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1巻
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そんな思いが伝わったのか、フェ様はわかったと言うように頷いてくれる。
「サラ様にもわかるようにご説明しますと、火、水、風、土は基本の属性で、その上位属性が炎、氷、嵐、大地になります。普通、私達は基本属性の魔法を覚える過程で精霊様と触れ合い、基本属性との相性度を上げていくのです。それからより高度な魔法を使うことで、上位属性との相性度を高めていきます。相性度にはランクがあり、最低ランクのFから始まって、E、D、C、B、A、Sと上がっていきます」
「最高ランクは、やはりSなんですか?」
お父さんの問いに、フェ様は首を横に振る。
「いえ。一般的には知られておりませんが、SSランク保持者もおります」
「SSランク……」
「私共はSSランクが最高ランクだと思っておりましたが、認識を改めなくてはなりませんね」
「では、SSSランクは?」
「SSランクのさらに上だと思われます」
なんだか、すごい話になってきた。
SSSランクが今まで知られていなかったランクで、しかも最高ランクなんて。
これは称号の影響なのかな?
「サラ様は基本属性の相性がすでに最高ランクに到達していたので、上位属性との相性も表示されたのでしょう。しかしそれも最高ランクとは……。上位属性の精霊様は人里にはあまりいないので、基本属性よりも相性度が上がりにくいのですよ」
「光と闇の属性は、村の神官様に教えてもらったので知っています。だけど聖光と闇黒は初めて聞きました。光と闇の上位属性ということですか? それに、空間と時空とは、いったいどんな属性なんですか?」
私は鑑定結果を改めて見ながらフェ様に質問してみる。だけど……
「わかりません」
「は?」
「この二つの属性を持っていた人は過去に存在していたようですが、かなり昔のことでして、資料が少なく詳細がわからないのです」
「そうなんですか」
「それに属性の最後に以下略と書かれていますが、こちらも初めて見るものでした。あの水晶玉で表示できる限界を超えてしまったのだと考えられます。王都にあるレア級の水晶玉であればサラ様の持っているすべての属性が表示できるはずですが……。残念です」
やっぱり、鑑定書に以下略なんてつくのは、本来ならあり得ないことだったんだ。
ちょっと気になっていたので、モヤモヤが少し晴れた気がした。
まあ、何も問題は解決していないんだけどね!
「では、サラはここに表示されている以外の属性も持っているということですか?」
お父さんが尋ねると、フェ様はゆっくりと頷いた。
「あくまで予想ですが」
鑑定書に載っている以外にも属性を持っているとは思わなかったので、神官様の言葉に私達親子は驚くしかない。
「私、そんなにたくさんの属性の魔法を使った覚えがありません!」
思わずそう口に出していた。
だって、鑑定書に書いてある属性だって初めて知るものばっかりだったのに、他にも持っているかもなんて信じられなかった。
私は教わっていない魔法でも使うことができたけれど、それらはお母さん達が知っている魔法ばかり。神官様達でさえ知らないような属性の魔法を使った覚えなんてなかった。
「ふむ。では、特に特殊な魔法を使った覚えはないと?」
「はい!」
フェ様の言葉に力いっぱい頷く。
「娘の言う通りです。サラはまだ十歳ですし、危険ですので基本属性の上位魔法や攻撃魔法は教えておりません。それに、私は光属性や闇属性の魔法を使えませんので、教えることができませんでした。本当に基本的なことしか教えていないのです」
お母さんが補足するように、フェ様に説明してくれた。
「では、ごく普通の娘さんだったと?」
「それは……」
フェ様の質問に、お母さんは言葉を濁す。
それはそうだろう。だって普通の子は、教わっていない魔法を使えない。
「……娘は私達が使う魔法を一目見ただけで使いこなすことができました。詠唱を教えたわけでもないのに、です。最近では無詠唱で魔法が使えるようになっておりまして、今では私が教えていない魔法もすべて無詠唱で使えております。娘が言うには、こうなればいいなと思っただけで魔法を使えるそうです」
「鑑定書に無詠唱スキルがありましたが、習っていない魔法にも発揮されるとは」
フェ様達がとても驚いているのが伝わってくる。
やっぱり、普通のことじゃないよね……
「ですが、娘は空間魔法や時空魔法を使ったことはありません。高度な魔法は使わないよう言い聞かせておりましたし、そのように珍しい魔法を使えば私達にわからないはずがありません。そうよね、マーク」
「その通りだ」
お母さんの言葉にお父さんが頷く。神官様達は顔を見合わせたあと、フェ様だけがこちらに身を乗り出して話し出した。
「私共はこれらの鑑定結果は、すべて称号の影響ではないかと考えております」
ついに最大の謎である称号の話になった!
精霊王様の母親なんていうよくわからない称号が、私にいったいどんな影響を及ぼしているんだろう?
