7 / 88
本編(シーニュ王国編)
災厄の種 (1)
しおりを挟む
親愛なるマギーへ
今日は大変に衝撃的なお知らせから始めなくてはなりません。
あなたの婚約者ランベルトさまから、わたくしは一年後に死ぬ運命だとの予言を賜りました。ねえ、びっくりでしょう? しかも、いただいた予言はそれだけではないのです。父は何か大きな罪に問われるし、わたくしは妹を虐げたという理由で婚約を破棄されることになるのですって。
そう、わたくしが虐げるというのは、弟ではなく「妹」なのです。わたくしの聞き間違いではありませんし、もちろん書き間違いでもありません。ランベルトさまは確かに「妹」とおっしゃいました。わたくしには妹なんて、どこにもいないのに。
従姉なら何人かいますが、全員わたくしよりも年上です。どう頑張っても妹とは呼べません。だからランベルトさまがおっしゃることの意味が全くわからなくて、困ってしまいました。
ランベルトさまは、この予言の内容を父に話すようにとおっしゃいました。それも、何度も繰り返しおっしゃるほどの念の入れようです。でもあまりにも意味がわからなくて、どう話したらよいものやら悩んでいます。
あまり趣味のよろしくない冗談なのかとも思ったのですけれども、それにしてはなぜか不思議なほど必死そうでした。どう解釈したらよいのでしょう。あのかたとのお付き合いの長いマギーなら何かわかるのではないかと思い、こうしてペンをとった次第です。
そう言えばランベルトさまからは「未来を視る者」を知っているか、とも聞かれました。わたくしは聞いたことがありません。オスタリアの伝承か何かなのでしょうか。もしご存じなら教えてくださいませんか。
質問ばかりでごめんなさい。でもとても困っているの。どうか助けてください。
シーニュの空の下から愛を込めて
困惑中のマリーより
* * *
ランベルトからわけのわからない話を聞かされた日、学校から帰宅したアンヌマリーはまずマグダレーナ宛てに手紙を書いた。父に話すとランベルトには約束したものの、話の内容がいくら何でも荒唐無稽すぎて、どう切り出したものやら見当がつかない。だから悩みに悩んだ挙げ句、彼女は文通友だちに助けを求めたのだ。
もちろんランベルトとの約束を反故にするつもりはない。父には必ずきちんと話す。
けれども、彼は別に緊急の話だとは言っていなかった。だったら先にマグダレーナに尋ねてもう少し事情がわかりそうなら、父にはそれも併せて話すほうがよいだろうとアンヌマリーは考えたのだった。
実際、ランベルトが彼女をせかしてくることはなかった。それどころか、あのときの話を蒸し返すこともない。あれほど必死に、父に話すよう約束させたにもかかわらず、だ。これではまるで、アンヌマリーが白昼夢でも見たかのようではないか。
何だかいたずらな妖精に化かされたような心持ちにはなるけれども、彼女もランベルトにわざわざ自分からあの話のことを尋ねてみようとは思わなかった。たぶん何度聞いても、わけがわからないだけだろうから。
今日は大変に衝撃的なお知らせから始めなくてはなりません。
あなたの婚約者ランベルトさまから、わたくしは一年後に死ぬ運命だとの予言を賜りました。ねえ、びっくりでしょう? しかも、いただいた予言はそれだけではないのです。父は何か大きな罪に問われるし、わたくしは妹を虐げたという理由で婚約を破棄されることになるのですって。
そう、わたくしが虐げるというのは、弟ではなく「妹」なのです。わたくしの聞き間違いではありませんし、もちろん書き間違いでもありません。ランベルトさまは確かに「妹」とおっしゃいました。わたくしには妹なんて、どこにもいないのに。
従姉なら何人かいますが、全員わたくしよりも年上です。どう頑張っても妹とは呼べません。だからランベルトさまがおっしゃることの意味が全くわからなくて、困ってしまいました。
ランベルトさまは、この予言の内容を父に話すようにとおっしゃいました。それも、何度も繰り返しおっしゃるほどの念の入れようです。でもあまりにも意味がわからなくて、どう話したらよいものやら悩んでいます。
あまり趣味のよろしくない冗談なのかとも思ったのですけれども、それにしてはなぜか不思議なほど必死そうでした。どう解釈したらよいのでしょう。あのかたとのお付き合いの長いマギーなら何かわかるのではないかと思い、こうしてペンをとった次第です。
そう言えばランベルトさまからは「未来を視る者」を知っているか、とも聞かれました。わたくしは聞いたことがありません。オスタリアの伝承か何かなのでしょうか。もしご存じなら教えてくださいませんか。
質問ばかりでごめんなさい。でもとても困っているの。どうか助けてください。
シーニュの空の下から愛を込めて
困惑中のマリーより
* * *
ランベルトからわけのわからない話を聞かされた日、学校から帰宅したアンヌマリーはまずマグダレーナ宛てに手紙を書いた。父に話すとランベルトには約束したものの、話の内容がいくら何でも荒唐無稽すぎて、どう切り出したものやら見当がつかない。だから悩みに悩んだ挙げ句、彼女は文通友だちに助けを求めたのだ。
もちろんランベルトとの約束を反故にするつもりはない。父には必ずきちんと話す。
けれども、彼は別に緊急の話だとは言っていなかった。だったら先にマグダレーナに尋ねてもう少し事情がわかりそうなら、父にはそれも併せて話すほうがよいだろうとアンヌマリーは考えたのだった。
実際、ランベルトが彼女をせかしてくることはなかった。それどころか、あのときの話を蒸し返すこともない。あれほど必死に、父に話すよう約束させたにもかかわらず、だ。これではまるで、アンヌマリーが白昼夢でも見たかのようではないか。
何だかいたずらな妖精に化かされたような心持ちにはなるけれども、彼女もランベルトにわざわざ自分からあの話のことを尋ねてみようとは思わなかった。たぶん何度聞いても、わけがわからないだけだろうから。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる