私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)

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第3章 王立魔法学校入学編

閑話 ランディーの休日④

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「母上、ただいま戻りました」
「ランディー、お帰りなさい」

ジゼルはランディーの帰りを笑顔で出迎えてくれた。
部屋の中にいたジゼル付きのメイドは、ランディーが部屋にはいると同時に静かに退出していった。
せっかくの親子水入らずの時間を邪魔しないよう気を使ってくれたのだろう。
ジゼルの部屋は午前中にも関わらず、分厚いカーテンで覆われており、薄暗かった。
こんな部屋の中で一日中閉じ籠っていては、余計に気が滅入ってしまうだろう。
しかし、ジゼルの気持ちを考えたら、ランディーにはカーテンを開けようと言う気にはとてもなれなかった。
使用人達にもジゼルの好きなようにさせてほしいとランディーから伝えてあったため、ジゼルが部屋に引き込もって以来、カーテンは常に閉ざされたままになっていた。

「母上、すぐに来れなくてごめんなさい」
「そんなこと気にしなくて良いのよ。さあ、わたくしにあなたの顔をよく見せてちょうだい」
「はい」

ランディ―はジゼルの願いを聞き入れると、椅子に座っているジゼルのそばに近寄る。
すると、ジゼルは両手をランディーの顔に添えるとじっと愛しげに見つめる。

「元気そうで、良かったわ。学校は楽しい?」
「そうですね。はじめて知ることも多くて、勉強になります」
「友達はできたのかしら?」
「それなりには」

友達と言うよりは取り巻きに近いかもしれないが。
それも同学年に同じ爵位の子息がいたため、なかなか思い通りにいっていないのが現状だ。
もっとも、そんな話をわざわざジゼルに言う必要はない。
しかし、ジゼルにはお見通しだったようだ。
ランディーの顔からそっと手を離すと、「ごめんなさいね」と悲しげな顔で謝る。

「母上が謝ることなどなにもありませんよ?」
「わたくしがもっとしっかりしていれば、あなたはもっと学校生活を純粋に楽しめたでしょうに。心の弱い母を許してね」
「母上はなにも悪くありません!悪いのはっ」
「ランディーっ!…お願い、それ以上は…」
「…ごめんなさい」

ランディーは知っていた。
これだけ辛い目に遭わされているにも関わらず、母がまだジェームズを愛していることを。
いつか、昔のように家族で仲良く暮らせる日が来るはずとの思いが捨てきず、でもそんな未来が来ることはないのだと毎日のように現実を突きつけられ、耐えきれなくなって部屋に引きこもってしまった。
そんな母が哀れで、そして母をここまで傷つけておいて、反省することもなく幸せそうに暮らすジェームズ達が許せなかった。
だが、だからと言ってそれをジゼルにぶつけるのは間違っている。

「…母上に聞いてほしい学校の話がたくさんあるんです。聞いてくれますか?」
「もちろんよ」

ランディーは気持ちを切り替えると、ジゼルもほっとしたように話に乗ってくれた。
せっかくなのでジゼルと一緒にお昼にしようと先程のメイドを呼ぶ。
メイドは扉の外で待機しており、ランディーがお昼の用意をお願いすると、笑顔で調理場に向かってくれた。
ジゼルとお昼を楽しんだあと、夕食も一緒にとることを約束し、一旦部屋を出る。

向かう先はランディーの自室だが、もちろん休憩するわけではない。
部屋の中には執事長のバルトとメイド長のマチルダがすでにいて、ランディ―を待っていた。

「報告を聞こう」
「「はっ」」

バルトにはジェームズの最近の仕事ぶりをマチルダには屋敷内の出来事を聞いていく。

「では、あの人の新たな不正の証拠が見つかったんだね」
「はい。ただ、まだあの件に関しては…」
「絶対にあの人が関わってるはずなんだ。証拠を見つけるのは大変だと思うけど、引き続き探してほしい」
「ラッセル様とランディー様のためです。なんとしても見つけ出して見せましょう」
「ありがとう。マチルダ、僕がいない間、あいつらに母上や使用人のみんなは酷いことされなかった?」
「お嬢様は部屋から一歩も出ませんから、今のところは。ただあの女はそれをいいことにやりたい放題で、それを咎めるものもおりませんから、若い使用人達の我慢も限界でして…」
「ここで働くのが辛いようなら、領地にある屋敷で働けれるようにしてあげて。あの女にはそうだな…、ミリアとライラならうまくやってくれるんじゃないかな?」
「それが一番ですわね。かしこまりました」

ランディーは二人の報告を聞いたあと、それぞれに的確な指示を与える。
ジェームズが当主になってからの日課だった。
まだ成人もしておらず、たいした力もないランディーにはジェームズを当主の座から引きずり下ろすのは難しい。
その上、ジェームズは外面だけはよかった。
ジェームズの不利になるような資料は着々と手にいれてはいるが、今ランディーがジェームズの不正を声高らかに訴えたとしても、子供の言うことだとジェームズに言われれば、誰も相手にしてはくれないだろう。
今、ランディーがすべきことは自分の味方を増やすことだ。

「みんなにも忍耐を強いて申し訳ないけれど、僕が成人するまで待っていて欲しい。必ずあの男を当主の座から引きずり下ろしてみせるから」
「「はっ」」

ランディーの決意表明に、二人は固く頷くと部屋を出て行った。
ジゼルはきっと、ランディーがジェームズに対してしようとしていることを知ったら、悲しむことだろう。

「だけど、立ち止まるわけにはいかないんだ」

ランディ―の独白は、彼の心情をあらわすかのように部屋にむなしく響いた。

---
いつも読んでいただきありがとうございます。
これで三章は終わりです!
次からは通常通り、最新話が話の最後になります。
しばらくの間、順番がおかしなことになってしまい、申し訳ありませんでした(汗)

8/14 文章を一部訂正しました。
誤:その上、《ランディー》は外面だけはよかった。
正:その上、《ジェームズ》は外面だけはよかった。
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