「まったく未知の称号ですので確かではありませんが、精霊王様はすべての属性を持っていると伝えられています。それが本当であれば、精霊王の母親の称号を持つサラ様は、全属性との相性度が高かったとしても不思議ではありません」
「私達にはどうしてそんな称号がついたのか、わからないんですが……」
お父さんの言葉に、神官様達ががっかりしているのがわかった。フェ様は椅子に深く座り直して、少しの間何かを考えているようだった。そして、おもむろに口を開く。
「もしかしたら、称号がついた理由を調べることができるかもしれません」
「できるんですかっ⁉」
思わずフェ様のほうに身を乗り出した。フェ様は頷いて話を続ける。
「はい。精霊様のご加護を持つ方に、サラ様を見ていただくのです。加護持ちは精霊様の姿を見て、話すことができます。精霊様ならなぜこのような称号がついたのか、わかるかもしれません」
「加護持ちはこの国に四人しかいらっしゃらなかったはずです。サラ一人のために、そこまでしていただけるんですか?」
お母さんが不安そうに問いかけると、フェ様はキリッとした顔をした。
「サラ様のためなら、私が国にかけ合います」
フェ様の力強いお言葉に、私達家族は感動する。
そこまでしてくれるなんて、フェ様はなんて優しいんだろう。
「そうだ。その際に、レア級の水晶玉もお借りしよう。サラ様の持つすべての属性を調べるのだ。きっと私達が知らない属性があるはずだぞ!」
フェ様の言葉を聞いて、周りの神官様がなにやらざわざわと慌て始めた。
「フェビラル様⁉ さすがにそれはっ」
「なぜだ? こういう時に使ってこその魔道具だろう。いざとなれば、陛下を脅してでも……」
「しまった! フェビラル様の悪い癖がっ。一旦、フェビラル様を部屋の外へっ」
「「はいっ」」
フェ様の話がどんどん物騒な方向に進んでいくのを、ミルクティー色の髪にオレンジ色の瞳の神官様が止める。
「さっ。神官長様、少し外の空気でも吸ってきましょう」
「いや。私はまだサラ様達と話をしなければ。……おい、なぜ両腕をつかむのだ。離しなさい、私はまだ話を――」
話の途中にもかかわらず、フェ様は二人がかりで両腕をつかまれ連れ去られてしまった。
「急なお話で皆様もお疲れでしょう。三十分程休憩を入れたいと思います。ではっ」
フェ様を外へ出すよう指示した神官様は、何事もなかったかのように言う。そして、フェ様を追いかけるように急いで部屋を出た。
「「「……」」」
……国にかけ合ってくれるっていうのは、優しさなんだよね?
「神官長が失礼いたしました」
神官様達の見事な連係プレーに驚いていると、部屋にまだ残っていた神官様に謝罪される。
どうも、私達が気分を害したのではないかと心配しているみたい。
でも、神官様の謝罪よりも私達の興味を引いたのは、別の言葉だった。
「「「……神官長?」」」
「ええ。フェビラル様はこの教会の神官長でして、他の神官に命令……いえ、失礼。指示を出していたのが副神官長になります」
そんなにすごい人だとは思っていなかったので、まさかの答えに三人で驚く。
「神官長様は国王陛下が幼い頃、教育係をなさっていたこともあったとか。ですから、国からは必ずいい返事をいただけるかと思います」
「そんな方がなぜこんな辺境の町に……」
お父さんが思わずといったふうに疑問を口にする。
「さぁ。私にはわかりかねますが、何分あのような性格の方なので、その……」
最後は言葉を濁していたので、私にはなぜフェ様がここに来たのかよくわからなかった。
でも、お父さん達はわかったみたい。二人して深く頷いている。
あとでどうしてなのか、教えてもらおう。
そのあとすぐに、残っていた神官様も部屋を出ていったので、この部屋には私達親子三人だけとなった。
フェ様の勢いに押されて、あっという間に国に連絡してもらうことになってしまったけれど、本当にそれでよかったのかな?
落ち着くといろいろなことが不安になってくる。
「お父さん、お母さん……」
「どうした、疲れたか?」
「神官様達が戻ってくるまで、お母さんにもたれていいのよ? 少し目をつむるだけでも楽になるわ」
こんな騒ぎになったのに、お父さん達は変わらず私に優しい。
「ごめんね。私に変な称号がついてたせいで、お父さん達に迷惑かけちゃったよね」
申し訳なくって、二人の顔を見ることができなくて、うつむいたまま話す。
「私って、これからどうなるのかなぁ」
こんなことを聞いたって二人が困るだけだとわかっているのに、止まらない。
気にしないと言いつつ、加護があったら嬉しいなと思っていた。その罰が当たったのかな?
