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魔王城編
魔王城、上層探索 (6)【魔王城編最終話】
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確認したかったことを確認し終わり、私とライナスは中庭に戻った。
そろそろ日が傾いてきている時間帯だった。
中庭の隅に転がしておいた卵はどうなっただろうか。
少し気になったので、様子を見に行ってみた。ライナスも同じことを思ったのか、後ろからついてくる。特に変化はなさそうだ、と思ったのだけど、どこか違和感があって首をひねった。
「何も変わってないね」
「ううん。見て、ほらここ」
隙間なくぴったり寄せて転がしてあったはずなのに、よく見ると今は少しずつ隙間がある。どれも均等に隙間があるから、一部が移動したというわけではないように思える。私はライナスに、その隙間を指さしてみせた。
「ほんの少しだけど、縮んでない?」
「本当だ」
あの円柱から引き離したのがよかったのか、日光に当てたおかげなのか、どちらかはわからないけど、どうやらこれで孵化は防げたようだ。
「このまま縮み続けて、消えちまえ」
「ね」
ライナスが悪態をつきながら卵を蹴飛ばすので、笑ってしまった。
本当に、消えてしまえばいいのに。
その後は、馬の世話をしてから夕食にした。
ライナスは食事の間ずっと静かだったが、食べ終わってから口を開いた。
「明日、ここを出発しようか」
「もういいの?」
「うん」
ライナスが見て回った限りでは、気になるものはあの孵化場と卵だけだったらしい。
あの円柱には手出しができそうもないし、卵はとりあえず処理したので、ここでできることはもうない、と判断したようだ。
「帰った後が面倒くさそうだなあ」
「そうね……」
ライナスの言う「帰った後」とは、魔王の封印のことだろう。
封印すること自体は、簡単だ。でも今の魔王はライナスの姿で、王女さまと婚約している。王宮の中で大勢の侍従やら護衛やらにかしずかれて暮らしている中に乗り込んで行くのは、なかなか面倒くさそうだ。
力ずくで突破して解除してから封印する手もないではないが、真っ向から王家を敵に回しそうで、別の意味でやっぱり面倒くさい。
いずれ魔王は必ずここに戻ってくるとはいえ、それが一年先なのか数十年先なのか見当がつかない状態では、ここで待ち続けるというのも現実的ではない。
まあでも、ライナスには「姿写し」が使えるわけで、何とでもやりようがある気はする。
「とにかくまずは、帰りましょう」
「うん。そうだね」
世間知らずな私たちだけでは何を考えても、どうせ穴だらけの計画しか立てられないだろう。
どう立ち回るのが賢いのか、よくご存じなご領主さまやお兄さまたちに相談してから動くのが一番いいと思う。
「一年かあ」
「そんなにかかんないよ」
「そうなの?」
「うん」
ライナスによれば、片道一年近くかかったのは、主にお姫さまの移動速度に合わせたからだそうだ。私と二人なら、二、三か月もあれば帰れると思う、と言う。
「え、そんなに違うの?」
「だからうんざりしたんだよ……」
「あ、うん。大変でしたね……」
表情の抜け落ちた顔で遠い目つきをしたライナスに、あわてて私は抱きついて背中をさすった。よっぽどつらかったんだろうなあ、これ。いやな思い出は、早く忘れてしまえ。
甘えたように寄りかかってくるライナスの背中をしばらくなで続けてから、私は口を開いた。
「今度は二人きりだから」
「うん」
「長い新婚旅行なんでしょ?」
「うん」
やっと笑みを浮かべたライナスに、私はキスをした。
そろそろ日が傾いてきている時間帯だった。
中庭の隅に転がしておいた卵はどうなっただろうか。
少し気になったので、様子を見に行ってみた。ライナスも同じことを思ったのか、後ろからついてくる。特に変化はなさそうだ、と思ったのだけど、どこか違和感があって首をひねった。
「何も変わってないね」
「ううん。見て、ほらここ」
隙間なくぴったり寄せて転がしてあったはずなのに、よく見ると今は少しずつ隙間がある。どれも均等に隙間があるから、一部が移動したというわけではないように思える。私はライナスに、その隙間を指さしてみせた。
「ほんの少しだけど、縮んでない?」
「本当だ」
あの円柱から引き離したのがよかったのか、日光に当てたおかげなのか、どちらかはわからないけど、どうやらこれで孵化は防げたようだ。
「このまま縮み続けて、消えちまえ」
「ね」
ライナスが悪態をつきながら卵を蹴飛ばすので、笑ってしまった。
本当に、消えてしまえばいいのに。
その後は、馬の世話をしてから夕食にした。
ライナスは食事の間ずっと静かだったが、食べ終わってから口を開いた。
「明日、ここを出発しようか」
「もういいの?」
「うん」
ライナスが見て回った限りでは、気になるものはあの孵化場と卵だけだったらしい。
あの円柱には手出しができそうもないし、卵はとりあえず処理したので、ここでできることはもうない、と判断したようだ。
「帰った後が面倒くさそうだなあ」
「そうね……」
ライナスの言う「帰った後」とは、魔王の封印のことだろう。
封印すること自体は、簡単だ。でも今の魔王はライナスの姿で、王女さまと婚約している。王宮の中で大勢の侍従やら護衛やらにかしずかれて暮らしている中に乗り込んで行くのは、なかなか面倒くさそうだ。
力ずくで突破して解除してから封印する手もないではないが、真っ向から王家を敵に回しそうで、別の意味でやっぱり面倒くさい。
いずれ魔王は必ずここに戻ってくるとはいえ、それが一年先なのか数十年先なのか見当がつかない状態では、ここで待ち続けるというのも現実的ではない。
まあでも、ライナスには「姿写し」が使えるわけで、何とでもやりようがある気はする。
「とにかくまずは、帰りましょう」
「うん。そうだね」
世間知らずな私たちだけでは何を考えても、どうせ穴だらけの計画しか立てられないだろう。
どう立ち回るのが賢いのか、よくご存じなご領主さまやお兄さまたちに相談してから動くのが一番いいと思う。
「一年かあ」
「そんなにかかんないよ」
「そうなの?」
「うん」
ライナスによれば、片道一年近くかかったのは、主にお姫さまの移動速度に合わせたからだそうだ。私と二人なら、二、三か月もあれば帰れると思う、と言う。
「え、そんなに違うの?」
「だからうんざりしたんだよ……」
「あ、うん。大変でしたね……」
表情の抜け落ちた顔で遠い目つきをしたライナスに、あわてて私は抱きついて背中をさすった。よっぽどつらかったんだろうなあ、これ。いやな思い出は、早く忘れてしまえ。
甘えたように寄りかかってくるライナスの背中をしばらくなで続けてから、私は口を開いた。
「今度は二人きりだから」
「うん」
「長い新婚旅行なんでしょ?」
「うん」
やっと笑みを浮かべたライナスに、私はキスをした。
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