上 下
35 / 98
魔王城編

魔王城、中層探索 (1)

しおりを挟む
 またひと晩明けて、私は図書室で読書の続き、ライナスも蔵書確認の続きをそれぞれ朝から再開した。ライナスはやはり作業が速く、私が休憩する頃には図書室調査を終えていた。

 前日ライナスに教えてもらった時計は、図書室の出入り口の上に掛けられていた。
 丸い文字盤だけの、不思議な時計だ。ネジを巻くための穴がなく、振り子もない。音もしない。いったいどんな原理で動いているのか不思議で仕方ないが、ちゃんと時を刻んでいた。

 図書室調査を終えたライナスは、ひとりで中層の探索に出かけた。
 私は図書室でお留守番だ。

 昼前に、私は上級回復魔法書を読み終わった。意外なことに、上級だからといって特に難易度が上がるわけではないようで、読み終われば魔法が使えるようになっていた。
 ただし魔法を覚えるの自体はそう難しいことではないものの、初級や中級の魔法とは決定的に違う点があった。上級魔法を使うと、身体からごっそり魔力が抜けていく感覚があるのだ。何回も連続して使ったりするのは、たぶん無理。初級や中級の回復魔法だったら、際限なくいくらでも使えそうなのに。中級と上級では魔法の効果に差が大きいから、仕方ないことなのかもしれない。

 連続して何回まで使えるものなのか、自分の限界を知っておこうと、最上級の回復魔法を自分に対してかけてみた。十回を数えたところで、魔力がもう残りわずかなのが感じられた。感覚的にあと一回分には少し足りないようだったのだけど、念のためもう一回かけてみた。
 指先から魔法が発動しかけて消え、くらっとめまいがした。

 まずい、立ちくらみだ。
 この部屋の床は黒大理石でできているから、ばたんと棒のように倒れたりしたら、打ちどころ次第では命にだって関わりかねない。あわてて本を手放し、両手で頭を抱え込んでしゃがんだが、そのまま視界は黒い闇で覆われて、意識が遠のいていった。

 まあ、でもただの立ちくらみだから、数秒で視界が戻るだろうと思っていたのだけど────。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

夫は帰ってこないので、別の人を愛することにしました。

ララ
恋愛
帰らない夫、悲しむ娘。 私の思い描いた幸せはそこにはなかった。 だから私は……

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。 彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。 そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。 この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。 その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...