まさか、この国に四人しかいない加護持ちの人を呼ぶ事態になるなんて思いもよらなかった。
「そうだなぁ。とりあえず今日はお母さんにごちそうを作ってもらわなくちゃな!」
「……え?」
お父さんからの予想外の返事に思わず顔を上げると、二人は優しいまなざしでこちらを見ていた。
「そうね。今日はサラの好きな食べ物をなんでも作ってあげる」
「サラ、よかったな! そのためにも早く終わらせて、暗くなる前に村に帰らないと。お父さん一人ならまだしも、大切なお前達を危険な目に遭わせたくないからな」
私のせいでこんなに大事になって、不安で仕方ない。けれど、二人はいつも通りだ。私は思わず小さく首を横に振る。
「そういう話じゃなくって」
「嬉しくないのか?」
「それは嬉しいけどっ。私が聞きたいのは、そんなことじゃないのっ!」
お父さんがわざと話をそらしてるとしか思えない。不満で、大きな声が出てしまう。
なのに、お父さんはなんてことないように言うのだ。
「どんな鑑定結果が出たとしてもお前は俺達のかわいい娘に変わりないからな」
「お父さん……」
お父さんが私の両脇に手を入れて抱き上げ、自分の膝にのせてくれる。お母さんはそんな私達の様子をただ微笑んで見つめていた。
「お前は何がそんなに不安なんだ?」
「だって、神官様が初めて聞く称号だって」
「なんにでも初めてってもんは必ずある。そんなことでお前が俺達に謝ることはない。それに神官様達の顔を見ただろう? あんなに興奮して、サラ様、サラ様って言ってるんだ。悪い称号ってわけでもないだろうし、あんなにたくさんの属性を使えるなんて、すごいじゃないか」
「お父さ~ん。ぐすっ、ひっく」
お父さんの優しい言葉に涙があふれ、止まらなくなる。
でも、ハンカチを出すためにお父さんから離れるのが嫌で、お父さんの肩に目元を擦りつけて涙を拭いた。
「目を擦ってはダメよ。真っ赤に腫れてしまうわ」
そう言って、お母さんはハンカチで優しく涙を拭きとってくれ、お父さんは私の背中をポンポンと叩いてくれる。
「おっ、おがあざぁん。ひっく。んっく。あ、ありがとう」
「いきなりいろいろな話を聞いて、驚いたわよね。サラはまだ十歳なのだから、あとのことはお母さん達に任せてちょうだい」
いろいろとわからないことだらけだし、何も解決していないけど、不思議とさっきまでの不安な気持ちはどこかに消えていった。
普段よりも少ない睡眠時間とありえない事態の連続で、私の疲れはピークに達していたようだ。強烈な眠気が私を襲う。
その眠気と戦いながら、もう一つ気になっていたことをお母さんに聞いた。
「マーブルはどこ?」
お母さんに預けたはずのマーブルがいないことが気になっていたのだ。今までは聞ける雰囲気ではなかった。
もしかして、一匹だけで寂しく私達の帰りを待っているんじゃないかと心配だった。
だから答えを聞くまでは眠るまいと必死になって目を開ける。
「マーブルはハッサンさんにお願いして預かってもらっているの。すべてが終わったら迎えに行きましょう」
「ん……」
よかった。アミーちゃんが一緒ならマーブルも寂しくないよね。
「神官様達が戻ってくるまで、少し眠るといい」
お父さんにそう言われるやいなや、私はお父さんの腕の中ですとんと眠りについた。
◆◆◆
「眠ってしまったか」
サラの父――マークが聞くと、母――セレナは静かに頷いた。
「はい。緊張の糸が切れたのでしょう。ぐっすりです」
「俺達だって驚きの連続でいっぱいいっぱいなんだから無理もない」
すやすやと眠るサラの顔を見る二人の表情は穏やかだ。
しかし、サラが寝ているうちに話し合っておかなければいけないことが二人にはあった。
「……加護持ちの方はどなたがいらっしゃるのでしょうか?」
「わからない。四人の中に顔見知りは?」
「私はあまり王宮に顔を出したことはありませんでしたから、おそらくいらっしゃらないかと。ですが、どこかですれ違ったことはあるかもしれません。もし、お父様にご迷惑をおかけすることになったら……」
「大丈夫だ。もしもの時はロドルフ様の負担にならないように、三人でこの国を出よう」
不安そうにマークを見つめるセレナに対して、マークはそう慰めることしかできなかった。
◇◇◇
コン、コン、コン。
ノックの音で目が覚める。
「サラ、起きれるか?」
「もう大丈夫っ」
時間にすれば十五分と短い時間だったようだけど、すっきりとした気分で目を覚ました。
お父さん達に不安な気持ちを吐き出せたからかもしれない。
今は前向きな気持ちで話の続きを聞くことができそうな気がする。
フェ様は部屋に入ってくると、さっきの騒動などなかったかのように落ち着いた様子で席に座る。
その背後には副神官長様が控えていた。
「国との交渉は終わりました」
休憩時間は副神官長様の宣言通り三十分だったにもかかわらず、フェ様は国との交渉を既にすませていた。
とても満足そうなので、いい結果だったのかな?
