私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)

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第4章 王立魔法学校一年目

234 真夜中の密会④

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能天気な声の持ち主は右の首だった。
意味がわからず首をかしげる私達を、先ほどとは違って笑顔で見つめている。
えーと、合格ってどう言うこと?

『ご、合格だと?何を言っているっ。まさか認める気ではあるまいな?』

一番最初に我に返ったのは中央の首だった。
戸惑ったように目をきょときょとさせて、右の首に尋ねている。
そんな中央の首の様子に気にすることなく、右の首は飄々と答えた。

『そもそも、僕達が口出す資格なんて本当はないんだよ。精霊王と僕達は対等ではあるけれど、仲間ではない。彼が何をしでかしたとしても尻ぬぐいする必要もないわけだしね』
『う、うぬぅっ!それはそうなのだが……』
『それに、僕達の反対に怯むことなく、戦うことをいとわないあの精神!まさかあそこで開き直るとは思わなかったよ!僕たち相手にすごい度胸だよね!これだけの図太い精神があれば、精霊王がそばにいても、変にゆがむこともないんじゃないかな?』
『まあ、確かに図太い娘よな』
『確かに、確かに。我らに許してくれと懇願するどころか、この娘はむしろ脅しよった』
『そうだよね!!』

右の首は『すごい、すごい』と瞳を輝かせて褒めてくれるけど、……これって、褒められてるって言えるの?
なんとなく馬鹿にされてるように感じるのは、気のせいかな?
少しモヤモヤするけれど、右の首はこれ以上反対する気はないようだ。
他の首も右の首の興奮ぶりに呆れ顔で、こちらに何か言う気も起きないようだ。
そのことをまずは喜ぼう。

「にー……」

マーブルを見ると、ポシェットの中からふてくされた様子でケルベロスを見ていた。
どうやら『偉そうに言うんじゃない』とご立腹のようだ。
さんざん脅されてからの手のひら返しだったのだから、無理もない。

『……これで用件はすんだとみなして帰って良いな』

モスは少し疲れ気味の様子でそうケルベロスに言う。
私自身もケルベロとの門答や慣れない夜更かしに、少し寝たとはいえ既に疲れはピークに達していて、一刻も早くベットに戻りたかった。
でも、右の首に待ったをかけられる。

『今のやり取りはちょっとした挨拶みたいなものだよ。本題は別にあるから』
『あいさつ……』

まさかの挨拶扱いに、モスが絶句したのがわかる。
私だってびっくりだ。
……あの時止めずに、石をお見舞いしてあげれば良かった。
そう思ってしまっても仕方がないよね?
私がそんなことを考えているとは露知らず、右の首が話し始めたのは驚きの事実だった。

『えーと、あっ!そうそう。あの僕達を呼び出した少年のことだけど、彼は魔道具を使って僕達を召喚しようとしていたようだね』

なんと、ジャスパー君は魔道具を使ってケルベロス達を呼び出そうとしていたと言うのだ。

「でも、魔道具なんてどこにあったの?」

私が見たことのある魔道具といえば、鑑定の儀の時にお世話になった水晶玉ぐらいだ。
ジャスバー君が水晶玉を持っていたら、私だってさすがに気づくはず。
だけど、ジャスパー君は特に何かを持っていたという記憶は私にはなかった。

『指輪だよ。彼の持っていた指輪には魔力が込められていて、足りない魔力をその魔力で補おうとしていたようだね。しかも彼は不特定多数の魔物を呼び出すのではなく、僕達を特定して召喚を行おうとした』

右の首に言われて、ジャスパー君が通常の詠唱の後に両手を前に突き出し、新たな詠唱を付け加えていたことを思い出す。

『たかが人間が僕達を召還できると思うとは、なめられたものだね』

実際はそれでも魔力量が足りず、召喚は失敗に終わるはずだったらしい。
それを懐かしい気配を感じ取った左の首と中央の首が魔力の痕跡を頼りに無理矢理道をつなげて、ここまでやって来たのが事の真相らしい。
自ら進んで来たんだったら、あそこまで怒んなくても良いのに、とは思ったものの、口に出して言うとややこしくなりそうなので黙っておく。
魔法陣が光ることがなかったのは成功していなかったからで、ケルベロスが校庭に現れるのに少しタイムラグがあったのもそのためだ。

『今回の召喚で魔道具は使えなくなっていると思うけど、今後こんなことが起こらないように君から言っておいてよ』

右の首にそうお願いされてしまった。
『君ならできるでしょ?』と簡単に言われてしまったけれど、どうしよう?
今更そう言われてもと、途方に暮れてしまう。
できればレベッカ先生達のいるあの場で言ってほしかったよ。
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