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第3章 王立魔法学校入学編
187 図書館②
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「さいさんお願いしていたはずですよね?僕が奥にいる間に生徒が来たら、何もせずに僕を呼んでくださいと。貴女は了解したはずですが…」
「だって、あっきゅん」
スパンッ
「僕の名前はアーサーです!その馬鹿っぽい呼び名で呼ばないでくださいと何度言ったらわかるんですかっ!」
「でも、そっちの方が似合ってるしー」
スパンッ
「あんたはアホですかっ!僕はもう14です!似合ってるわけないでしょうがっ!」
ナタリアさんが何か言う度に、蛇腹に折られた紙がナタリアさんの頭に振り下ろされる。
さっきからすごく良い音がするけど、あんなに頭を叩かれて痛くないのかな?
ナタリアさんは両膝を折って座る不思議な姿勢でアーサーさんからのお叱りを受けていた。
明らかに辛そうな姿勢なのに、たまに堪えきれないようにニマニマと笑う姿は、申し訳ないけれど少し不気味だった。
『サラ様、あの、そろそろ精霊王様を…』
「え?」
そう言えば、さっきまで暴れていたマーブルがずいぶんと大人しく私の腕の中にいるような…。
ナタリアさんたちから腕の中のマーブルに視線を落とすと、目を閉じてすっかり大人しくなったマーブルの姿が。
「きゃっ!マーブル、大丈夫っ!?」
「にゃ?」
マーブルが嫌がらないのを良いことに、思いの外強く抱き締めてしまったようだ。
モスに言われなければ、ずっと抱き抱えたままだったよ。
「苦しかったよね、ごめんね」
「ににゃっ!にゃん、にゃん」
慌ててマーブルに謝り腕の力を緩めると、マーブルは首を横に振り、何やら必死に話しかけてくる。
思ったよりは苦しくなかったのかな?
でも、マーブルは優しい子だから痩せ我慢してるだけかも。
心なしか嬉しそうに見えたのは、気のせいに違いない。
『精霊王ともあろうお方がデレデレと情けない』
「にぎゅぅぅ!」
「デレデレ?」
『サラ様はお気になさらず。向こうの二人の話し合いは終わりそうです。あの少年がいるうちは精霊王様をポシェットの中に戻してよろしいかと』
「そうだね。マーブル、ポシェットの中でゆっくり休んでね」
「にー…」
マーブルをポシェットの中に促すと、耳も尻尾もだらりと下がったまま、ポシェットの中に入っていた。
あんなに元気がなくなるなんて、相当無理させちゃったんだな。
ごめんね、マーブル。
「とにかくっ!そこでしばらく反省してください。俺がいいと言うまではそのままの体制でいるんですよ!」
「はーい」
ズバンッ!
「返事は伸ばさないっ!」
「はいっ!」
モスの言う通り、ナタリアさんたちのやり取りもひとまず完了したようで、アーサーさんがこちらを見る。
ナタリアさんへの厳しい対応を目の当たりにしたばかりなので、少し緊張する。
「館長のナタリアが貴女に大変なご迷惑をお掛けして、申し訳ありません!」
けれど、アーサーさんは先程のナタリアさんへの対応とは全く違い、沈痛な面持ちでカウンターを出てこちらにやって来ると、腰を90度に折って深々と頭を下げる。
「あ、頭をあげてくださいっ」
モスはその謝罪を当然のものと受け止めているけど、私は初めての経験に慌てることしかできなかった。
怖くはあったけれど、すでにナタリアさんは十分以上の罰を受けてる気がするし、何かされたわけではないのだから、私にここまでの謝罪は必要はないと思うのだ。
「今後、このようなことがないよう、きつく指導しますので、どうか今回のことは許していただけないてしょうか」
「許します!許しますから!」
中々頭をあげてくれないアーサーさんを必死になって説得すると、ようやく頭をあげてくれた。
だけど、明らかに自分より年上のナタリアさんに怯むことなく叱りつけることができるなんて、アーサーさんって何者なのかしら?
アーサーさんはナタリアさんとお揃いの黒のエプロンに白いブラウス、茶色の半ズボンといった服装を身に付けていた。14歳って言ってたけれど、ナタリアさんと同じくこの図書館で働いているのかな?
「どうしました?」
「あ、いえ。服装が私と違うなって。アーサーさんは「っ!?言っておきますが、この半ズボンは僕の趣味ではないですからね!あの変態館長がこれしか認めてくれなくて仕方がなくっ!」」
「似合ってるわよね♪」
「似合ってなんかいませんっ!」
私の言葉に顔を真っ赤にさせて、エプロンで足を必死に隠すアーサーさんの姿を見て、とても申し訳ない気持ちになる。
「ご、ごめんなさいっ。学校の制服じゃなかったのが気になって」
決して半ズボンが気になった訳じゃないです。
私の気持ちが通じたのか、まだ少し顔を赤らめながらも質問に答えてくれた。
「ああ。僕はこの学校の生徒ではないので。…とても、とてつもなく不本意なことですが、あれが僕の師匠でして」
「師匠、ですか?」
「将来、僕も図書館の館長になるべく、教えを受けているのです」
「うふふ♪ある町に本を仕入に行ったときに図書館であっきゅんを見つけたの。すっごく私好みの…、こほん。すごく本を愛しているのがわかったから、私の知識を継承するに相応しいと思って、こちらから弟子にならないかと持ちかけたのよ♪あの時の私は本当に良い仕事をしたわね!」
「あの時、これが変態だとわかっていたらっ!」
満面の笑みを浮かべるナタリアさんとは対照的に苦虫を噛み潰したような顔をするアーサーさん。
エプロンで足を隠したままなのといい、よっぽど不本意なんだろうなぁ。
「だって、あっきゅん」
スパンッ
「僕の名前はアーサーです!その馬鹿っぽい呼び名で呼ばないでくださいと何度言ったらわかるんですかっ!」
「でも、そっちの方が似合ってるしー」
スパンッ
「あんたはアホですかっ!僕はもう14です!似合ってるわけないでしょうがっ!」
ナタリアさんが何か言う度に、蛇腹に折られた紙がナタリアさんの頭に振り下ろされる。
さっきからすごく良い音がするけど、あんなに頭を叩かれて痛くないのかな?