「そんな簡単に返事をもらえるものなんですか?」
「国王陛下を直接脅し――」
「んんっ‼」
副神官長様がフェ様の話を遮るように咳払いしたけど、はっきり聞こえちゃったよ。
お父さん達はフェ様の発言で、顔を真っ青にしている。
「国王陛下に直接かけ合ったところ、快く加護持ちをお一方、この町に遣わしてくださることになりました」
フェ様が何事もなかったかのように話し始めた。
「この町に来ていただけるんですか⁉」
「はい。この町から王都までは馬車を使っても半月以上かかりますし、決して安全な旅とは言えません。私の憶測だけで、サラ様にそんな長旅をさせるわけにはいきませんから」
「私達にはありがたい話ですが、加護持ちの方のご負担が大きいのでは?」
「竜便を使えば一週間もかからずに来られますよ。相手はいい大人ですから、大丈夫でしょう。国王陛下の勅命ですしね」
お父さん達は恐縮しているのに、フェ様はけろっとしている。
「あの。国王様には娘のことをなんとお伝えしたんですか?」
「国王陛下にはまだ何もお伝えしておりません」
「えっ?」
「今の段階でお話しできることはすべて憶測です。国王陛下にお伝えするにはもう少し調べてからでないといけませんからね」
「では、今回はどうして加護持ちの方に来ていただけることに?」
「誰でもいいので、手が空いている加護持ちを私のもとに大至急遣わしてくれるようにお願いしたのです」
「り、理由も言わずにですか?」
「精霊様にお聞きしたいことがあるとは伝えましたから」
どうやらフェ様はかなりの無茶をしたようだ。
お父さん達が呆気にとられていると、フェ様が表情を改めて、真剣な顔をする。
「今の段階でサラ様の鑑定結果の話をすれば、国王陛下が望む、望まないにかかわらず、サラ様はご両親から引き離されます。異例の事態ですから、王都で調査することになるでしょう」
「そんなっ⁉ 娘はまだ十歳ですよ⁉」
あまりの言葉にお父さんが責めるような声を上げ、お母さんは私を守るように抱き締めてくれる。私も離されまいと、お母さんに必死に抱きついた。
「お二人とも落ち着いてください」
「ですがっ」
「私が鑑定結果のことを伝えていればの話です。私は一言も国王陛下に伝えておりませんし、ここで話を聞いたすべての神官は、他言無用の誓約魔法をすでに受けています。精霊様に誓って、この秘密が漏れることはありません」
「ですが、加護持ちの方がサラを見れば、その結果を国王様に報告しますよね? それに神官長様も、最終的には国王様にご報告されるとおっしゃっていたじゃないですか。だったら、少し先延ばされただけで、娘が私達から引き離されることに変わりはない‼」
「いえ。そうはなりません」
「なぜそんなに自信を持って言えるんだ‼」
お父さんは身を乗り出して、フェ様に詰め寄る。
しかし、フェ様はお父さんの剣幕にも動じることなく、とんでもない爆弾を投下した。
「実は私、神に仕える前は王族の一員でして」
「……えっ?」
「今の国王陛下は私の甥にあたります」
「えっ?」
とんでもない話を世間話のようにさらりと伝えられ、私達はあまりのことに言葉が出ない。
お父さんなんて驚きすぎて、「えっ?」としか発していない。
フェ様とお父さんの二人をぼんやり眺めていると、お母さんが私を抱き締めるのをやめて立ち上がる。それから両手でスカートの裾をつまみ、腰を曲げて頭を深々と下げた。
初めて見るお辞儀の仕方だけど、お母さんがするととってもきれい。
フェ様達も感心したようにお母さんを見つめていた。
「ほぅ」
「王族の方だとは知らず、大変失礼いたしました。何分私達はただの村人、今までの無作法を何とぞお許しくださいませ」
お母さんが凛とした声音で告げると、フェ様は興味深そうに口を開く。
「こんなに素敵なカーテシーをなさる方が、ただの村人だとは思えないですが」
「いえっ。私は……」
フェ様の言葉に、お母さんはなぜか慌てたようなそぶりをする。フェ様は気にしていないように話を続けた。
「まぁ、私は神に仕えるためにすでに王族を離れた身です。顔を上げて楽にしてください」
「ですが」
「さあ、席に着いて」
フェ様の言葉でようやくお母さんは立ち上がり、椅子に座り直した。
お父さんもその間に気持ちを立て直したみたい。
「そういうわけで、王族を離れた今でも国王陛下と直接話をする手段を持っているのです」
「だからこんなに早く交渉していただけたんですね」
「そうです。ただ、加護持ちが王都から離れることはめったにありません。必ず貴族共は気づき、理由を知ろうとするはずです。もし、現時点で王都にサラ様の鑑定結果を知られれば、権力争いに巻き込まれるのは必至。サラ様の称号は特別ですから、悪用しようとする者がいることは容易に想像できます。サラ様はまだ幼いですからね。ご両親と引き離せばどうとでもなると、馬鹿なことを考える貴族は多いでしょう」
「サラの鑑定結果を伝えなかったのには、そんな理由があったんですか。ですがやっぱり、加護持ちの方がここに来れば、同じことになるんじゃ……」
「サラ様にもわかるようにご説明しますと、火、水、風、土は基本の属性で、その上位属性が炎、氷、嵐、大地になります。普通、私達は基本属性の魔法を覚える過程で精霊様と触れ合い、基本属性との相性度を上げていくのです。それからより高度な魔法を使うことで、上位属性との相性度を高めていきます。相性度にはランクがあり、最低ランクのFから始まって、E、D、C、B、A、Sと上がっていきます」
「最高ランクは、やはりSなんですか?」
お父さんの問いに、フェ様は首を横に振る。
「いえ。一般的には知られておりませんが、SSランク保持者もおります」
「SSランク……」
「私共はSSランクが最高ランクだと思っておりましたが、認識を改めなくてはなりませんね」
「では、SSSランクは?」
「SSランクのさらに上だと思われます」
なんだか、すごい話になってきた。
SSSランクが今まで知られていなかったランクで、しかも最高ランクなんて。
これは称号の影響なのかな?
