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第4章 王立魔法学校一年目

225 救い主

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「ふ、不可抗力なんですっ!」
『なんと白々しいやつめ!!』
『頭からかじってやろうかっ』

どうしてこうなっちゃったの~っ!?
モスに啖呵を切ってここに来たのはいいけど、ケルベロスの怒りを鎮めるどころか、火に油を注ぐような結果になってしまうとは。
ケルベロスが結界を壊そうと、さっきよりも更に激しい攻撃を繰り出す。
このままでは、攻撃に耐えきれずにいずれ結界が壊れてしまいそうだ。

「あ、あなただけでも早く逃げなさい」

でも、傷だらけの体をおして私を心配してくるレベッカ先生、すでに意識のない状態の先生達やジャスパー君をおいて逃げるなんてできない。
戦うしかないと観念した私に、意外なところから救いの主が現れる。

『フフッ、ハハハッ!』

突如響く笑い声に驚く。
現れたときからずっと目を閉じていたケルベロスの右の首がいつの間にか目覚めて、楽しそうに笑っていた。

『兄者達がいいようにあしらわれているのを見るなんて、何百年ぶりかな?』

左と中央の首よりもどこか軽やかな、だけれど、からかうような響きが多分に含まれた声だった。

『『起きたのか』』
『あれだけ耳元で騒がれたら、起きるよ』

右の首がくわっとあくびを一つしたあと、ぐいーんと体を伸ばす。

『さてと、僕達は何でここにいるわけ?門番の仕事はいいの?』
『『ぎくっ!』』

右の首がやれやれと言うように他の首に話しかけるけど、他の首はいたずらが見つかった子供のように気まずそうに左の首から顔をそらす。

…もしかして、これって謝って帰ってもらう絶好のチャンスなんじゃ。

でも、仲良く話すケルベロスに話しかけるタイミングが掴めない。
右の首はともかく、他の首達はすごく怒っていたし、今話しかけたらせっかく好転しそうな状況から一気に悪化しちゃうかも…。

『わ、我らは愚かな人間に、人の世へ召喚された最中よ。人間の分際で我らと契約しようとは、勘違いも甚だしいとは思わんか?我らはそんな驕った考えを二度と持たぬようにお灸を据えてやろうと思ったまでよ』
『そうじゃ、そうじゃ』
『どうせ兄者達が人間達をからかって遊ぶつもりが、手痛い反撃にあって引くに引けなくなっただけだろう?』
『『ううっ!』』
『召喚なんて、僕たちが拒否すれば召喚もされずに、それで終わりだろうに。おふざけが過ぎたね』

左首の見事な正論に、もはや言葉もでないようで、左と中央の首はがっくりとうなだれる。
でも、待ってっ。
いま、すごい事実を聞いてしまったんだけど。
まさか、召喚事態を断れたなんてっ。
でも、よくよく考えたらマーブルの気配に気づいて来たと言っていたし、ジャスパー君に対しても自分の力で呼んだわけでもないのにとも言っていたっけ。

『兄者達が申し訳なかったね。もう二度とこちらに来ないように言い含めておくから、心配しないで』
「あ、ありがとうございます」

私が考え込んでいる間に、三つ首の中で元の場所に戻ることが決まったようだ。

『さぁ、ぼくたちの本来の仕事に戻るよ』
『まて、まて!』
『せめて、一太刀だけでも~』

それでも諦めきれないのか、他の首がこちらを恨めしそうに見つめている。
そんな他の首の様子を気にすることなく、右の首が謝ってくれるけれど、こちらに非はないのかと言われたら、全くそんなことはないわけで。
左の首と中央の首の怒りは仕方がないことなのだ。
許してくれないのは仕方がないとして、せめて彼らが怪我だけでも治してあげたいな。

「あの、お兄さん?達なんですけど『『我らを兄者と呼ぶでないっ!』』きゃっ!」

そう思って話しかけたら、怒られてしまった。

『兄者達、ステイッ!!』
『『わ、我らは犬ではないぞっ!』』

文句を言いつつも、私に威嚇するのをやめるところを見ると、この三首の力関係は、右の首が一番強いみたいだ。

『兄者達がどうかした?もし、痛め付けたりないなら、喜んで差し出すけど』
『『なっ!?』』

恐ろしい提案をしてくる右の首に、必死で首を横に振る。
右の首は『そうなの?』となぜか残念そうだ。
他の首達が涙目になっているので、それ以上いじめないであげてくださいと言いたくなる。

「えっと、二匹?とも頭と喉を怪我されていると思うので、私で良ければ治させてください」
『『!?』』
『兄者達、怪我したの?』
『怪我を追わせた当人が治すなど、どういうつもりだっ?』
『さては我らを懐柔する気か?その手には乗らんぞ!このぐらいの怪我など、怪我とも言えんわっ!』

すごく痛がってたのに、大丈夫なのかな?
でも、これ以上私が言っても余計に頑なになるだけだろうし…。
ちらりと右の首を見る。

『んー、兄者達がそう言ってるから、気にしないでいいよ』

き、気にしなくていいんだ。
右の首にまでそう言われてしまったら、諦めるしかない。

『じゃあ、今度こそ本当にお別れだね』

右の首がそう言うと、ケルベロスの体から、あっいう間に最初に出現したときの黒い靄に変化した。
このままケルベロスは元の場所に帰っていくのだろう。
呆気ない幕切れに、戦わなくてよかったとほっと気が緩む。
だから、全然気づかなかった。

『サラ様っ!』

焦ったように叫ぶモスの声にはっと我に返ったときには遅かった。
黒い靄となったケルベロスが、いつの間にか結界の中に侵入してきていたのだっ!

なんでっ!?
さっきまでちゃんとケルベロスの攻撃を受け止めていたのに!
慌てる私をよそに、黒い靄はどんどん結界の中に侵入し、私の体を包み込んだ。
すると、右の首の声が耳のすぐ近くで聞こえた。

『真夜中に抜け出して、この場所に戻っておいで。少し話しをしようじゃないか。もちろん、そこにいる精霊と精霊王も一緒で構わないよ』
「…え?」
『君が来るのを、楽しみに待っているよ』

そう最後に言い残すと、ケルベロスはこの場からいなくなった。




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いつも読んでいただき、ありがとうございます。
久しぶりの2000字オーバーです☆
右の首を書くのが楽しくって、ノリノリで書いてしまいました(笑)
戦闘シーンを期待していた方は、ごめんなさいm(_ _)m
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