私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)

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第4章 王立魔法学校一年目

閑話 破滅の道①

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「お前には失望した」

 一か月ぶりに実家に帰還したジャスパーに、父親のボークスは怒りのまなざしを向ける。

「停学処分にされると私に手紙で泣きついてきた時、お前は私になんと言った?」
「も、申し訳ありません」
「私は謝ってほしいわけではない。なんと書いてよこしたかと聞いているのだ」

 青ざめた顔で謝るジャスパーに、ボークスは怒りを抑えた声で質問する。
 言い訳は一切許さないと言ったボークスの態度に、ジャスパーは観念したように口を開いた。

「…ケルベロスを召喚させた自分を褒めるどころか、教師の横やりのせいで契約することができかったのだと。そればかりか、契約できなかったせいでケルベロスが暴れたのに、教師はなんの責任も取らずに自分だけが処罰されるのだと書きました」

 あの時は本当にそう思っていたし、今でもケルベロスが暴れたのは自分の責任ではないとジャスパーは思っていたが、ボークスはそう思ってはいないようだ。

「お前が伝説のケルベロスを召喚させたと聞いて、私は本当にうれしかったのだ。さすが我が息子だと、どれだけ喜んだものか…だがっ!!」

 その時のことを思い出しているのか、ボークスの唇が一瞬だけ弧を描く。だが、すぐにかっと目を見開くと、ジャスパーを睨みつけた。
 更に体を縮こまらせるジャスパーに、ボークスはことさら厳しい目を向ける。

「お前への不当な扱いを直談判しに行った私にガスト校長はなんといったと思う?ケルベロスを召喚できたのはお前の実力ではなく、魔道具によるものだと説明されたよ。それだけでなく、ケルベロスの暴走はお前が教師の言うことを聞かずにケルベロスを挑発したせいだとな。しかも、教師達はお前をケルベロスから守るために、負った怪我で一時は命も危うかったと聞いている。…これはどういうことだ。お前の手紙の内容と全くかみ合っておらんではないかっ」
「……」
「お前のせいで私はかかなくてもいい恥をかかされたわけだ」

 伯爵家の当主である自分が、学校の長であるとはいえ、平民に恥をかかされたのだ。ボークスにとっては耐え難い屈辱であり、その原因であるジャスパーに怒りの目が向くのは当然のことだった。

「そもそも、お前に魔道具を手に入れられるような伝手も金もないはず。どうやって手にいれた?」
「……」
「ジャスパー!!」

 血の気の失せた唇をかみしめて沈黙を守るジャスパーだったが、ボークスはそれを許さないとばかりに責め立てる。
 
「ぼ、僕は魔道具なんて使ってません」

 それでも、ジャスパーは真実を告げることはなかった。証拠の品はすでに処分してある以上、どうとでもなると思っていたのだ。
 しかし、ジャスパーの思惑は呆気なく崩されることとなる。

「まだそんな戯れことを言うのかっ!?では、お前は精霊様が嘘をついているとでも?」
「なぜ精霊様が?」

 ジャスパーは事件以降、他の生徒との接触を一切禁じられていたため、誰が情報源なのか全く知らされていなかった。驚くジャスパーに、ボークスは加護持ちの少女サラによってもたらされた情報なのだと話した。
 ガストはその際に、ジャスパーの危機を救ったのもサラなのだということを伝えていたのだが、その時点で怒りや羞恥で我を忘れていたボークスは全く話を聞いていていなかった。
 もし、ここでボークスがジャスパーにその話を伝えていれば、未来は違ったものになっていたかもしれない。

「加護持ちとは言え、平民の娘ですよっ!なのに、父上は僕よりそいつを信じるのですか!?」
「少なくとも今のお前よりは信用できる」

 「信じられない!!」と瞳を揺らすジャスパーに、ボークスは当然だとばかりに頷く。
 その瞬間、ジャスパーの心は強烈な憎悪で染め上げられた。
 そもそも最初から気に入らなかったのだ。複数の精霊様から加護を授かっただけでなく、平民でありながら自分を差し置いて王太子殿下と親し気に話すサラはジャスパーにとって邪魔な存在だった。
 そんなサラがただの猫と契約するという。これは自分の方が上位の存在なのだとを見せつけるチャンスだと思った。しかし、結果はどうだ。
 ただの猫を召喚獣にするのかと馬鹿にしていた自分をあざけ笑う様に、彼女の猫はたやすく魔法を使って見せた。
 お前とは違って自分は特別な人間なんだと見せつけられているようで、悔しかった。
 今に見ていろとケルベロスを召還した自分に待っていたのは、停学処分と無能と言うレッテルだ。
 サラさえいなければ!!
 心の中にどろどろした感情で埋め尽くされていくのを、止めることができなかった。
 いや、そもそも止める必要があるのだろうか?

『そうだ、抑える必要などない。解放するのだ』

 自分の耳元で、誰かがそう囁いた気がした。

「ジャスパー?」

 叱責の途中で、うなだれたまま全く微動だにしなくなったジャスパーをボークスはいぶかし気に見つめる。
ボークスの呼びかけに頭を上げたジャスパーの顔には一切の表情が抜け落ちていた。



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更新が遅れて申し訳ありません(汗)

5/27  変換ミスの訂正です
 失跡の途中で→叱責の途中で
 追った怪我で←負った怪我で

 後半に一部文章を追加しました。
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