「サラ様は基本属性の相性がすでに最高ランクに到達していたので、上位属性との相性も表示されたのでしょう。しかしそれも最高ランクとは……。上位属性の精霊様は人里にはあまりいないので、基本属性よりも相性度が上がりにくいのですよ」
「光と闇の属性は、村の神官様に教えてもらったので知っています。だけど聖光と闇黒は初めて聞きました。光と闇の上位属性ということですか? それに、空間と時空とは、いったいどんな属性なんですか?」
私は鑑定結果を改めて見ながらフェ様に質問してみる。だけど……
「わかりません」
「は?」
「この二つの属性を持っていた人は過去に存在していたようですが、かなり昔のことでして、資料が少なく詳細がわからないのです」
「そうなんですか」
「それに属性の最後に以下略と書かれていますが、こちらも初めて見るものでした。あの水晶玉で表示できる限界を超えてしまったのだと考えられます。王都にあるレア級の水晶玉であればサラ様の持っているすべての属性が表示できるはずですが……。残念です」
やっぱり、鑑定書に以下略なんてつくのは、本来ならあり得ないことだったんだ。
ちょっと気になっていたので、モヤモヤが少し晴れた気がした。
まあ、何も問題は解決していないんだけどね!
「では、サラはここに表示されている以外の属性も持っているということですか?」
お父さんが尋ねると、フェ様はゆっくりと頷いた。
「あくまで予想ですが」
鑑定書に載っている以外にも属性を持っているとは思わなかったので、神官様の言葉に私達親子は驚くしかない。
「私、そんなにたくさんの属性の魔法を使った覚えがありません!」
思わずそう口に出していた。
だって、鑑定書に書いてある属性だって初めて知るものばっかりだったのに、他にも持っているかもなんて信じられなかった。
私は教わっていない魔法でも使うことができたけれど、それらはお母さん達が知っている魔法ばかり。神官様達でさえ知らないような属性の魔法を使った覚えなんてなかった。
「ふむ。では、特に特殊な魔法を使った覚えはないと?」
「はい!」
フェ様の言葉に力いっぱい頷く。
「娘の言う通りです。サラはまだ十歳ですし、危険ですので基本属性の上位魔法や攻撃魔法は教えておりません。それに、私は光属性や闇属性の魔法を使えませんので、教えることができませんでした。本当に基本的なことしか教えていないのです」
お母さんが補足するように、フェ様に説明してくれた。
「では、ごく普通の娘さんだったと?」
「それは……」
フェ様の質問に、お母さんは言葉を濁す。
それはそうだろう。だって普通の子は、教わっていない魔法を使えない。
「……娘は私達が使う魔法を一目見ただけで使いこなすことができました。詠唱を教えたわけでもないのに、です。最近では無詠唱で魔法が使えるようになっておりまして、今では私が教えていない魔法もすべて無詠唱で使えております。娘が言うには、こうなればいいなと思っただけで魔法を使えるそうです」
「鑑定書に無詠唱スキルがありましたが、習っていない魔法にも発揮されるとは」
フェ様達がとても驚いているのが伝わってくる。
やっぱり、普通のことじゃないよね……
「ですが、娘は空間魔法や時空魔法を使ったことはありません。高度な魔法は使わないよう言い聞かせておりましたし、そのように珍しい魔法を使えば私達にわからないはずがありません。そうよね、マーク」
「その通りだ」
お母さんの言葉にお父さんが頷く。神官様達は顔を見合わせたあと、フェ様だけがこちらに身を乗り出して話し出した。
「私共はこれらの鑑定結果は、すべて称号の影響ではないかと考えております」
ついに最大の謎である称号の話になった!
精霊王様の母親なんていうよくわからない称号が、私にいったいどんな影響を及ぼしているんだろう?
