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第2章 王都へ

70 険悪なムード

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「イヤーッ!」

キャシーちゃんの叫び声が聞こえてきて、すぐにマーヴェイさんが入り口から身を乗り出す。
しばらくそのまま見ていた後、戻ってきた。

「だ、大丈夫なんですか?」
「よくある事だ」

何がよくある事なんだろう?
私がわかってないことに気づいたのか、マーヴェイさんがもう少し詳しく教えてくれた。

「ここまで来るのが怖いんだろう。上がってる途中で目を開けてしまったんだな」

私はすごく楽しかったけど、高い所が怖い人には辛いのかも。
マーヴェイさんと話してる間も叫び声は絶え間なく続き、どんどん声が近づいてくる。
ついに手が入り口にかかり、シーラさんが竜籠の中に入ってきた。
マーヴェイさんがキャシーちゃんのベルトを外すと、キャシーちゃんは崩れ落ちるように椅子から降りる。

「キャシーちゃん!大丈夫⁉️」

慌てて椅子から降りて、キャシーちゃんの元に行く。

「相当怖かったみたいね。椅子に座らせてあげて」

アランさんの言葉を聞いて、マーヴェイさんがキャシーちゃんを抱き上げ、長椅子に座らせる。

「じゃあ、私はこのまま竜籠の外にいるわね」

シーラさんはキャシーちゃんが座るのをを見届けた後、外に出ていく。
私はキャシーちゃんの隣に座り、ポシェットから水を取り出す。

「お水飲む?」
「何であんたはそんなに元気なのよ」

キャシーちゃんはそう言うと、私から水を引ったくり、勢いよく飲み干す。
飲んだ後は長椅子に深くもたれ掛かる。

「回復魔法かけようか?」
「いらない。自分でかけ・・・」
「なぁに?」

キャシーちゃんは何故か話を途中でやめ、私の顔をじろじろと見ている。
何か顔についてるのかな?
自分の顔をペタペタ触っていたら、キャシーちゃんに手首を掴まれる。

「あんた、回復魔法が使えるの?」
「えっ?う、うん」
「うそっ!回復魔法が使える人なんて、滅多にいないって聞いてたのに」

キャシーちゃんはそう言うと、ぐったりしてたのが嘘のように、私の手首を掴んだまま、身を乗り出す。掴まれた手首が痛くて、思わず顔をしかめてしまう。

「キ、キャシーちゃん、手首が。」
「あんた光の精霊様の好意持ちだったんでしょ?それしか考えられないっ」
「痛っ。キャシーちゃん離して」
「にぎゃっ!きしゃーっ!」

必死で訴えるけど、キャシーちゃんは自分の考えに夢中で、気付いてくれない。
マーブルも鳴いて訴えてくれるけど、ポシェットの中からなので、あまり効果がないみたい。

「手首」
「きゃっ!何?」
「痛がってるから」

困り果てていたら、マーヴェイさんがキャシーちゃんの肩に触れ、注意してくれた。
マーヴェイさんの言葉にキャシーちゃんは慌てて手首を離してくれる。

「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」

マーヴェイさんにお礼を言うと、マーヴェイさんはひとつ頷き、入り口の前に戻る。
キャシーちゃんはマーヴェイさんが離れるのを待って、こちらを睨み付ける。

「そんなに強く掴んだ訳じゃないのに。大袈裟ね」
「でも」
「何よっ。文句でもあるの?」
「ううん。ごめんね」

これから1週間も一緒に生活するわけだし、これ以上キャシーちゃんの機嫌が悪くなるのも嫌だったので、素直に謝っておく。
無意識に手首を擦っていると、今まで黙っていたリードがキャシーちゃんを見ながら話しかけてくる。

『姐さん、こいつ燃やそうか?』

今まで聞いたことのない、暗く低い声で話す。


「ダメっ!」

リードの言葉に、思わず大きな声が出てしまう。
慌てて口を手で押さえるけど、すでに出た発言は取り消すこともできず、キャシーちゃんは私の大声に驚いているし、マーヴェイさんも軽く目を見張って、こちらを見ている。

「いきなり大声ださないでよっ。こっちは気分が悪いのよ」
「ごめんなさい」

キャシーちゃんとマーヴェイさんに謝った後、リードを見る。
相変わらず、キャシーちゃんを見つめている。

(リード、絶対ダメだからねっ!)

再度、リードに向かって心の中で念押しすると、残念そうにこちらを見てくるので、首を横に振る。

『ちえっ。わかったよ』

リードはなんとか納得してくれたみたいだけど、キャシーちゃんを名残惜しそうに眺めているので、油断はできない。
まだ、出発もしていないのに、すでに前途多難な旅になる予感がした。
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