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帰還編
両親の過去 (4)
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やっぱり私たちは二人とも、世間知らずだ。聞かなければ知らないことが多すぎる。勇者となって王都へ出て行った分、ライナスのほうが私よりはずっとましだけど、でも十分ではない。
そして、いろいろなことを聞けば聞くほど王家が嫌いになっていく。
「きみはジュリアの若い頃にそっくりだからなあ。もう王都には近寄らないほうがいい。王の目に触れたら、また何を言い出すかわからん」
「はい……?」
「ジュリアの二の舞になりかねない、ということだよ」
「え、やだ。絶対にいやです」
聞いただけでもぞっとして、隣に座っていたライナスに思わずひしとすがりついてしまった。
でも、待って。
偽ライナスは王宮にいる。それを封印するためには、浄化魔法の使い手が必要だ。だからその役は、私が果たすつもりでいた。なのに今、私は王都に行かないほうがいいと言われてしまったのだ。それは困る。もう封印役を他の人にはまかせたくない。
そのとき、思いついたことがあったのでライナスに尋ねてみた。
「ねえ、ライ。『姿写し』って、自分以外には使えない?」
「使えない」
「残念」
私の姿が変えられたら、それが一番簡単なのに。
王さまとお姫さまのせいで、いらない面倒ばかりが増えていく。
「でも私、もう他の誰にも封印水晶は預けたくない」
「本来、聖女はきみだったはずだしね」
私の愚痴に、ご領主さまが不思議な言葉を返してきた。
意味がわからず首をかしげていると、ご領主さまが説明してくださった。
もし王さまが母に横恋慕したりしなければ、両親は駆け落ちなどすることもなく、ローデン家を継いでいたはずだ。そうすれば両親の子である私は能力を隠す必要もなく、順当に上級魔法まで覚え、当然聖女に選ばれていただろう、と言うのだ。なるほど。
本当にあの王さまは、ろくでもない。
私のその考えを読んだかのように、お兄さまが口を開いた。
「やっぱりあの国王は何とかしないとな」
え、何とかって、どうするの?
いつも朗らかなお兄さまの口から出たとはとても思えない不穏な言葉に、私とライナスは顔を見合わせてから、同時にお兄さまのほうを見た。お兄さまは、私たちの問いかけるような視線に言葉で答えることはなく、ただにっこりと微笑んでみせただけだった。不穏さが増した。
「数日内に王都から友人が来るから、そのときまた一緒に相談しよう」
「はい」
その「ご友人」がとんでもない人であることは、このときはまだまったく想像もしていなかった。
そして私はローデン家のことも、もうすっかり自分とは関係ないものとして頭の隅に追いやってしまっていた。伯父の探している父は、もうこの世にいない。だからもはや私には関係ない人だと、そう思っていた。ご領主さまに聞かされていた、ローデン家の当主となるための条件のことなど、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたのだった。
そして、いろいろなことを聞けば聞くほど王家が嫌いになっていく。
「きみはジュリアの若い頃にそっくりだからなあ。もう王都には近寄らないほうがいい。王の目に触れたら、また何を言い出すかわからん」
「はい……?」
「ジュリアの二の舞になりかねない、ということだよ」
「え、やだ。絶対にいやです」
聞いただけでもぞっとして、隣に座っていたライナスに思わずひしとすがりついてしまった。
でも、待って。
偽ライナスは王宮にいる。それを封印するためには、浄化魔法の使い手が必要だ。だからその役は、私が果たすつもりでいた。なのに今、私は王都に行かないほうがいいと言われてしまったのだ。それは困る。もう封印役を他の人にはまかせたくない。
そのとき、思いついたことがあったのでライナスに尋ねてみた。
「ねえ、ライ。『姿写し』って、自分以外には使えない?」
「使えない」
「残念」
私の姿が変えられたら、それが一番簡単なのに。
王さまとお姫さまのせいで、いらない面倒ばかりが増えていく。
「でも私、もう他の誰にも封印水晶は預けたくない」
「本来、聖女はきみだったはずだしね」
私の愚痴に、ご領主さまが不思議な言葉を返してきた。
意味がわからず首をかしげていると、ご領主さまが説明してくださった。
もし王さまが母に横恋慕したりしなければ、両親は駆け落ちなどすることもなく、ローデン家を継いでいたはずだ。そうすれば両親の子である私は能力を隠す必要もなく、順当に上級魔法まで覚え、当然聖女に選ばれていただろう、と言うのだ。なるほど。
本当にあの王さまは、ろくでもない。
私のその考えを読んだかのように、お兄さまが口を開いた。
「やっぱりあの国王は何とかしないとな」
え、何とかって、どうするの?
いつも朗らかなお兄さまの口から出たとはとても思えない不穏な言葉に、私とライナスは顔を見合わせてから、同時にお兄さまのほうを見た。お兄さまは、私たちの問いかけるような視線に言葉で答えることはなく、ただにっこりと微笑んでみせただけだった。不穏さが増した。
「数日内に王都から友人が来るから、そのときまた一緒に相談しよう」
「はい」
その「ご友人」がとんでもない人であることは、このときはまだまったく想像もしていなかった。
そして私はローデン家のことも、もうすっかり自分とは関係ないものとして頭の隅に追いやってしまっていた。伯父の探している父は、もうこの世にいない。だからもはや私には関係ない人だと、そう思っていた。ご領主さまに聞かされていた、ローデン家の当主となるための条件のことなど、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたのだった。
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