「まったく未知の称号ですので確かではありませんが、精霊王様はすべての属性を持っていると伝えられています。それが本当であれば、精霊王の母親の称号を持つサラ様は、全属性との相性度が高かったとしても不思議ではありません」
「私達にはどうしてそんな称号がついたのか、わからないんですが……」
お父さんの言葉に、神官様達ががっかりしているのがわかった。フェ様は椅子に深く座り直して、少しの間何かを考えているようだった。そして、おもむろに口を開く。
「もしかしたら、称号がついた理由を調べることができるかもしれません」
「できるんですかっ⁉」
思わずフェ様のほうに身を乗り出した。フェ様は頷いて話を続ける。
「はい。精霊様のご加護を持つ方に、サラ様を見ていただくのです。加護持ちは精霊様の姿を見て、話すことができます。精霊様ならなぜこのような称号がついたのか、わかるかもしれません」
「加護持ちはこの国に四人しかいらっしゃらなかったはずです。サラ一人のために、そこまでしていただけるんですか?」
お母さんが不安そうに問いかけると、フェ様はキリッとした顔をした。
「サラ様のためなら、私が国にかけ合います」
フェ様の力強いお言葉に、私達家族は感動する。
そこまでしてくれるなんて、フェ様はなんて優しいんだろう。
「そうだ。その際に、レア級の水晶玉もお借りしよう。サラ様の持つすべての属性を調べるのだ。きっと私達が知らない属性があるはずだぞ!」
フェ様の言葉を聞いて、周りの神官様がなにやらざわざわと慌て始めた。
「フェビラル様⁉ さすがにそれはっ」
「なぜだ? こういう時に使ってこその魔道具だろう。いざとなれば、陛下を脅してでも……」
「しまった! フェビラル様の悪い癖がっ。一旦、フェビラル様を部屋の外へっ」
「「はいっ」」
フェ様の話がどんどん物騒な方向に進んでいくのを、ミルクティー色の髪にオレンジ色の瞳の神官様が止める。
「さっ。神官長様、少し外の空気でも吸ってきましょう」
「いや。私はまだサラ様達と話をしなければ。……おい、なぜ両腕をつかむのだ。離しなさい、私はまだ話を――」
話の途中にもかかわらず、フェ様は二人がかりで両腕をつかまれ連れ去られてしまった。
「急なお話で皆様もお疲れでしょう。三十分程休憩を入れたいと思います。ではっ」
フェ様を外へ出すよう指示した神官様は、何事もなかったかのように言う。そして、フェ様を追いかけるように急いで部屋を出た。
「「「……」」」
……国にかけ合ってくれるっていうのは、優しさなんだよね?
「神官長が失礼いたしました」
神官様達の見事な連係プレーに驚いていると、部屋にまだ残っていた神官様に謝罪される。
どうも、私達が気分を害したのではないかと心配しているみたい。
でも、神官様の謝罪よりも私達の興味を引いたのは、別の言葉だった。
「「「……神官長?」」」
「ええ。フェビラル様はこの教会の神官長でして、他の神官に命令……いえ、失礼。指示を出していたのが副神官長になります」
そんなにすごい人だとは思っていなかったので、まさかの答えに三人で驚く。
「神官長様は国王陛下が幼い頃、教育係をなさっていたこともあったとか。ですから、国からは必ずいい返事をいただけるかと思います」
「そんな方がなぜこんな辺境の町に……」
お父さんが思わずといったふうに疑問を口にする。
「さぁ。私にはわかりかねますが、何分あのような性格の方なので、その……」
最後は言葉を濁していたので、私にはなぜフェ様がここに来たのかよくわからなかった。
でも、お父さん達はわかったみたい。二人して深く頷いている。
あとでどうしてなのか、教えてもらおう。
そのあとすぐに、残っていた神官様も部屋を出ていったので、この部屋には私達親子三人だけとなった。
フェ様の勢いに押されて、あっという間に国に連絡してもらうことになってしまったけれど、本当にそれでよかったのかな?
落ち着くといろいろなことが不安になってくる。
「お父さん、お母さん……」
「どうした、疲れたか?」
「神官様達が戻ってくるまで、お母さんにもたれていいのよ? 少し目をつむるだけでも楽になるわ」
こんな騒ぎになったのに、お父さん達は変わらず私に優しい。
「ごめんね。私に変な称号がついてたせいで、お父さん達に迷惑かけちゃったよね」
申し訳なくって、二人の顔を見ることができなくて、うつむいたまま話す。
「私って、これからどうなるのかなぁ」
こんなことを聞いたって二人が困るだけだとわかっているのに、止まらない。
気にしないと言いつつ、加護があったら嬉しいなと思っていた。その罰が当たったのかな?
