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第3章 王立魔法学校入学編
閑話 ランディ―の休日②
しおりを挟むコン、コン、コン
「ランディーです」
「入れ」
応接間にはジェームズとローズ、そしてローズの母親のアイーダがいて、ローズの学校生活の話を楽しそうに聞いていた。
ランディ―が応接間に姿を表した瞬間、ローズとアイーダの顔が不機嫌に歪む。
しかし、ジェームズが二人に顔を向けた時にはにこやかな笑顔に変わっていた。
「ただいま戻りました」
「遅い!挨拶に来るのにどうしてこんなに時間がかかるんだ」
応接間に入って早々に、ジェームズからの叱責が飛ぶ。
「申し訳ありません。たった今戻ってきたばかりで······」
「くだらん言い訳はやめろ!ローズと一緒に帰ってきたのなら、今到着したわけがないだろう」
ローズはランディ―を置いて一人で帰ってきたことをジェームズには伝えていないかったようだ。
そして、ランディ―を嫌うローズが彼のために本当のことを言うわけがなく、ここでランディが本当のことを言ってもジェームズの怒りを倍増させるだけなのは長年の経験からわかっていた。
「どうせ、あの女のところに真っ先に行ってたんだろう?」
だから、ジェームズがランディ―の母親のことをあの女呼ばわりしたとしても耐えるしかなかった。
そんな二人の様子をローズ親子が楽しげに見つめているのがわかっていても、今のランディーには何の力もないのだ。
お祖父様が生きていたら……
祖父が生きていた頃は良かった。
入り婿のジェームズは祖父の手前か、母に対しても自分に対してもこんな一方的に怒鳴りつけるなんてことはなかった。
しかし祖父はそんなジェームズの真の姿を見抜いていたのだろう。
ジェームズではなくランディ―を次期伯爵家当主にと考えていて、ランディーに様々な知識を与えてくれた。
「お前が成人するまでは儂が当主として頑張らねばな」と言うのが祖父の口癖だった。
まさか馬から落馬して呆気なく亡くなってしまうなんて、ランディーは思いもしなかった。
それからランディーとランディーの母親の生活は一変した。
祖父の葬儀も終わらぬうちから、ランディーはローズ親子をこの屋敷に住まわせたのだ。
まさかジェームズに愛人がいて、しかも自分と同じ年齢の子供まで作っていようとは!
祖父の死でただでさえ弱っていた母は、ジェームズの裏切りにショックを受け、部屋に引きこもってしまった。
それをいいことに我がもの顔で屋敷を練り歩き、あたかも自分が女主人のようにふるまうアイーダには嫌悪しか湧かなかった。
そしてそれを容認し、ランディーとランディーの母親に辛く当たるジェームズを父親だとはもう思えなかった。
だが、ローズに関しては少し複雑だ。
ローズはジェームズに自分達とは別の家族がいるとは知らなかったようで、この屋敷に来てその事実を知った当初は相当なショックを受けていた。
ジェームズとアイーダがそんなローズをかわいそうに思って甘やかしすぎた結果、今のわがままで傲慢な子供になってしまった。
ランディーに意地悪するのも、自分のほうがジェームズに愛されているのだと確かめたいのだろう。
だからと言って、学校でまで問題行動を起こすのはやりすぎではあるが。
ローズはあの時のことをジェームズ達に話したのだろうか?
ジェームズの小言を聞き流しながら、入学早々のローズの問題行動を思い出していると、ようやくジェームズの気が済んだようだ。
これで退出できるとほっとしたランディーだったが、まだ話は終わっていなかったようだ。
「ところでローズに聞いたのだが、一般科の生徒の中に生意気な生徒がいるようじゃないか」
「は?」
どうやらランディーが母に会いに行けるのはしばらく先になりそうだ。
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