14 / 88
本編(シーニュ王国編)
災厄の種 (8)
しおりを挟む
年若いシャルルが伝承を軽く見てしまうのはまだわかるが、そもそもそれが父王からの教えなのだと言う。決して迷信などではないと、リヒャルトは知っている。しかしそれを他国の王家に理解させるのは、彼の務めではない。シーニュ国王が迷信だと断じているのなら、もうそれがこの国の方針なのだ。
だからリヒャルトから報告を受けたオスタリア国王は、息子に一切の口出しを禁じた。
ただしオスタリア国王は、事前報告のために訪ねてきたクライン子爵に対しては意味ありげな笑みを浮かべてこうも言った。
「我が国としては、一切関与しない。しかし個人的な付き合いにまで口出しする気もない」
つまり、個人的に救いたい者がいるなら、自国に害を及ぼさない範囲であれば好きにせよ、という意味だ。
そこでクライン子爵は、シーニュには娘の友人がいて、その父である侯爵から数年前の疫病の際に助言を与えられて大変に助けられたことを国王に話した。だから今回、娘が婚約者に会いに行くのに付き添って、ついでにその侯爵にもきちんと挨拶してくるつもりだ、と。
疫病の際のロベールの助言は、クライン子爵からハーゼ伯を通じて、最終的には国王にまで上げられていた。その情報元がシーニュの侯爵だと知って、国王は目を見開いた。
「ああ。あのときの提言は、シーニュからもたらされたものだったのか。私からも感謝すると伝えてくれ」
「かしこまりました」
クライン子爵はこの件に関しては、国王に謁見する前にハーゼ伯とも話をしていた。ハーゼ伯が息子ランベルトから聞いている情報を確認しておきたかったからだ。
ハーゼ伯は「危機に瀕している恩人に対して、できることがあれば何でも支援する」と子爵に伝えた。それだけでなくその場で息子への書簡をしたため、子爵に託した。その書簡は、息子に対してできる限りのことをせよと指示するためのものだ。
クライン子爵はロベールに対して、こうしたオスタリア国側の事情を包み隠すことなく語った。
そして語り終わると、実直そうな顔に笑みを浮かべてこう締めくくった。
「ですから私に出来ることであれば、どんなことでもお力添えいたしますから、遠慮なく頼ってください。たとえ私の力及ばぬことであっても、ハーゼ伯と国王の口添えがあればたいていのことはかないます」
ロベールは、クライン子爵の申し出をありがたく受け入れた。ただし、申し出の後半部分には苦笑がもれた。
「国王陛下にまでお口添えいただいたら、国としてまずいのではありませんか」
「なんの、心配ご無用です。確かに国としては動けません。しかし陛下とて人の子です。臣下の恩人に『個人的に』手を貸すくらいのことは、少しもいといますまいよ。それをせぬほど恩を知らぬかたではございません」
ロベールはしばらく何かをこらえるような目をしていたが、やがて深々と子爵に向かって頭を下げた。
「たったあれしきのことで、ここまでしてくださるとは……。本当にありがとうございます」
こうしてクライン子爵とその娘マグダレーナは、しばらくの間、アントノワ侯爵邸に滞在することとなったのだった。
だからリヒャルトから報告を受けたオスタリア国王は、息子に一切の口出しを禁じた。
ただしオスタリア国王は、事前報告のために訪ねてきたクライン子爵に対しては意味ありげな笑みを浮かべてこうも言った。
「我が国としては、一切関与しない。しかし個人的な付き合いにまで口出しする気もない」
つまり、個人的に救いたい者がいるなら、自国に害を及ぼさない範囲であれば好きにせよ、という意味だ。
そこでクライン子爵は、シーニュには娘の友人がいて、その父である侯爵から数年前の疫病の際に助言を与えられて大変に助けられたことを国王に話した。だから今回、娘が婚約者に会いに行くのに付き添って、ついでにその侯爵にもきちんと挨拶してくるつもりだ、と。
疫病の際のロベールの助言は、クライン子爵からハーゼ伯を通じて、最終的には国王にまで上げられていた。その情報元がシーニュの侯爵だと知って、国王は目を見開いた。
「ああ。あのときの提言は、シーニュからもたらされたものだったのか。私からも感謝すると伝えてくれ」
「かしこまりました」
クライン子爵はこの件に関しては、国王に謁見する前にハーゼ伯とも話をしていた。ハーゼ伯が息子ランベルトから聞いている情報を確認しておきたかったからだ。
ハーゼ伯は「危機に瀕している恩人に対して、できることがあれば何でも支援する」と子爵に伝えた。それだけでなくその場で息子への書簡をしたため、子爵に託した。その書簡は、息子に対してできる限りのことをせよと指示するためのものだ。
クライン子爵はロベールに対して、こうしたオスタリア国側の事情を包み隠すことなく語った。
そして語り終わると、実直そうな顔に笑みを浮かべてこう締めくくった。
「ですから私に出来ることであれば、どんなことでもお力添えいたしますから、遠慮なく頼ってください。たとえ私の力及ばぬことであっても、ハーゼ伯と国王の口添えがあればたいていのことはかないます」
ロベールは、クライン子爵の申し出をありがたく受け入れた。ただし、申し出の後半部分には苦笑がもれた。
「国王陛下にまでお口添えいただいたら、国としてまずいのではありませんか」
「なんの、心配ご無用です。確かに国としては動けません。しかし陛下とて人の子です。臣下の恩人に『個人的に』手を貸すくらいのことは、少しもいといますまいよ。それをせぬほど恩を知らぬかたではございません」
ロベールはしばらく何かをこらえるような目をしていたが、やがて深々と子爵に向かって頭を下げた。
「たったあれしきのことで、ここまでしてくださるとは……。本当にありがとうございます」
こうしてクライン子爵とその娘マグダレーナは、しばらくの間、アントノワ侯爵邸に滞在することとなったのだった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
人の顔色ばかり気にしていた私はもういません
風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。
私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。
彼の姉でなく、私の姉なのにだ。
両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。
そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。
寄り添うデイリ様とお姉様。
幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。
その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。
そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。
※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。
※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。
※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる