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帰還編

最果ての村 (2)

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 日が傾きかけた頃に、最果ての村に到着した。本当に小さな集落だった。
 村の周囲は、結界魔法を施した柵で囲われている。
 ここは魔獣ハンターたちの活動拠点となっていて、ハンターたちに宿と食事を提供するための村なのだそうだ。

 村には宿屋がひとつだけある。どこかさびれた雰囲気の宿屋だった。
 裏手にある厩舎で馬たちを休ませ、ライナスと私は宿屋に入った。

「いらっしゃい。お二人さまで?」
「うん。あと馬が二頭いるから、飼い葉を少しわけてほしい」
「裏に厩舎があるから、好きなとこを使ってください。飼い葉は、餌置き場のものを好きなだけどうぞ」
「ありがとう」

 ライナスは慣れた様子で宿屋の主人とやり取りし、部屋をとった。
 その様子を私は隣で見ていたのだけど、料金を聞いてギョッとした。目の玉が飛び出そうなほど高かったのだ。私の様子を見て、主人はすまなそうな顔をして理由を話してくれた。

「ここでは日用品も食材も、すべてが隣町頼みだから、輸送費がかさんでどうしても高くついちまうんですよ」
「輸送費を考えたら、これはすごく良心的な値段だよ」
「そう言ってもらえると、助かります」

 ライナスの補足を聞いて、驚きを顔に出してしまったことを逆に申し訳なく思った。

「俺はライナス、こちらは娘のフィミアだ。ひと晩よろしく」
「おや、勇者さまと同じ名前なんですね」
「うん。まあ、珍しい名じゃないからね」
「確かに。今日はお客さんたちだけだから、貸し切りですよ。ごゆっくりどうぞ」

 父の名前は、もちろんライナスではない。
 父から借りるのは姿だけで、名前は借りないことにしたのだ。必要ない限りできるだけ嘘はつきたくないし、とっさのときに自分の名前をうっかり「ど忘れ」しても困る。

 この宿屋はハンター向けの宿だけあって、飾り気はまったくない。けれども外からの見た目とは裏腹に、内部は古びてはいるもののよく手入れされていて小ぎれいだった。
 この付近は魔獣の多い地域だったが、魔王討伐後は徐々に魔獣の数が減り、それに伴ってハンターの滞在頻度も減少傾向らしい。以前ならハンターたちでもっと活気があったであろう宿屋の中は、今は私たち以外に宿泊客がなくて静かだった。

 ライナスと私は部屋に荷物を置くと、暖炉のある共有スペースでひと休みした。
 ここには二組のテーブルとソファーが置かれていて、宿泊者なら誰でも利用できるようになっている。ライナスは、室内を見回すと「本当はこんな場所だったんだな」とつぶやいた。私は声をひそめて彼に尋ねた。

「遠征のときにも来たの?」
「うん。そのときは、何も置かれてなくてがらんとしてた」

 そうしてライナスは、遠征中にお姫さまのわがまま放題から宿泊地の人々を守るためにこっそり早馬を出した話をしてくれた。
 当事者のライナスは、さぞかし胃の痛む思いをしたことだろう。でも、しまいにはベッドもなくなって、お姫さまは自分の簡易ベッドを使わざるを得なくなったという話は痛快だった。思わず手を叩いて笑い転げてしまうくらいに。
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