まさか、この国に四人しかいない加護持ちの人を呼ぶ事態になるなんて思いもよらなかった。
「そうだなぁ。とりあえず今日はお母さんにごちそうを作ってもらわなくちゃな!」
「……え?」
お父さんからの予想外の返事に思わず顔を上げると、二人は優しいまなざしでこちらを見ていた。
「そうね。今日はサラの好きな食べ物をなんでも作ってあげる」
「サラ、よかったな! そのためにも早く終わらせて、暗くなる前に村に帰らないと。お父さん一人ならまだしも、大切なお前達を危険な目に遭わせたくないからな」
私のせいでこんなに大事になって、不安で仕方ない。けれど、二人はいつも通りだ。私は思わず小さく首を横に振る。
「そういう話じゃなくって」
「嬉しくないのか?」
「それは嬉しいけどっ。私が聞きたいのは、そんなことじゃないのっ!」
お父さんがわざと話をそらしてるとしか思えない。不満で、大きな声が出てしまう。
なのに、お父さんはなんてことないように言うのだ。
「どんな鑑定結果が出たとしてもお前は俺達のかわいい娘に変わりないからな」
「お父さん……」
お父さんが私の両脇に手を入れて抱き上げ、自分の膝にのせてくれる。お母さんはそんな私達の様子をただ微笑んで見つめていた。
「お前は何がそんなに不安なんだ?」
「だって、神官様が初めて聞く称号だって」
「なんにでも初めてってもんは必ずある。そんなことでお前が俺達に謝ることはない。それに神官様達の顔を見ただろう? あんなに興奮して、サラ様、サラ様って言ってるんだ。悪い称号ってわけでもないだろうし、あんなにたくさんの属性を使えるなんて、すごいじゃないか」
「お父さ~ん。ぐすっ、ひっく」
お父さんの優しい言葉に涙があふれ、止まらなくなる。
でも、ハンカチを出すためにお父さんから離れるのが嫌で、お父さんの肩に目元を擦りつけて涙を拭いた。
「目を擦ってはダメよ。真っ赤に腫れてしまうわ」
そう言って、お母さんはハンカチで優しく涙を拭きとってくれ、お父さんは私の背中をポンポンと叩いてくれる。
「おっ、おがあざぁん。ひっく。んっく。あ、ありがとう」
「いきなりいろいろな話を聞いて、驚いたわよね。サラはまだ十歳なのだから、あとのことはお母さん達に任せてちょうだい」
いろいろとわからないことだらけだし、何も解決していないけど、不思議とさっきまでの不安な気持ちはどこかに消えていった。
普段よりも少ない睡眠時間とありえない事態の連続で、私の疲れはピークに達していたようだ。強烈な眠気が私を襲う。
その眠気と戦いながら、もう一つ気になっていたことをお母さんに聞いた。
「マーブルはどこ?」
お母さんに預けたはずのマーブルがいないことが気になっていたのだ。今までは聞ける雰囲気ではなかった。
もしかして、一匹だけで寂しく私達の帰りを待っているんじゃないかと心配だった。
だから答えを聞くまでは眠るまいと必死になって目を開ける。
「マーブルはハッサンさんにお願いして預かってもらっているの。すべてが終わったら迎えに行きましょう」
「ん……」
よかった。アミーちゃんが一緒ならマーブルも寂しくないよね。
「神官様達が戻ってくるまで、少し眠るといい」
お父さんにそう言われるやいなや、私はお父さんの腕の中ですとんと眠りについた。
◆◆◆
「眠ってしまったか」
サラの父――マークが聞くと、母――セレナは静かに頷いた。
「はい。緊張の糸が切れたのでしょう。ぐっすりです」
「俺達だって驚きの連続でいっぱいいっぱいなんだから無理もない」
すやすやと眠るサラの顔を見る二人の表情は穏やかだ。
しかし、サラが寝ているうちに話し合っておかなければいけないことが二人にはあった。
「……加護持ちの方はどなたがいらっしゃるのでしょうか?」
「わからない。四人の中に顔見知りは?」
「私はあまり王宮に顔を出したことはありませんでしたから、おそらくいらっしゃらないかと。ですが、どこかですれ違ったことはあるかもしれません。もし、お父様にご迷惑をおかけすることになったら……」
「大丈夫だ。もしもの時はロドルフ様の負担にならないように、三人でこの国を出よう」
不安そうにマークを見つめるセレナに対して、マークはそう慰めることしかできなかった。
◇◇◇
コン、コン、コン。
ノックの音で目が覚める。
「サラ、起きれるか?」
「もう大丈夫っ」
時間にすれば十五分と短い時間だったようだけど、すっきりとした気分で目を覚ました。
お父さん達に不安な気持ちを吐き出せたからかもしれない。
今は前向きな気持ちで話の続きを聞くことができそうな気がする。
フェ様は部屋に入ってくると、さっきの騒動などなかったかのように落ち着いた様子で席に座る。
その背後には副神官長様が控えていた。
「国との交渉は終わりました」
休憩時間は副神官長様の宣言通り三十分だったにもかかわらず、フェ様は国との交渉を既にすませていた。
とても満足そうなので、いい結果だったのかな?
