私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)

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第3章 王立魔法学校入学編

186 図書館①

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コツ、コツ、コツ

授業中の廊下はとても静かで、自分の足音が廊下に響き渡る。

「静かだね」
「にゃー」

普段の音量で話すのもはばかられ、小声でマーブルに話しかけると、マーブルも小さな声で返事してくれた。
お目当ての場所である、図書館はもうすぐそこだ。

「あ、マーブル、モス、ここだよ」
「にっ」
『どれ程の書物があるか、楽しみですね』
「うんっ」

入学式の際に学校中を案内してもらった時は扉の前を通りすぎただけだったので、中に入るのは今回が初めてだ。
ドキドキしながら扉を開けて図書館の中に足を踏み入れると、そこは見渡す限り本、本、本で埋め尽くされてた空間となっていた。

「わぁっ」


こんなにたくさんの本があるのを見るなんて、生まれて初めて!
すべての壁には本棚が設置されていて、天井ギリギリの高さまで本がぎっしりと陳列されている様は、まさに圧巻の一言に尽きる。
中央には本を読むためのソファーや机が設置されていて、ゆっくりと本を読むことができそうだ。


「一年生ね。図書室は初めてかしら?」
「っ!?」

扉の前で立ったまま、図書館の中を夢中になって見渡していたので、自分のすぐ側に人がいることに全く気づいていなかった。
慌てて声のした方を向くと、扉のすぐ横にカウンターがあり、そこにはつばの広い帽子を被った紫色の髪と山吹色の瞳の女性が座っていた。

「は、はい。あの?」
「ごめんさい。驚かせてしまったわね。私は図書館の館長のナタリアよ。図書館へようこそ」
「サラです。よろしくお願いします」

自己紹介をし終えた後、勧められるままナタリアさんの向かいにある椅子に座る。

「図書館を利用する前に、私から注意点を幾つか説明するわね」
「お願いします」
「ふふっ。良いお返事ね」

ペコリと頭を下げると、ナタリアさんに頭を撫で撫でされちゃった。
初めて会った人に突然頭を撫でられ、驚きと照れ臭さでどうすれば良いかわからず、体がこわばる。
でも、ナタリアさんの撫で方はとても優しくて、いつしか体のこわばりも解けていった。

「か、可愛いっ♪」
「ふぇっ?…あっ!」

ナタリアさんがポツリと呟いた声で目を開ける。
いつの間にか撫でられたまま、うっとりと目を閉じていたようだ。

「きゃあん♪もう一回、もう一回「ふぇっ」て言ってみてくれる?」

間抜けな顔をしていなかったかな?
は、恥ずかしいっ!
ナタリアさんが何やら話しかけてくれてたみたいだけど、恥ずかしくって全く話を聞いていなかった。
真っ赤になった顔を隠したい衝動にかられていると、ポシェットの中で大人しくしていたマーブルが突然ポシェットの中から抜け出し、カウンターの上に飛び乗る。

「マーブル!?」
「キシャーッ!」


何やら両手をわきわきしていたナタリアさんに向かって、威嚇するマーブル。
慌ててマーブルを捕まえて腕の中に抱え込む。

「マーブルどうしたの?落ち着いて」
「フーッ!フーッ!」

なかなか落ち着かないマーブルを必死になってあやすけど、効果はないようで私の腕の隙間から前足を出して、隙あらばナタリアさんを引っ掻こうと躍起になっている。
こんなマーブルはジークに初めて会ったとき以来だ。もしかしたら、それ以上かも。

『サラ様、ここは精霊王様のお好きにさせてください。この女、敵意はないようですが、何やらよこしまな意思を感じますっ!』
(モスまでっ!?)

モスまでマーブルの肩を持つし、一体、どうしちゃったの?

「館長さん、うちのマーブルがごめんなさい。でも、いつもは大人しくて良い子なんです」

流石に引っ掻くのがわかっているのに、手を離すことはできないよ。何とかマーブルをガッチリ抱え込むことに成功し、ナタリアさんに謝る。

「はぁ、はぁっ。館長じゃなくて、ナタリアお姉ちゃんって呼んでくれて良いのよ?」
「え、あの?」

でも、ナタリアさんは特に気にしていないみたいで、マーブルをちらりとも見ることはなかった。

「ほら、ナタリアお姉ちゃんって呼んでみて」

ナタリアさんがカウンターから身をのりだして、こちらに顔を近づける。
先程までと違って息が荒く、目が血走っているのは何でだろう?
何故だかわからないけれど、目をそらしたら危険な気がして、ナタリアさんを見つめたまま、マーブルを先程よりも強く抱き締める。
マーブルは腕の中から抜け出したそうだったけれど、先程とは違う理由でマーブルを離すことができなかった。
マーブル、ごめん。ナタリアさんが怖くて、マーブルが手放せません。

「ナ、ナタリアさん?何だか、息が荒いですけど、大丈夫ですか?」
「優しいのねぇ!お姉さんに少し、ほんの少しだけサラたんをぎゅっとさせてくれたら、大丈夫になるわっ!」
「サ、サラたん?」
「もうっ、我慢できないわっ!」
「きゃっ!」
「にっ!?」
『サラ様っ』

ナタリアさんはそう叫ぶと、こちらに向かって大きく両手を伸ばすっ!
思わず目をつぶって、衝撃に備える。

スパコーンっ!

館内に小気味良い音が響き渡るのが聞こえた。

「きゃんっ!」
「こんのっ、変態館長っ!神聖な図書館で何をやってるんですかっ!」

恐る恐る目を開けると、ナタリアさんが頭を押さえて呻いている横で、深緑色の髪と栗色の瞳の少年が蛇腹に折られた扇形状の巨大な紙を片手に仁王立ちしていた。


―――
いつも読んでいただき、ありがとうございます。

変態とハリセンの登場でした(笑)
別に異世界転移とか転生とかで伝わったものではなく、どこぞの島国に伝わる遊び道具の一つという設定ですが、ハリセンってわかりますか?
この表現の方がハリセンって伝わるよというご意見がありましたら、教えてください。
参考にさせてもらいます。
今後ともよろしくお願いします。

6/8 ハリセンの表現を変更しました。
誤:扇形上になった巨大な紙
正:蛇腹に折られた扇形状の巨大な紙
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