっている整体とは異なったものだった。
「誠、この先生の整体は難しいよ。本を読めば分かるけれど、武道がベースになっているじゃないか。俺がやっている整体には、武道の要素がないからね。だから、ここに書いてあることは、俺にも理解できないところがある」
武道の関節技と骨格の調整法の解説だったが、高山の叔父が行なっている整体とは方法や基本的な理論が異なったのだ。
高山には、整体だから同じようなものだろうくらいの認識しかなかったため、叔父のこの言葉にびっくりした。同時に藤堂の技術にますます興味が湧いてきた。
次に向かったのは空手部の師範のところだ。
「師範、さっき本屋さんで見つけた本ですが、感想を聞かせてください」
その師範は何ページか目を通し、高山に言った。
「藤堂先生のことを空手雑誌などで知っているが、流派が違うし、自分たちにはこのような技術はないよ。だから感想と言われても、内容についてコメントできない。でも、自分にもとても勉強になりそうだ」
返ってくる答えは、とても高山を満足させるものではなかった。
実際、高山が所属する流派には活法に類するものは伝授されておらず、師範自身も競技空手の出身なので、藤堂の本にあるような考えや技術は知らないし、理解できない部分があったのだ。
「師範、ここに書いてあるのはどういうことですか?」
高山は具体的なページを指し、説明を求めた。
そこは急所に関するところだったが、師範の説明では神経が関係するのかな、くらいの曖昧な回答だった。それくらいのことなら自分でも分かると思った高山は、武道のほうからも満足のいく答えを得ることができなかった。
これまでの指導では、試合での勝ち方は聞いていたが、どちらが先にポイントを取るかということがメインで、どうしたら勝負に勝てるか、といったことではない。
もちろん、ここで言う勝負とは実戦を想定したもので、大会等でいう勝ち負けとは異なる。高山は普段の稽古に中で、この点が払拭されないところに不満を感じていた。だからこそ藤堂の本に大変興味を示し、そに関係することを一番近い師である師範に尋ねたが、返ってきた答えは満足を得るものではなかったのだ。
高山はここで決心した。
藤堂に会いに行こう。自分の思っていることを尋ねてみよう。そして、自分もそういうことを学べるものかを確認したい。
一気にいろいろな考えが頭をよぎり、気持ちはすっかり藤堂のもとへ飛んでいた。
そんな時、高山はある本屋に立ち寄った。読みたい本があるのではない。しかし、何か誘われるような感じで入っていった。
特別探しているものがあるわけではないので、何気なく運動関係のコーナーを覗いてみた。空手関係の本でも見ようか、といった軽い感じである。これまでいろいろな本を見たが、どれも興味が湧かず、ほんの時間潰し程度の感覚だった。
だが、今回は違った。
偶然ではあったが、藤堂の著書が高山の目に飛び込んだのだ。よくある技術解説書、あるいは武勇伝的な本には興味を示さなかったが、たまたま目にした活殺自在をテーマにした藤堂の本は、高山の心を捕えて離さなかった。
すぐに本を手にし、食い入るように読んだ。内容はたしかに難しい。しかし、高山の心を引き付けるのに十分な情報が、これでもかというレベルで書かれていた。
「俺が求める空手はこれだ!」
思わず高山は口にした。
すぐさまレジに行き、本を購入した。そして、その足で叔父のところに向かった。
高山の叔父は整体をやっており、以前から身体を診てもらっていたので、多少の興味は持っていた。しかし興味がある程度で、それ以上のものではなかった。ところが、藤堂の本によって空手と整体が一気に結びついてしまったのだ。そしてそれは、自分の中でモヤモヤしていた部分を払拭するのに十分な内容を持っていた。
「叔父さん。ちょっとこの本、見てもらいたいんだけど」
「何だい、藪から棒に」
突然の訪問と、いきなり本を出された叔父は驚いた。高山の様子がいつもと違い、大変興奮しているのだ。
「この本を読んで、意見を聞かせて」
叔父に藤堂の本を見せ、感想を聞こうとした。
しかし、残念ながら藤堂の整体は武道をベースにしたもので、表面的に見える技術には似たようにものもあるが、本に記されている内容から叔父がやっている整体とは異なったものだった。
「誠、この先生の整体は難しいよ。本を読めば分かるけれど、武道がベースになっているじゃないか。俺がやっている整体には、武道の要素がないからね。だから、ここに書いてあることは、俺にも理解できないところがある」
武道の関節技と骨格の調整法の解説だったが、高山の叔父が行なっている整体とは方法や基本的な理論が異なったのだ。
高山には、整体だから同じようなものだろうくらいの認識しかなかったため、叔父のこの言葉にびっくりした。同時に藤堂の技術にますます興味が湧いてきた。
次に向かったのは空手部の師範のところだ。
「師範、さっき本屋さんで見つけた本ですが、感想を聞かせてください」
その師範は何ページか目を通し、高山に言った。
「藤堂先生のことを空手雑誌などで知っているが、流派が違うし、自分たちにはこのような技術はないよ。だから感想と言われても、内容についてコメントできない。でも、自分にもとても勉強になりそうだ」
返ってくる答えは、とても高山を満足させるものではなかった。
実際、高山が所属する流派には活法に類するものは伝授されておらず、師範自身も競技空手の出身なので、藤堂の本にあるような考えや技術は知らないし、理解できない部分があったのだ。
「師範、ここに書いてあるのはどういうことですか?」
高山は具体的なページを指し、説明を求めた。
そこは急所に関するところだったが、師範の説明では神経が関係するのかな、くらいの曖昧な回答だった。それくらいのことなら自分でも分かると思った高山は、武道のほうからも満足のいく答えを得ることができなかった。
これまでの指導では、試合での勝ち方は聞いていたが、どちらが先にポイントを取るかということがメインで、どうしたら勝負に勝てるか、といったことではない。
もちろん、ここで言う勝負とは実戦を想定したもので、大会等でいう勝ち負けとは異なる。高山は普段の稽古に中で、この点が払拭されないところに不満を感じていた。だからこそ藤堂の本に大変興味を示し、そに関係することを一番近い師である師範に尋ねたが、返ってきた答えは満足を得るものではなかったのだ。
高山はここで決心した。
藤堂に会いに行こう。自分の思っていることを尋ねてみよう。そして、自分もそういうことを学べるものかを確認したい。
一気にいろいろな考えが頭をよぎり、気持ちはすっかり藤堂のもとへ飛んでいた。
31
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる