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帰還編

勇者の婚礼 (3)

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 私は父の字で書かれた例の本を開いて、小さな声で読み上げる。そして最後のページを読み上げながら、ライナスが差し出してきた手を取った。読み上げ終わると、本を閉じて小脇に抱える。
 次の瞬間、ライナスと私の身体が宙に浮き上がるのを感じ、すうっと視界は暗転した。

 これは本の持つスキルだ。
 伯父さまのもとへ転移することができる。
 スキルを見つけたのは、ライナスだった。

 きっかけは、私のちょっとした疑問からだ。
 王さまの前で天使の振りをしたあの日、王さまの居室から伯父さまのところへ転移した原因がわからず、その後もときどき私は首をひねっていた。伯父さまは天のしわざだろうとおっしゃるのだけど、どうしても私はその説には納得できなかった。

 だって私の知る限り、どんな場合でも天が直接手を下して何かをするということは今までなかった。いつだって聖剣や封印水晶のように、手段を与えるだけなのだ。魔王の件だけでなく、神殿に伝わる他の逸話もすべて同様だ。
 このときもひとり首をひねっていたら、それを見とがめたライナスが声をかけてきた。

「どうしたの?」
「うん? ああ、たいしたことじゃないの。ただ、不思議だなあって思ってただけ」
「何が?」

 私の疑問をライナスに説明すると、彼はしばらくじっと考え込んでから口を開いた。

「ちょっとさ、神殿に行ってみない?」
「いいわよ」

 神殿に行きたがる理由はわからなかったけど、きっと何か考えがあるに違いないので素直にうなずく。ライナスは私を待たせて、しばらくすると何やらいろいろ詰まっていそうな大きな革袋を手にして戻ってきた。

 馬で大神殿へ行き、到着するとライナスはまっすぐに鑑定板に向かった。

「フィー、手をかざしてみて」
「はい」

 意味がわからないまま、言われたとおりに手をかざす。
 婚姻の誓いを交わしたときに見たとおりの情報が表示された、と思ったのだけど、どこか違和感があって表示されている文字をじっくり追ってみる。すると、自分の名前の色が前とは違うことに気がついた。以前は他の記載と同じく白い文字で表示されていたはずなのに、今は青い。

 不思議に思いつつ最後まで文字を追ってみて、ギョッとした。
 生年月日と伴侶の名前の下に「称号:聖女」という一行が追加されていたからだ。前に見たときには、絶対になかった。その下に神聖スキルの「封印解除」が表示されている。途中にさりげなく追加されていたものだから、最初にぱっと見たときには気がつかなかった。

「お。やっぱり聖女だったか。でも違いはそれだけだな」
「やっぱり?」
「うん。封印役なんだから、聖女だろ」
「なるほど。でも『大』とか『超』とかついてない、ただの聖女だったわね」

 私がわざとらしく真面目くさった顔で指摘すると、ライナスは吹き出して「うん」とうなずいた。
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