「そんな簡単に返事をもらえるものなんですか?」
「国王陛下を直接脅し――」
「んんっ‼」
副神官長様がフェ様の話を遮るように咳払いしたけど、はっきり聞こえちゃったよ。
お父さん達はフェ様の発言で、顔を真っ青にしている。
「国王陛下に直接かけ合ったところ、快く加護持ちをお一方、この町に遣わしてくださることになりました」
フェ様が何事もなかったかのように話し始めた。
「この町に来ていただけるんですか⁉」
「はい。この町から王都までは馬車を使っても半月以上かかりますし、決して安全な旅とは言えません。私の憶測だけで、サラ様にそんな長旅をさせるわけにはいきませんから」
「私達にはありがたい話ですが、加護持ちの方のご負担が大きいのでは?」
「竜便を使えば一週間もかからずに来られますよ。相手はいい大人ですから、大丈夫でしょう。国王陛下の勅命ですしね」
お父さん達は恐縮しているのに、フェ様はけろっとしている。
「あの。国王様には娘のことをなんとお伝えしたんですか?」
「国王陛下にはまだ何もお伝えしておりません」
「えっ?」
「今の段階でお話しできることはすべて憶測です。国王陛下にお伝えするにはもう少し調べてからでないといけませんからね」
「では、今回はどうして加護持ちの方に来ていただけることに?」
「誰でもいいので、手が空いている加護持ちを私のもとに大至急遣わしてくれるようにお願いしたのです」
「り、理由も言わずにですか?」
「精霊様にお聞きしたいことがあるとは伝えましたから」
どうやらフェ様はかなりの無茶をしたようだ。
お父さん達が呆気にとられていると、フェ様が表情を改めて、真剣な顔をする。
「今の段階でサラ様の鑑定結果の話をすれば、国王陛下が望む、望まないにかかわらず、サラ様はご両親から引き離されます。異例の事態ですから、王都で調査することになるでしょう」
「そんなっ⁉ 娘はまだ十歳ですよ⁉」
あまりの言葉にお父さんが責めるような声を上げ、お母さんは私を守るように抱き締めてくれる。私も離されまいと、お母さんに必死に抱きついた。
「お二人とも落ち着いてください」
「ですがっ」
「私が鑑定結果のことを伝えていればの話です。私は一言も国王陛下に伝えておりませんし、ここで話を聞いたすべての神官は、他言無用の誓約魔法をすでに受けています。精霊様に誓って、この秘密が漏れることはありません」
「ですが、加護持ちの方がサラを見れば、その結果を国王様に報告しますよね? それに神官長様も、最終的には国王様にご報告されるとおっしゃっていたじゃないですか。だったら、少し先延ばされただけで、娘が私達から引き離されることに変わりはない‼」
「いえ。そうはなりません」
「なぜそんなに自信を持って言えるんだ‼」
お父さんは身を乗り出して、フェ様に詰め寄る。
しかし、フェ様はお父さんの剣幕にも動じることなく、とんでもない爆弾を投下した。
「実は私、神に仕える前は王族の一員でして」
「……えっ?」
「今の国王陛下は私の甥にあたります」
「えっ?」
とんでもない話を世間話のようにさらりと伝えられ、私達はあまりのことに言葉が出ない。
お父さんなんて驚きすぎて、「えっ?」としか発していない。
フェ様とお父さんの二人をぼんやり眺めていると、お母さんが私を抱き締めるのをやめて立ち上がる。それから両手でスカートの裾をつまみ、腰を曲げて頭を深々と下げた。
初めて見るお辞儀の仕方だけど、お母さんがするととってもきれい。
フェ様達も感心したようにお母さんを見つめていた。
「ほぅ」
「王族の方だとは知らず、大変失礼いたしました。何分私達はただの村人、今までの無作法を何とぞお許しくださいませ」
お母さんが凛とした声音で告げると、フェ様は興味深そうに口を開く。
「こんなに素敵なカーテシーをなさる方が、ただの村人だとは思えないですが」
「いえっ。私は……」
フェ様の言葉に、お母さんはなぜか慌てたようなそぶりをする。フェ様は気にしていないように話を続けた。
「まぁ、私は神に仕えるためにすでに王族を離れた身です。顔を上げて楽にしてください」
「ですが」
「さあ、席に着いて」
フェ様の言葉でようやくお母さんは立ち上がり、椅子に座り直した。
お父さんもその間に気持ちを立て直したみたい。
「そういうわけで、王族を離れた今でも国王陛下と直接話をする手段を持っているのです」
「だからこんなに早く交渉していただけたんですね」
「そうです。ただ、加護持ちが王都から離れることはめったにありません。必ず貴族共は気づき、理由を知ろうとするはずです。もし、現時点で王都にサラ様の鑑定結果を知られれば、権力争いに巻き込まれるのは必至。サラ様の称号は特別ですから、悪用しようとする者がいることは容易に想像できます。サラ様はまだ幼いですからね。ご両親と引き離せばどうとでもなると、馬鹿なことを考える貴族は多いでしょう」
「サラの鑑定結果を伝えなかったのには、そんな理由があったんですか。ですがやっぱり、加護持ちの方がここに来れば、同じことになるんじゃ……」
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