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帰還編
取り戻された後継者 (5)
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伯父さまはジムさんたちの調査に協力する傍ら、王さまの治療のために頻繁に王宮に通う必要もあって忙しそうだった。私たちの計画のためには、王さまの健康状態も重要だったからだ。余命が少ないのは自業自得なのだけど、それはそれとして計画がすべて完了する前に崩御されるといろいろな催し物がすべて延期されることになり、計画を立て直す羽目に陥る。
だから封印が終わるまでは、何としても生きながらえていただく必要があった。
一度だけ、伯父さまが治療のため王宮に上がるのに同伴した。王さまの治療にどうしても浄化の上級魔法が必要だったからだ。
私はそ知らぬふりで「お初にお目にかかります」と挨拶をした。
ほっとしたことに、王さまはこれが初対面だと信じたようだった。
天使の振りをして部屋を訪ねたときから半月も経っていないのに、王さまは随分と老けて小さくなってしまったような印象を受けた。
「そなたがウィリアムとジュリアの娘か。ジュリアの面影もあるが、父親似だな」
「はい。よくそう言われます」
王さまからかけられた言葉に、私は笑顔になって返事をした。
伯父さまやご領主さまには「容姿が母の若い頃に生き写し」と言われているけれども、実は私は子どもの頃から周りからは父親似だとよく言われていた。だから母に生き写しと言われても、あまりピンと来ていなかった。
もちろん親子だから顔立ちに似たところはあるだろうけど、性格は断然父親似なのだ。几帳面そうでいて、案外いろいろなところが大雑把。お茶目で人なつこい母に似たのは、弟のほうだった。そうした性格の違いは、表情や雰囲気にも表れているはずだ。
初めて顔を合わせたときには母と見間違えていたくせに、今は父親似と言われるのが何だか不思議でおかしかった。
王さまは少しの間じっと私の顔を見つめてから、言葉を続けた。
「そなたは、さぞや余を恨んでいるのだろうな」
「え? どうしてですか?」
質問内容に驚いて目を丸くし、反射的に質問を返してしまった私に、王さまは不可解そうな顔をした。
そんな顔をされても、別に私は王さまに個人的な恨みはない。好きか嫌いかで言ったら決して好きにはなれないけれど、かといって恨んでいるわけでもないのだ。
「そなたは両親の話を聞いていないのか」
「伯父に引き取られる前に、簡単な事情は聞かされています」
「だったら普通は恨むだろう」
「そうですか? 確かに陛下と両親の間にはいろいろあったのでしょう。でも私は両親から愛情をたっぷり注がれて、しあわせな家庭で育ちました。だから私が生まれる前に何かあったのだとしても、特に恨む理由にはなりませんよ」
王さまはなぜか呆然として「しあわせ、だったのか……」とつぶやいた。
そのつぶやきに対して「はい」とうなずくと、王さまは納得していない顔で私に尋ねた。
「だが暮らしは貧しかったのだろう?」
「とりたてて裕福ではありませんでしたけど、貧しくもありませんでしたよ。平民の中ではどちらかというと余裕のあるほうだったと思います」
王さまの質問に答えながら、私の頭の中には「恨む」という言葉から連想してひとつの顔が浮かんできてしまった。私から家族を奪った、あの魔獣ハンターの男の顔だ。あの男のことなら、確かに恨んでいる。何があろうとも許せる気がしない。
私がほとんど無意識に顔をしかめてしまったのを見て、王さまが嘆息した。
「やはり恨んでいるのであろう」
「あ、いえ。今のはちょっと、全然別のことを思い出してしまっただけです」
「そんな顔をするような何を思い出した?」
王さまにうながされて、あの魔獣ハンターの男のことと、家族を失ったときのことを話した。
「ああ。ウィリアムも言っていたな。余に殺された、と」
