死の予言のかわし方

海野宵人

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本編(シーニュ王国編)

脱出 (10)

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 全員でぞろぞろと船主用の部屋に向かい、ヨゼフは扉を叩いて「開けますよ」と声をかけてから扉を開けて中に入った。ヨゼフに続いてアンヌマリーも部屋に入る。
 その部屋は、置かれている調度品はアンヌマリーたちの部屋と似たようなものだが、ふたまわりほど広く、窓側にL字型のソファーが置かれている点が違う。

 奥に置かれた書き物机の前の椅子に座る人物を見て、アンヌマリーは目をまたたいた。さきほど見た「金髪の美女」がいるだろうと思っていたのに、そこにいたのはあの美女ではなかったのだ。
 ヨゼフは椅子に座っている人物を紹介し、それを聞いてアンヌマリーは目をむいた。

「こちらはシーニュの王太子殿下だ」
「もう王太子は死んだよ。ここにいるのは、何も持たない、ただのルイだ」

 なんとそれは、一週間前に逝去が報じられた第一王子ルイだった。本人は王子であることを否定しているけれども、「麗しの王太子」として知られたルイは、船乗り用の簡素な服をまとっていても、儚げな美貌がまったく損なわれていない。
 ここに至って、やっとアンヌマリーは理解した。さきほどの美女は、ルイだったのだ。
 そして食事が六人分用意されていたのは、ルイの分も入っていたからだ。

 ヨゼフがローテーブルの上に食事を広げ始めたので、アンヌマリーとノアも手伝った。と言っても、人数分の皿とフォークが書き物机の上に置かれていたので、それをひとりひとりに配っただけに過ぎないが。
 四歳児の手には皿は重くて危ないため、ノアにはフォークをまかせた。ヨゼフが「皿の横にこう置く」と実践してみせると、ノアはそれを真似して丁寧に配置する。小さな弟の意外な働きぶりに驚いて、アンヌマリーは目を見張った。

「一応、船員用の食堂スペースもあるんだけど、ちょっと内々の話をしたいから今日はこの部屋で食べます」

 ヨゼフの宣言を受けて、全員ソファーに座る。
 かごに詰められた食事は、なるべく食器を使わずに食べられるよう工夫がこらされていた。最低限、皿とフォークだけあれば十分にきちんとした食事ができる。
 ノアは当然のようにヨゼフのすぐ隣に収まっていた。

 食事を始めると、ロベールはヨゼフに水を向けた。

「どういうことなのか、説明してもらえるかな?」
「もちろんです」

 そうしてヨゼフは、なぜルイがここにいるのか、そもそもの最初から経緯を話し始めた。
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