ナタリアさんは両膝を折って座る不思議な姿勢でアーサーさんからのお叱りを受けていた。
明らかに辛そうな姿勢なのに、たまに堪えきれないようにニマニマと笑う姿は、申し訳ないけれど少し不気味だった。
『サラ様、あの、そろそろ精霊王様を…』
「え?」
そう言えば、さっきまで暴れていたマーブルがずいぶんと大人しく私の腕の中にいるような…。
ナタリアさんたちから腕の中のマーブルに視線を落とすと、目を閉じてすっかり大人しくなったマーブルの姿が。
「きゃっ!マーブル、大丈夫っ!?」
「にゃ?」
マーブルが嫌がらないのを良いことに、思いの外強く抱き締めてしまったようだ。
モスに言われなければ、ずっと抱き抱えたままだったよ。
「苦しかったよね、ごめんね」
「ににゃっ!にゃん、にゃん」
慌ててマーブルに謝り腕の力を緩めると、マーブルは首を横に振り、何やら必死に話しかけてくる。
思ったよりは苦しくなかったのかな?
でも、マーブルは優しい子だから痩せ我慢してるだけかも。
心なしか嬉しそうに見えたのは、気のせいに違いない。
『精霊王ともあろうお方がデレデレと情けない』
「にぎゅぅぅ!」
「デレデレ?」
『サラ様はお気になさらず。向こうの二人の話し合いは終わりそうです。あの少年がいるうちは精霊王様をポシェットの中に戻してよろしいかと』
「そうだね。マーブル、ポシェットの中でゆっくり休んでね」
「にー…」
マーブルをポシェットの中に促すと、耳も尻尾もだらりと下がったまま、ポシェットの中に入っていた。
あんなに元気がなくなるなんて、相当無理させちゃったんだな。
ごめんね、マーブル。
「とにかくっ!そこでしばらく反省してください。俺がいいと言うまではそのままの体制でいるんですよ!」
「はーい」
ズバンッ!
「返事は伸ばさないっ!」
「はいっ!」
モスの言う通り、ナタリアさんたちのやり取りもひとまず完了したようで、アーサーさんがこちらを見る。
ナタリアさんへの厳しい対応を目の当たりにしたばかりなので、少し緊張する。
「館長のナタリアが貴女に大変なご迷惑をお掛けして、申し訳ありません!」
けれど、アーサーさんは先程のナタリアさんへの対応とは全く違い、沈痛な面持ちでカウンターを出てこちらにやって来ると、腰を90度に折って深々と頭を下げる。
「あ、頭をあげてくださいっ」
モスはその謝罪を当然のものと受け止めているけど、私は初めての経験に慌てることしかできなかった。
怖くはあったけれど、すでにナタリアさんは十分以上の罰を受けてる気がするし、何かされたわけではないのだから、私にここまでの謝罪は必要はないと思うのだ。
「今後、このようなことがないよう、きつく指導しますので、どうか今回のことは許していただけないてしょうか」
「許します!許しますから!」
中々頭をあげてくれないアーサーさんを必死になって説得すると、ようやく頭をあげてくれた。
だけど、明らかに自分より年上のナタリアさんに怯むことなく叱りつけることができるなんて、アーサーさんって何者なのかしら?
アーサーさんはナタリアさんとお揃いの黒のエプロンに白いブラウス、茶色の半ズボンといった服装を身に付けていた。14歳って言ってたけれど、ナタリアさんと同じくこの図書館で働いているのかな?
「どうしました?」
「あ、いえ。服装が私と違うなって。アーサーさんは「っ!?言っておきますが、この半ズボンは僕の趣味ではないですからね!あの変態館長がこれしか認めてくれなくて仕方がなくっ!」」
「似合ってるわよね♪」
「似合ってなんかいませんっ!」
私の言葉に顔を真っ赤にさせて、エプロンで足を必死に隠すアーサーさんの姿を見て、とても申し訳ない気持ちになる。
「ご、ごめんなさいっ。学校の制服じゃなかったのが気になって」
決して半ズボンが気になった訳じゃないです。
私の気持ちが通じたのか、まだ少し顔を赤らめながらも質問に答えてくれた。
「ああ。僕はこの学校の生徒ではないので。…とても、とてつもなく不本意なことですが、あれが僕の師匠でして」
「師匠、ですか?」
「将来、僕も図書館の館長になるべく、教えを受けているのです」
「うふふ♪ある町に本を仕入に行ったときに図書館であっきゅんを見つけたの。すっごく私好みの…、こほん。すごく本を愛しているのがわかったから、私の知識を継承するに相応しいと思って、こちらから弟子にならないかと持ちかけたのよ♪あの時の私は本当に良い仕事をしたわね!」
「あの時、これが変態だとわかっていたらっ!」
満面の笑みを浮かべるナタリアさんとは対照的に苦虫を噛み潰したような顔をするアーサーさん。
エプロンで足を隠したままなのといい、よっぽど不本意なんだろうなぁ。
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