間接的には確かにそのとおりなのだけど、わざわざ言うことでもないので私は黙って聞いていた。この件に関して、私が恨んでいるのはたぶんあの男だけだ。あの男をかばいだてした親族や、それを王さまにねだった愛妾や、おねだりに気前よく法を曲げた王さまについては、腹が立つし許せないとは思うものの、恨むとまで言うには少し因果が遠いような気がした。
だから封印が終わるまでは、何としても生きながらえていただく必要があった。
一度だけ、伯父さまが治療のため王宮に上がるのに同伴した。王さまの治療にどうしても浄化の上級魔法が必要だったからだ。
私はそ知らぬふりで「お初にお目にかかります」と挨拶をした。
ほっとしたことに、王さまはこれが初対面だと信じたようだった。
天使の振りをして部屋を訪ねたときから半月も経っていないのに、王さまは随分と老けて小さくなってしまったような印象を受けた。
「そなたがウィリアムとジュリアの娘か。ジュリアの面影もあるが、父親似だな」
「はい。よくそう言われます」
王さまからかけられた言葉に、私は笑顔になって返事をした。
伯父さまやご領主さまには「容姿が母の若い頃に生き写し」と言われているけれども、実は私は子どもの頃から周りからは父親似だとよく言われていた。だから母に生き写しと言われても、あまりピンと来ていなかった。
もちろん親子だから顔立ちに似たところはあるだろうけど、性格は断然父親似なのだ。几帳面そうでいて、案外いろいろなところが大雑把。お茶目で人なつこい母に似たのは、弟のほうだった。そうした性格の違いは、表情や雰囲気にも表れているはずだ。
初めて顔を合わせたときには母と見間違えていたくせに、今は父親似と言われるのが何だか不思議でおかしかった。
王さまは少しの間じっと私の顔を見つめてから、言葉を続けた。
「そなたは、さぞや余を恨んでいるのだろうな」
「え? どうしてですか?」
質問内容に驚いて目を丸くし、反射的に質問を返してしまった私に、王さまは不可解そうな顔をした。
そんな顔をされても、別に私は王さまに個人的な恨みはない。好きか嫌いかで言ったら決して好きにはなれないけれど、かといって恨んでいるわけでもないのだ。
「そなたは両親の話を聞いていないのか」
「伯父に引き取られる前に、簡単な事情は聞かされています」
「だったら普通は恨むだろう」
「そうですか? 確かに陛下と両親の間にはいろいろあったのでしょう。でも私は両親から愛情をたっぷり注がれて、しあわせな家庭で育ちました。だから私が生まれる前に何かあったのだとしても、特に恨む理由にはなりませんよ」
王さまはなぜか呆然として「しあわせ、だったのか……」とつぶやいた。
そのつぶやきに対して「はい」とうなずくと、王さまは納得していない顔で私に尋ねた。
「だが暮らしは貧しかったのだろう?」
「とりたてて裕福ではありませんでしたけど、貧しくもありませんでしたよ。平民の中ではどちらかというと余裕のあるほうだったと思います」
王さまの質問に答えながら、私の頭の中には「恨む」という言葉から連想してひとつの顔が浮かんできてしまった。私から家族を奪った、あの魔獣ハンターの男の顔だ。あの男のことなら、確かに恨んでいる。何があろうとも許せる気がしない。
私がほとんど無意識に顔をしかめてしまったのを見て、王さまが嘆息した。
「やはり恨んでいるのであろう」
「あ、いえ。今のはちょっと、全然別のことを思い出してしまっただけです」
「そんな顔をするような何を思い出した?」
王さまにうながされて、あの魔獣ハンターの男のことと、家族を失ったときのことを話した。
「ああ。ウィリアムも言っていたな。余に殺された、と」
間接的には確かにそのとおりなのだけど、わざわざ言うことでもないので私は黙って聞いていた。この件に関して、私が恨んでいるのはたぶんあの男だけだ。あの男をかばいだてした親族や、それを王さまにねだった愛妾や、おねだりに気前よく法を曲げた王さまについては、腹が立つし許せないとは思うものの、恨むとまで言うには少し因果が遠いような気がした。
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