27 / 98
魔王城編
魔王城、中庭 (1)
しおりを挟む
ライナスを封印解除してから一夜明けた現在、私とライナスはまだ魔王城にいる。
せっかくの機会だから、この際に調べられるだけ調べ尽くしてから帰ろう、とライナスが言うからだ。食料は多めに持ってきたから、しばらく滞在してもたぶん大丈夫。
昨夜のライナスは、封印を解いた後から寝るまでずっと、私の後ろをついて回っていた。まるで親鳥の後ろをついて歩くひな鳥のように。もちろん力仕事は引き受けてくれるし、野営の準備だってほとんどライナスがしたようなものなのだけど、とにかく私から離れようとしない。
「どうしたの?」と尋ねると、何も言わずに抱きついてきて首筋に顔をうずめ、ぐいぐい頬ずりをしてくる。とんだ甘えん坊だ。
そんなふうに甘えたくなるくらい、いやなことがたくさんあったのだろう。何しろ封印されちゃったほどだ。何もなかったはずがない。きっとそれを、ひとりでずっと我慢してきたのだろう。そう思うと突き放す気にはなれず、ライナスの気が済むまで好きなようにさせておいた。
でもひと晩ゆっくり休んだら、ライナスも気持ちが落ち着いたらしい。今日はもう普通だ。
朝食をいただきながら、私はライナスが王都に発った後のことを話した。
ご領主さまは週に数日、店の手伝いをする人を寄越してくださった。それとは別に、見回りの人も頻繁に寄越してくださっていたようだ。もともと治安のよい村ではあるけれども、おかげで物盗りに狙われたりすることは一切なかった。
ライナスが留守の間も、私の生活は特に変わりはなかった。
ただし一応念のため、必要ならいつでも旅に出られるよう、小さく荷物をまとめておくようになった。
魔王封印の知らせがあったときも、まだそれほど心配はしていなかった。
封印水晶が使用されると、魔王や勇者が覚醒したときと同じように空の色が変わり、世界中の人々へ同時に知らされる。
魔王が覚醒すると、地響きのような音とともに空が赤黒く染まる。
勇者が覚醒したときには、空から光の粒が舞い降りてくる。
封印水晶が使われたときには、魔王が覚醒したときのように空が赤黒く染まっただけでなく、あちこちに雷光が走り、赤黒い血の雨が降ったようなまがまがしい幻影が現れた。あのときは魔王の断末魔なのかと思ったものだが、今にして思えば封印すべきでないものを封印したことに対する天の怒りが示されていたのかもしれない。
魔王が封印されたにもかかわらず、すぐにライナスが戻って来なかったときにも、まだ私はそこまでは心配していなかった。指輪を使って帰っておいでとは言ったものの、ひとりだけさっさと帰ってくるわけにはいかない事情もあるだろうことは、十分予想できたからだ。
でも、ライナスとお姫さまがよい仲になったといううわさが聞こえてくるようになり、初めて何かがおかしいと思い始めた。真剣に旅支度を始めたのは、このときだ。ご領主さまにも、ライナスにもし何かあったなら助けに行きたいと相談したところ、野営に必要なものを教えてくださった上で、すべて用意してくださった。馬を二頭も融通してくだったのも、ご領主さまだ。
せっかくの機会だから、この際に調べられるだけ調べ尽くしてから帰ろう、とライナスが言うからだ。食料は多めに持ってきたから、しばらく滞在してもたぶん大丈夫。
昨夜のライナスは、封印を解いた後から寝るまでずっと、私の後ろをついて回っていた。まるで親鳥の後ろをついて歩くひな鳥のように。もちろん力仕事は引き受けてくれるし、野営の準備だってほとんどライナスがしたようなものなのだけど、とにかく私から離れようとしない。
「どうしたの?」と尋ねると、何も言わずに抱きついてきて首筋に顔をうずめ、ぐいぐい頬ずりをしてくる。とんだ甘えん坊だ。
そんなふうに甘えたくなるくらい、いやなことがたくさんあったのだろう。何しろ封印されちゃったほどだ。何もなかったはずがない。きっとそれを、ひとりでずっと我慢してきたのだろう。そう思うと突き放す気にはなれず、ライナスの気が済むまで好きなようにさせておいた。
でもひと晩ゆっくり休んだら、ライナスも気持ちが落ち着いたらしい。今日はもう普通だ。
朝食をいただきながら、私はライナスが王都に発った後のことを話した。
ご領主さまは週に数日、店の手伝いをする人を寄越してくださった。それとは別に、見回りの人も頻繁に寄越してくださっていたようだ。もともと治安のよい村ではあるけれども、おかげで物盗りに狙われたりすることは一切なかった。
ライナスが留守の間も、私の生活は特に変わりはなかった。
ただし一応念のため、必要ならいつでも旅に出られるよう、小さく荷物をまとめておくようになった。
魔王封印の知らせがあったときも、まだそれほど心配はしていなかった。
封印水晶が使用されると、魔王や勇者が覚醒したときと同じように空の色が変わり、世界中の人々へ同時に知らされる。
魔王が覚醒すると、地響きのような音とともに空が赤黒く染まる。
勇者が覚醒したときには、空から光の粒が舞い降りてくる。
封印水晶が使われたときには、魔王が覚醒したときのように空が赤黒く染まっただけでなく、あちこちに雷光が走り、赤黒い血の雨が降ったようなまがまがしい幻影が現れた。あのときは魔王の断末魔なのかと思ったものだが、今にして思えば封印すべきでないものを封印したことに対する天の怒りが示されていたのかもしれない。
魔王が封印されたにもかかわらず、すぐにライナスが戻って来なかったときにも、まだ私はそこまでは心配していなかった。指輪を使って帰っておいでとは言ったものの、ひとりだけさっさと帰ってくるわけにはいかない事情もあるだろうことは、十分予想できたからだ。
でも、ライナスとお姫さまがよい仲になったといううわさが聞こえてくるようになり、初めて何かがおかしいと思い始めた。真剣に旅支度を始めたのは、このときだ。ご領主さまにも、ライナスにもし何かあったなら助けに行きたいと相談したところ、野営に必要なものを教えてくださった上で、すべて用意してくださった。馬を二頭も融通してくだったのも、ご領主さまだ。
10
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる