私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)

文字の大きさ
上 下
187 / 278
第4章 王立魔法学校一年目

221 無知の代償③

しおりを挟む
ジャスパーはケルベロスとレベッカ達の攻防を息をひそめて見つめていた。
彼は逃げだしたわけではなかった。

話はケルベロスが遠吠えした時に遡る。

魔法陣の結界がケルベロスによって容易く壊されたあの時、ジャスパーの肥大化した虚栄心はものの見事に砕け散った。
逃げることもせず、呆然とケルベロスを見上げるだけのジャスパーをレベッカは背にかばい、必死で打開策を探る。
彼女の力ではケルベロスに敵わないことはわかっていた。
しかしジャスパーのため、学校にいる全ての生徒のため、ここで心折れるわけにはいかなかった。

「試練とはどのようなものなのかしら?他の者が変わることはできない?」
『我らは召喚魔法で呼び出されたのであろう?他者が介入しては意味がないであろうが。なに、試練は実に簡単だ。その者が我らに傷一つでもつけることができれば、我らを召喚する資格があったと認めてやろう』
「そんなっ!」

学校に入学して間もない者が、ケルベロスに傷をつけれるはずなどない。
実質的には死刑宣告に等しい内容を受け入れられるはずがなかった。
レベッカがモニカとレーガンに視線を送ると、彼らも同じ意見のようで顔をこわばらせていた。
特にレーガンに至っては、ジャスパーの愚行を許可した張本人と言うこともあってか顔色が蒼白に近い。
戦うしかないのだと、三人で意志を固める。
せめて、ジャスパーをケルベロスの手の届かない場所に逃がしたい。
しかし、ケルベロスがそんなことを許すわけがない。

『さあ、そいつを我らに寄越すのだ』
「お断りですわっ!フレイム!」

ジャスパーを逃がす時間はないと悟ったレベッカはケルベロスに向かって魔法を浴びせる。
爆音と火柱でケルベロスの視覚と聴覚を奪うと、ジャスパーに姿隠しの魔法と結界をかける。

「絶対に声をあげないで」

レベッカはジャスパーに一言そう声をかけると、ケルベロスに向きなおる。
すでにケルベロスの手によって火柱は消えていた。
先程まで確かにいた場所にジャスパーの姿がなかったことで、ケルベロスは視線をあちらこちらにさ迷わせる。
レベッカ達はそれを見て、ほっと安堵のため息を漏らす。
その間も攻撃の手を緩めることはなかった。

「ファイアーストーム!」
「ロックレイン!」

レベッカとレーガンがケルベロスに向かって同時に魔法で攻撃する。

『ふんっ!中級魔法のみで我らに勝とうとは片腹痛いわっ!』

ケルベロスはそんな彼らの攻撃を全て一撃で退ける。
ケルベロスの意識が彼ら二人に向いたところで、気配を消してケルベロスの背後に移動していたモニカが、魔力をこめた剣で後ろから切りつける。

カギィィィィーーンッ

「ちっ!」

しかしケルベロスの体は固く、傷一つつけることは叶わなかった。
そのままケルベロスに吹っ飛ばされる。

「モニカ教諭!」

レベッカはモニカの元に行くと、すぐに怪我を治す。

「感謝する。…やはり、上級魔法でないと無理か」
「けれど、上級魔法の発動には時間がかかりますわ。その間にの所在が見つかってしまったら…」

戦いを仕掛ける前から、三人の力ではケルベロスを討伐することは叶わないだろうことはわかっていた。
しかし、生徒達が逃げる時間を作るため、彼らは無謀だと言える戦いに身を投じていた。
それに、彼らにも勝機が無いわけではなかった。
なぜだかわからないが、ケルベロスは自分から進んで攻撃してくることはなかった。
どうやら、こちらを殺す気はないようだ。
ならば救援が来るまでなんとか持ちこたえることができれば、こちらにも勝機があるはず!
しかし、そううまくいくはずもなく…
ケルベロスの左の首が鼻をひくつかせるとニヤリと笑った。

『臭う、臭うぞ。小わっぱの臭いがぷんぷんするわ』

ケルベロスの言葉に、ジャスパーはとっさに口元に手をやることで悲鳴を押し殺す。
彼の頭の中は「こんなはずじゃなかった」と言う思いでいっぱいだ。
見つからないように、ことさら体を小さく縮こまらせる。
先程までの自信満々な姿は見る影もなかった。
ジャスパーの居所を完全に把握した後のケルベロスの行動は早かった。

「逃げてーっ!きゃあっ!」
「待てっ!くっ!」
「ぐぁっ!」

ケルベロスはレベッカ達を次々と倒していくと、迷いのない足取りでジャスパーに近づいていく。
ジャスパーを助けてくれる者はもう誰もいない。
なにか暖かいものが足元をぬらすのを感じながら、ジャスパーは意識を失った。
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」 ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。 婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。 当然ながら、アリスはそれを拒否。 他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。 『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。 その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。 彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。 『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。 「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」 濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。 ······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。 復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。 ※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください) ※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。 ※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。 ※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。