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本編(シーニュ王国編)
災厄の種 (9)
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クライン子爵とマグダレーナにはそれぞれ客室が割り当てられたが、その晩、マグダレーナはアンヌマリーのベッドに一緒にもぐり込んでいた。
「マギー、来てくださって本当にありがとう。でも、学校は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。しばらくの間お休みすると、届けを出してきたわ」
マグダレーナの返事に、アンヌマリーは心配そうに眉を寄せて首を傾げる。
「手続きはそれでよいのでしょうけど、長くお休みしてしまうと単位が取れなくなったりするのではないの?」
「ああ」
友人が何を心配しているのかが腑に落ちて、マグダレーナは笑みを浮かべた。
「それも大丈夫なの。だって、わたくしの学校は淑女学校ですもの」
「淑女学校だと、どうして大丈夫なの?」
それでもまだ心配そうな友人の柔らかな頬を、マグダレーナは人差し指でつつきながら答えた。
「淑女学校では、あなたの通う学校とは違って学問はあまり教えないのよ。礼儀作法だとか、刺繍だとか、そういった淑女の嗜みがほとんどなの。だからお休みをとって隣国の侯爵家で行儀見習いをしてきたと言えば、むしろ箔が付くくらいよ」
「そうなの?」
「そうなの」
不思議そうに問い返すアンヌマリーに、マグダレーナは微笑んでうなずいてみせる。
「どれだけ授業を休もうとも、滞りなく授業料を納めて、最後にきちんと課題を提出しさえすれば、問題なく卒業できるのが淑女学校なの」
「でも、あまり長くお休みしたら課題ができないでしょう?」
「平気よ。お裁縫の得意なメイドに手伝ってもらうから。ちょっと九割ほどお願いすることにはなるかもしれないけど」
「全然ちょっとじゃないじゃないの!」
すました顔でとんでもないことを言うマグダレーナに、アンヌマリーは吹き出した。
「使用人の適性を見て仕事を割り振るのも淑女の嗜みですもの、推奨されてるくらいよ」
「ほんとうに?」
驚きつつも、やや疑わしげに返したアンヌマリーの表情を見て、マグダレーナはいたずらっ子の顔で小さく舌を出した。
「ごめんなさい、うそです。本当は、いちいちとがめたりしないだけ。だって全部自分ひとりで頑張ったかどうかなんて、仕上がったものからある程度判断できてしまうものではあるけれども、証拠なんてどこにもないでしょう?」
「なあんだ、そういうことね」
顔色の悪いアンヌマリーを笑わせようとして、マグダレーナがあえて明るい声でふざけてみせているのに、彼女は気づいていた。その気遣いがうれしかった。そして実際、話しているうちに、恐怖に凍りついていたアンヌマリーの心は少しずつ温まってきた。
「マギー、来てくださって本当にありがとう。でも、学校は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。しばらくの間お休みすると、届けを出してきたわ」
マグダレーナの返事に、アンヌマリーは心配そうに眉を寄せて首を傾げる。
「手続きはそれでよいのでしょうけど、長くお休みしてしまうと単位が取れなくなったりするのではないの?」
「ああ」
友人が何を心配しているのかが腑に落ちて、マグダレーナは笑みを浮かべた。
「それも大丈夫なの。だって、わたくしの学校は淑女学校ですもの」
「淑女学校だと、どうして大丈夫なの?」
それでもまだ心配そうな友人の柔らかな頬を、マグダレーナは人差し指でつつきながら答えた。
「淑女学校では、あなたの通う学校とは違って学問はあまり教えないのよ。礼儀作法だとか、刺繍だとか、そういった淑女の嗜みがほとんどなの。だからお休みをとって隣国の侯爵家で行儀見習いをしてきたと言えば、むしろ箔が付くくらいよ」
「そうなの?」
「そうなの」
不思議そうに問い返すアンヌマリーに、マグダレーナは微笑んでうなずいてみせる。
「どれだけ授業を休もうとも、滞りなく授業料を納めて、最後にきちんと課題を提出しさえすれば、問題なく卒業できるのが淑女学校なの」
「でも、あまり長くお休みしたら課題ができないでしょう?」
「平気よ。お裁縫の得意なメイドに手伝ってもらうから。ちょっと九割ほどお願いすることにはなるかもしれないけど」
「全然ちょっとじゃないじゃないの!」
すました顔でとんでもないことを言うマグダレーナに、アンヌマリーは吹き出した。
「使用人の適性を見て仕事を割り振るのも淑女の嗜みですもの、推奨されてるくらいよ」
「ほんとうに?」
驚きつつも、やや疑わしげに返したアンヌマリーの表情を見て、マグダレーナはいたずらっ子の顔で小さく舌を出した。
「ごめんなさい、うそです。本当は、いちいちとがめたりしないだけ。だって全部自分ひとりで頑張ったかどうかなんて、仕上がったものからある程度判断できてしまうものではあるけれども、証拠なんてどこにもないでしょう?」
「なあんだ、そういうことね」
顔色の悪いアンヌマリーを笑わせようとして、マグダレーナがあえて明るい声でふざけてみせているのに、彼女は気づいていた。その気遣いがうれしかった。そして実際、話しているうちに、恐怖に凍りついていたアンヌマリーの心は少しずつ温まってきた。
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