私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)

文字の大きさ
上 下
19 / 278
第2章 王都へ

65 旅立ちの日

しおりを挟む
「忘れ物はない? ハンカチは持った?念のための酔い止めの薬は?」
「ちゃんと持ったよ!お母さん、それ聞くのもう5回目だよ」

お母さんが何度も聞くから、こっちまで不安になっちゃうよ。
やっぱり、もう一回確認しておこうな?

「だって、心配で。村を出たら忘れ物を取りに行きたくても、もう無理なのよ?」

村を出る日がついにやって来た。
我が家は朝から大忙しだ。

「1週間分の服でしょう?酔い止めの薬に、ハンカチに、何かあったときのためのお金と、それにマーブルのおやつ!」
「にゃん!」

おやつと聞いて、私のポシェットの中にいたマーブルが反応する。

「あははっ。マーブルったら、これは旅の間のおやつだから、今は食べられないよ」
「にー…」

私の言葉にしょんぼりするマーブル。

『朝飯食ったばっかりなのに、精霊王さんは食い意地が張ってるなぁ』
「にぐっ」

リードにからかわれて、マーブルは悔しそうだ。

「あんまりマーブルをいじめないで下さい!」
『すまん、すまん』

リードは謝ってくれたけど、何故かマーブルにではなく私に謝る。

「私にじゃなくて、マーブルに謝ってください」
『いや、でも本当の事だしなぁ』
「きしゃーっ!」
 「もう!リードはマーブルに意地悪すぎます。もっとマーブルに優しくして下さい」

精霊様たちは誰かが常に私の側にいた。
マーブルが里帰りするタイミングで精霊様は交代することにしたらしく、前回はティナが私の側にいてくれた。今回はリードの番だけど、マーブルとは相性が悪いのか喧嘩が絶えない。

「サラ、そろそろ行くぞ」
「あ、はーい」

お父さんに呼ばれて、玄関を出る。
すると、玄関の前には村のみんなが集まっていた。

「おお!村の期待の星が出てきたぞ。皆の者、サラを胴上げするのじゃーっ!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」」
「えっ?きゃあーっ!」「みぎゃっ⁉️」
「「サラっ⁉️」」

村長の号令で、村のみんなに突然、胴上げをされる。

「ちょっ。村長!早くサラを下ろしてください」
「嫌じゃ。みんなでサラの門出を祝ってやりたいのじゃ」
「みなさん、止めてーっ!」

ばんざーい!ばんざーい!

「わっ。わわっ」「にっ!にゃっ!」

お父さんたちが必死でみんなに声をかけるけど、誰も下ろしてくれない。
私とマーブルは村のみんなが飽きるまで、ただ胴上げされ続ける。

『ここの村は平和だねぇ』

リードはそんな私たちを助けるわけでもなく、のんびり見つめていた。


カッポカッポとメアリーが町に向かって歩き出す。

「目が回る~」

みんなが満足したあと、どうにか自分の足で馬車に乗ったけど、力尽きてそのまま横になる。

「サラ、大丈夫?」
「なんとか~」

お母さんが心配そうに声をかけてくれるので、なんとか返事をする。
竜便に乗る前にこんなに疲れちゃって、私大丈夫かな?
お母さんたちにばれないよう、こっそり回復魔法を自分にかけておく。
これ以上、村のみんなが叱られるのも可哀想だもんね。
胴上げの後、お父さんは村のみんなを地面に座らせ、お説教を始めたのだ。
さすがに、出発の時間に遅れる訳にはいかないから、ほんの短い間だったけど、
それでも村のみんなは半泣き状態で、村長さんに至っては号泣してた。
私や子供たちはお母さんに言われて、耳を塞いでいたので、何を言ってたのかはわからなかったけど、お父さんを本気で怒らせたらいけないと、肝に命じました。

ペロペロペロ

「ふふっ。マーブルくすぐったいよっ」
「にゃんっ」

私がずっと横になっていたので、心配したのか、マーブルが必死で私の顔を舐める。
くすぐったさに起きると、私が元気になったと思ったのか、マーブルは嬉しそうだ。
回復魔法のお陰か、起きても目眩はしなくなったけど、その様子を見ていたリードがまた、マーブルにちょっかいをかける。

『猫になりきってんなぁ。精霊王の姿に戻ったときに、猫の癖がでないようにしてくれよ』
「きしゃーっ!」

リードの言葉に、マーブルは怒って威嚇するけど、リードはニヤニヤするだけで、全然効果が無いみたい。
マーブルを後ろから抱っこして、宥める。

「にゃ?」
「リードの事なんて、気にしないで。私はとっても嬉しかったんだから。心配してくれて、ありがとうね」
「にゃーん」

頭を撫でてあげると、強張っていた体から力が抜けて、全身で甘えてくる。
可愛いなぁ。

『リードの事なんてって、姐さんはひどいなぁ』
「マーブル、怒ったからお腹すいたでしょう?おやつ食べる?」
「にゃんっ!」
『あの、姐さん?』
「ふふ。今回は特別だよ?」
「にゃあん♪」
『もしもーし』
「はい。あーん」
「なーん」
『もしかして、相当怒ってる?』
「美味しい?」
「にゃんっ」
『おーい』

町に着くまでリードを無視し続けると、流石に堪えたのか、マーブルに謝ってくれた。

「もう、マーブルをいじめないでくださいね?」
『はいっ』

わかればよろしい。



---
12/23  誤字を修正しました

誤:「1週間分の服でしょう?《良い止めの薬》に、ハンカチに、何かあったときのためのお金と、それにマーブルのおやつ!」
正:「1週間分の服でしょう?《酔い止めの薬》に、ハンカチに、何かあったときのためのお金と、それにマーブルのおやつ!」
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」 ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。 婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。 当然ながら、アリスはそれを拒否。 他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。 『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。 その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。 彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。 『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。 「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」 濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。 ······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。 復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。 ※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください) ※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。 ※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。 ※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。